16.少女の本当の気持ち
『ミィルフィーヌ。少し会えなくなるけど、大丈夫だね?私たちの娘なのだから』
虚ろな目をした両親がそう言って頭を撫でるのを感じながら、少女は頷いた。
本当は寂しくて仕方ない。どうして二人が行ってしまうのか分からない。
でも、愛する両親がそう言うなら我慢をしなければならない。
両親を見送った後、マリアに縋って彼女は泣いた。
まだ、大丈夫。こうやって、マリアが傍にいてくれる。
『大変申し訳ございません…お嬢様。少しの間お傍にいることが、出来なくなりました…。けれど、必ず戻りますので、どうかそれまで…。』
マリアが、悲しそうに少女に言った。
彼女は泣いてマリアに縋った。
いかないで、いやだ、一人にしないで…!
マリアも悲しそうにそれを受け止めるも、ただただ「申し訳ございません」と繰り返した。
『すぐに、出来る限りすぐに戻ります。』
そう言ってマリアも行ってしまい、彼女は一人になってしまったと思い込んだ。
だから。
『どうされたのですか、ミィルフィーヌ様?』
優しい顔をして近づいた大人の手を取ってしまった。
『旦那様も奥様も、ミィルフィーヌ様には期待されていますよぉ。だから使用人には厳しい態度をした方がいいです。それが貴族という立場です。』
マリアの教えてくれたこととは違ったが、お父様とお母様がそう言っているなら、きっとそうなのだ。
もっと厳しく、館の人には強く言わなきゃ。
彼女は屋敷で働く人々に冷たくあたるように我儘をぶつけた。
『屋敷のみんなが言うことを聞かない?ミィルフィーヌ様の立場を理解していないんですね。もっと強く言わないとだめです!今はあなた様がこの屋敷の主人なんですよ?』
エリーの言うとおりにしていると、エリーと仲の良い使用人は笑って褒めてくれる。
『ミィルフィーヌ様はすごいですね。素晴らしい方です、気品があふれています。』
彼女達の言うことを聞いていれば、一人ぼっちにならなくてもいい。
屋敷の他の人たちともっと仲良くなるためにも、もっと頑張らないと。それが正しいのだから、ミィルフィはまちがってないのだから。
『ミィルフィーヌ様、遅くなり誠に申し訳ございませんでした…。これからはまたご一緒にいさせてください。』
大好きなマリアが戻ってきてくれた!
優しい声でそう言ってくれマリアに、成長した自分を見てもらいたくて、館内を一緒に散策する少女。
いつものように、館で働く人を見つけては、わがままを言って困らせた。
ねえ、マリア。ミィルフィは大人になったのよ、屋敷のみんなもミィルフィをうやまっているわ。
エリーに教わった振る舞いをすればするほど、マリアは悲しそうな顔をした。
どうして、そんなかおをするの?
戻ってきたのに、これからは一緒にいられるのに、どうして前みたいに笑ってくれないの?
『ミィルフィーヌ様…無礼を承知して申し上げます。そのような振る舞いをされていらっしゃいましたら、ミィルフィーヌ様の周りに残る者がいなくなってしまいます。どうか、寛大な心をもって使用人に接してください』
マリアはいなくなったじゃない!
少女は泣きながらマリアを責めた。
教わった通りにしてたら、ひとりぼっちじゃなくなったもの。
マリアはいなくなったけど、エリーとメイドや使用人はいてくれたわ。
彼女たちはミィルフィのところへ来るたびに何かを欲しがったけれど、それでもひとりぼっちにはしなかったもの。
マリアは一層、悲しみをたたえた顔で少女を見た。
どうしてわかってくれないの!?
マリアなんかだいっきらい!!
『ミィルフィーヌ様!!』
マリアが伸ばしてくれた手は掴めなくて。
そうして彼女は踏み外した階段から落ちた。
うそよ、ほんとうはずっと、まってたわ。
マリアのこと、だいすき。
私は起きて自分の頬に伝う涙を拭った。
「全く…仕方ない子だね、ミィルフィーヌは」
ちゃんと聞いてる?
私の中にいるだろう、彼女に問いかけるように胸に手を当てる。
あなたのことも大事に思ってるからね。
ひとりぼっちだと泣いた彼女が、ひとりじゃないと思えますように。