14.魔法で作れる元気の薬
今日も魔法についての講義があり、教育室で座学から始まった。
「魔法もコントロールを失うと暴走してしまうことがあります。幼い頃はそのようなこともありますので、慎重に魔法は使いましょう…。」
先生が黒板に書くポイントをノートに写しながら、私は今朝のことばかり考えてしまった。
ミッドライトがあの塔を出てもいいと思ってくれるにはどうしたらいいんだろう。
外国について調べたり、確認したりすることは好きなんだと思う。
(ヨウギョク国について興味があったみたいだし)
塔の外がどうなっているかとか、気になっちゃって仕方ないものとか提示できればいいのに。
(なんだろう…可愛い動物とかかな。)
忘れそうなのでノートにメモ書きで、『可愛い動物』と書いておいた。
ちゃんと日本語で書いたので、先生は読めないはず。
(日本語で書いておけば暗号みたいになるのはいいかもしれない)
だめだ、読める相手がいない暗号は使えないよね…。
私はずっと悩ましい顔をしていたのだろう、先生が私のノートを見てくれた。
「大丈夫ですか?ミィルフィーヌ様。何か分からない点でも?」
危なかった!!日本語で書いておいてよかった!!
私は大きく首をふり「大丈夫です、先生!」と勢いよく返事をした。
ふと、先生ならどんな方法を思いつくのかと聞いてみたくなり、授業と関係ないけれど聞いてみることにした。
「あの、先生。私、元気になってほしい方がいるのですが、どんなことをすればその方に届くと思いますか?」
先生は口元に指をあて、少し悩まれた後に、笑みを浮かべた。
「ミィルフィーヌ様の魔法は『花の魔法』ですね?花の魔法は使える方がそう多くはございません。
それでしたらその魔法で、色とりどりの花をその方に差し上げるのはいかがでしょうか?」
アカリちゃんも花の魔法の使い手だから、母数が多いのかと勝手に思っていたが、花の魔法の使い手はそんなに多くないんだ…。
私は異世界の魔法事情に、そうなんだと豆知識を増やした。
(でもいいかもしれない)
ミッドライトがまだ見たことないようなお花を見せてあげれば、元気も出るかもしれないし、実際に生えてるのを見たくなるかもしれない。
(神社とかにある大きなご神木とかも、見たら感動するし!)
私はそのプランがすごく魅力的に思えて、ちょっと元気が出た。
「先生、とても参考になりました!ありがとうございます。」
先生は笑って、「いいえ、いいえ」と言ってくれた。
「本日も休憩の後は、実践についての講義をいたしますので、美しい花を届けられるように頑張りましょうね。」
「はい!頑張ります!!」
私は元気よく返事をした。
実践授業はやはり庭に移動し、実際の植物への魔法をかけて行った。
「前回のおさらいでございます。少し元気がなくなった植物を、生き生きとした状態に戻してみてください。」
少ししおれたお花が咲いていたのを見つけると、先生は私に「どうぞ」と声をかけた。
私は前回を思い出し、手を組んで目を瞑る。
よくよく考えるとこのポーズも恥ずかしいのだけれど、手を伸ばして「緑よ!」っていうよりはましである。
『元気になあれ、元気になあれ』
心の中で唱えながら、前回と同様に、ふっ、はっ、はー!と気合を込める。
(現代のメイドさんが唱えそうな呪文だわ…)
やはり、何かが流れたのを感じて目を開けると、目の前のお花は生き生きとしていた。
よかった、ちゃんとできた!!
中身が私だったとしても、ボディがミィルフィーヌだからちゃんと魔法も使えるのだろう。
「では本日は、植物から薬を抽出する魔法を使ってみましょう。」
魔法で薬が作れるなんて、異世界、なんて便利なのか…。
先生が用意してくれた植物があり、籠の中に山盛りになっていた。
「こちらは薬草です。」
『何の』とかはないのかな?
先生はそのまま説明を続けてくれた。
「こちらから薬をお作りいただきます。いつものミィルフィーヌ様の祈りのポーズでございますと、うまくいかないかもしれませんので、どうぞ手を触れて祈ってくださいませ。」
…避けてきた、「緑よ!」のポーズを取らなきゃダメなんですかね…。
いや!でも大丈夫!触れてればいいんじゃないかしら!?
私はぺたりと両手で薬草に触り、そのままいつものように、ふっ、はっ、はーっ!!のリズムを思いうかべる。
(薬に変わりますように…)
すると、薬草はどろりと形を変えて、光る液体になり宙に浮いた。
私の知っている化学じゃないわ!
「ミィルフィーヌ様、素晴らしいですね!」
先生が小瓶を液体の下のテーブルに置くと、お行儀よくその小瓶の中に液体が入っていった。
どうなっているの…この液体…。
「先生、この薬草は何に効果があるんですか?」
せっかくなので、先生に聞いてみると、先生はにっこり笑って答えてくれた。
「はい、こちらの薬草は滋養強壮によいですよ」
私は今、魔法で栄養ドリンクを作ったんですね。いいですよね、元気になりますよね。
先生に出来上がった栄養ドリンクを飲んでいただき、さらに実践を重ねて、今日の魔法の授業を終えた。