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12.記憶の中の私の故郷

翌朝また早く起きて、自分で着替えて、髪を束ねた。

(今日は三つ編みにしよう。)

鏡の前で反転する自分の像を見ながら、ピンクの長い細い髪を三つ編みに編む。

マリアがやってくれるみたいに手の込んだ髪型ではないが、可愛くできた。

「よし!」

私はクッキーの袋を持って自分の部屋をそっと出た。


今日も天気がよく、朝早い時間だけ感じる気持ちよさを十分に感じることができた。

(ミッドライトは今日も起きているかな…)

私は歩きながら考える。

ただ、彼の性格上、規則正しい生活をしていそうな気がするので、前回と同じ時間であれば起床しているんではないかと思う。

持ってきたクッキーをいれた籠を見ながら、どのようにして渡そうか想像する。

受け取ってくれるなら、霧の魔法でなんとかなるのかな。

マリアと一緒に作ったクッキーは昨日味見したところ、おいしく出来ていたので食べてもらえたら嬉しい。

(…早く一緒のテーブルで食べられるように頑張らないと)

ミッドライトとミィルフィーヌのティータイムにマリアのクッキーを食べながら、たわいない話をする。

早くそんな時間が過ごせるようになりたいと思う。

私は両腕に力を込めた。

出来ることを精一杯やっていこう。


そうして尖塔の入り口に立ち、念のため扉を確認していたがやはり開いていなかった。

(開いていれば入ったのに…)

残念に思ったが仕方ない、想定通り外からミッドライトに声をかけるのだ!


朝の時間から大声で呼ぶのはやはり心が引けるので、まずは小さく声をかけてみようと思う。

周りはとても静かだから、小さい声でも届くかもしれないし!

「すみませーん、すみませーん」

私の声が朝の空気に溶けるだけで、塔からの返事はない。

「すみませーん、あのー!」

小さめの声で続けるが、気持ち声のボリュームを上げてみる。

…安眠妨害をしてたら嫌だなあ…申し訳なさすぎるし…

「すみませーん!!」

何度か声をかけても何も反応はなく、私は困ってしまった。

こっちの勝手で朝も早くに来ているし、なんとなく勝手に起きてる想定してたけど、

起きていないこともあるよね…。

また後で来ようか、もう少しだけ待ってみようか。

私は塔の周りを行ったり来たりとぐるぐるしだした。

その動きは、何となく野生動物のような様相だったんじゃないかと思う。

小さいころに読んだ、ぐるぐるした結果バターになったトラの話を思い出した。

(また後で来よう)

私はしばらくぐるぐるしていたが、そうしていても仕方ないと思い、くるりと塔に背を向け、来た道を引き返そうとした。


「ここには来ないようにと言ったよね?」

涼やかで艶のある少年の声が響き、私は振り返った。

わー!返事が来たー!!

嬉しくなって声をかけようとしたが、同時にハッとして止まる。

(これ、起こしたパターンじゃ…。)

育ち盛りの前で騒いで、安眠を妨害するなんてやってはいけないことでしょう!?

「すみません…起こしてしまって」

そう謝ると、返事が返ってくる。

「…寝てはいなかったからそれは構わない。そうではなくて、もうここには来ないようにと前にも言っている。」

安眠妨害したんじゃないと言ってくれるならちょっと救われるな、いい子だ…!

「それはできません!また来ますと言いました!今日もお話してもいいですか?」

自分勝手もいいとことだが、ここに来ないというような約束は絶対にできない。


ミッドライトからの返事がないので、続けてもいいということですね、と前向きに判断し私はその場に座った。

前回は気が付かなかったが、よく見れば尖塔の前の芝も綺麗に揃えられている。

彼の周りを整えるために人が動いているのだと思い、また少し安心できた。


「えっと、こないだは好きな食べ物と、好きな動物と嫌いな食べ物の話をしましたよね。あなた様の好きな食べ物はなんですか?」

上に向かって声をかけるが返ってこない。

「…好きな食べ物、何ですかー!?」

私はちょっと声のボリュームを上げてもう一度聞いた。

(聞こえてなかったのかもしれないし!)

ポジティブにいこう、ポジティブに!!

「…聞こえている。」

ちょっとあきれたような声が返ってきたが気にしない、ポジティブ!

「好きな食べ物なんて…ああでも、甘いものは好きだな。考え事をしているときに食べるといい。」


ミッドライトの好きな食べ物いただきました!やりました!

しかも甘いものなら、ちょうどよくクッキーを持ってきましたよ!

私は座りながらガッツポーズを繰り返した。

「あの、今日はこの間のクッキーのお礼に、私クッキーを作ってきたのですが食べてもらえませんか?」

「…クッキーを…?」

ミッドライトはいぶかしげな声を上げて黙ってしまった。

甘いものが好きならいいんじゃないかと思ったけれど…。

私は上を見上げながら返事を待っていたが思い当たったことがあり、青くなった。


よく知らない人の手作りのお菓子とか怖すぎない!?


こっちが一方的に知っているし、何なら立場としては妹だし、クッキーを上げたりしても問題ないと思ったけど(なんなら私も貰っちゃったし!)、よく考えたらそんなものもらっても困るよね。

ミッドライトは私が妹のミィルフィーヌだってことを知らないわけだし!


「いや!あの!間違えました!!!私の家のブロッコリーを探ってきたので、述べてもらえませんかと、そう聞きたかったんです。クッキーなんてありません!!」

自分でも何を言っているかわからなかったかったが、そのまま進めるしかない。

「実家の畑のブロッコリーが美味しそうにできたので、あなた様に感想を述べてもらいたくて、あの、おいしそうですねって」

食べ物なんて作ってきてませんので大丈夫です!


「…君は庭師のアルベルトの孫なのだろう?実家の畑とは…?」

(しまった設定忘れた!!!)

「そうです、孫です!孫のチヨです!でも、あの外孫なんです!!」

そもそも異世界にブロッコリーはあるのか…!?


そのまま会話が途切れてしまい、なんとも言えない空気が流れる。

(インフォメーションの時はもっと上手に人と話せた気がしたけど!?)

仕事モードじゃないと、こんなに会話下手なの私。


「…君はヨウギョク国から来たのか?」

わああああ!素晴らしいパスをありがとうございます、お客様あああ!!

「そうです、はいそうです!!」

ヨウギョクコクがよく分からないけど、とりあえず頷いた。

「そうか、チヨという名前もあの国の響きだと思ったんだ。しかし、アルベルトにヨウギョク国の家族がいたなんて知らなかった。」

ミッドライトか静かにそういうのを聞きながら、私は記憶がよみがえるのを感じた。


…そうだ、ヨウギョク国。

ゲームの攻略対象に、ヨウギョク国出身の侍の男の子がいた。

そういえばアカリちゃんもヨウギョク国のハーフとかだった気がする…。


東の島国『ヨウギョク国』はスメラギが治める、独自の文化を遂げた国で、

美しい四季を持つ、山と海に囲まれた国。


めちゃくちゃ日本じゃん!

そうやって当時プレイしながら笑った。


「僕も少しヨウギョク国について調べた事があるんだ。どんな暮らしをしていたのか教えてもらえないか。」

ミッドライトの声は、いつもと少し異なり、はしゃいだような少年らしい雰囲気があった。

ヨウギョク国ではなく、日本の話しかできないけど、そんなに変わらないだろうと前世の話をすることにした。

どんな暮らしをしていたのか…。


「水と自然が豊富で、とてもきれいな国です。嫌なところがないわけではないけれど、私はあの国が好きでした。」

毎日仕事をしながら、一人で頑張ってた。

でも実家に帰れば、家族が出迎えてくれた。

「今は一人暮らしですが、前は家族と一緒に住んでいました。あの国では家族単位で暮らすことが基本です。父と母と妹と私と、大きな白い犬を飼っていました。父と母は優しくて、いつも愛してくれていた。妹とは幼いころは喧嘩ばっかりしてたけれど、大きくなるにつれていろんな話をして、とても仲良くなりました。犬も懐いてくれていて、私が家に帰ると嬉しそうに近寄ってきてくれました。」


『千代、次はいつ帰るの?いつでもご飯を食べにおいで』

お母さんがそう言ってくれた。

『また、次のお休みに帰るね。』そう約束して別れた。


でも、もう、帰れない。



「…チヨ?」

塔の上からミッドライトの声が聞こえた。

でも、今は声を出せない、だってばれてしまう。

(勝手に話して、勝手にこんなになって、変な人じゃん)

自分よりも小さな子前で、恥ずかしい。

「…なんでもないですよ」

私は声が震えてないのを確認して話す、大丈夫、私は大丈夫。

それなのに、目の前が滲んでしまう。


「話を聞かせてくれてありがとう、チヨ」

ミッドライトの声とともに、この間と同じように水のベールに乗って、きれいな花が降りてきた。

「君の話に値するとは言えないが、すこしばかりのお礼として受け取ってほしい。」

私が手を出すと花は重力を取り戻したように、ふっと手の中に落ちた。

お礼を言おうと上を向くと、目に溜まったしずくが流れてしまった。


そんな私の頬を撫でるように風がそよぎ、私の涙を宙に浮かせた。

まるで誰かが拭ってくれたみたいに。


「それから僕はとてもお腹がすいている。甘いものがあったら食べたいのだけど、何かあるかい?」

突然のフリに私はおかしくなって笑った。…この子は本当にいい子なんだ。

私は自分で目をこすると叫んだ。


「クッキーを作ってきたので、よかったら食べてください!!」

私が手を上にあげると、クッキーが風船のようにふわふわと上昇していった。

上を見上げると太陽の光がとてもまぶしく見えた。

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