星座はなかなか出会えない
『第4回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』にて指定されたキーワードを全ていれてあります。
天才/缶コーヒー/えんぴつ/ランドセル/量子力学/
星座/夏祭り/チェックメイト/ひまわり/おふだ/
体育祭/ポーカーフェイス/屋根裏
「あれが夏の大三角形だよ」
夜空を指差して10歳の夏姫が言った。
「織姫星、彦星、デネブ。ベガの織姫とアルタイルの彦星は1年1回、七夕しか会えない」
「なんか僕たちみたい」
来年4月には僕たちはバラバラになってしまう。
夏姫と僕は家族同士でキャンプに来ていた。ログハウスの屋根裏部屋から空を見た。小さい窓が付いている。
「北海道と神奈川は織姫星と彦星より遠い気がする」
二星の距離は14.4光年。北海道と神奈川では比べ物にならないけど『会えない』って点では一緒だ。
「次に会うときはお互い変わらないでいられるかなあ」
「そうはいかない。北極星だっていつかは別の星に変わるんだから」
「ほんとに?」
「今はポラリスだけどね。1万1千5百年後には時計で言うと12時から6時くらい北極星は移り変わるよ」
「何になるの?」
「織姫星だよ」
◇
写真を送りあった。
新しい学校前でランドセルを背負う夏姫。流行っている変わったえんぴつ。
中学受験をする夏姫に「おふだあげようか?」と書けば「お守りでしょ」と笑顔の絵文字。一緒に関東限定の缶コーヒーを送ってあげる。
高校生になって北海道旅行を計画したら今度は夏姫がアメリカへ行ってしまった。
連絡がスマホになる。
夏姫は体育祭のハチマキを見て日本を懐かしんだ。
チェスの動画を送ってくれた。チェックメイトする夏姫の姿にスマホの向こうで拍手を送る。
ジェットコースターでポーカーフェイスのまま落下する僕の写真。進んだ大学の『量子力学』の本。
「難しそう! 天才じゃない?」と言ってくれた。
夏休みに行こうとしたら今度はコロナ禍がやってきて日本から出られなくなってしまった。
星座は、なかなか出会えない。
ようやく2人が再会したのは実に14年4ヶ月後。僕も夏姫も24歳になっていた。
僕は怖気付いた。北極星だって、時が経てば移り変わるのに僕たちの関係が変わらないわけないじゃないか。
七夕の夏祭り会場で僕たちはおちあった。
商店街を埋め尽くす七夕飾りの向こうから黄色いワンピースの女の子が一目散に走ってきた。
「辰彦!」
僕に抱きつく。
ひまわりのような彼女の笑顔を見て、時間なんか、距離なんか何の関係も無かったと思い知った。
僕は夏姫を抱きしめた。
「彦星にたどりつくのに14年4ヶ月もかかっちゃった」
「でももう離さない」
「うん」
1万1千5百年ほど早いけど、僕の北極星はこと座の織姫星だ。
僕の頭上で不動の星として輝き続ける一等星だ。
■北極星とは、北側の極星【ポールスター】のこと。天の北極に最も近い輝星を意味する。地球は回転するが地軸は動かないので見かけ上、動かないように見える。
(長時間シャッターを開けて撮影すると星々は円を描いて見えるが、北極星だけは点のままでほぼ動かない)
『北極星』という名前の星があるわけではない。『北極星』は役割名である。(『佐藤』が名前で『部長』が役割名といったように)
現在『北極星』の役割をしているのがこぐま座α星【ポラリス】
■歳差運動により天の北極が移動する。つまり時間が経てば北極星の役割を担う星は変化していく。あたかも時計の針が12時から1時へ1時から2時へ指す時間を変えていくように、その時その時の『北極星』は移り変わっていきおよそ25,800年で元の星に戻る。
(ただし時計は右回りだが、北極星の変遷は左回りなため、時計でいうと12時から11時へ、11時から10時へ逆行した動きになる)
■歳差運動は独楽の動きを考えるとわかりやすい。コマは素早く回転しながら、軸自体もゆっくり方向を変える。その軸の動きに当たるのが歳差運動。
【現在の北極星】
西暦2,100年頃に天の北極に最接近するーこぐま座α星【ポラリス】
【未来の北極星】
西暦4,000年頃 - ケフェウス座γ星【エライ 】
西暦6,000年頃- ケフェウス座β星【アルフィルク 】とケフェウス座ι星
西暦7,800年頃 - ケフェウス座α星【アルデラミン】
西暦10,200年頃 - はくちょう座α星【デネブ】
西暦11,600年頃 - はくちょう座δ星
西暦13,500年頃 - こと座α星【ベガ】
西暦26,000年頃 - こぐま座α星【ポラリス】→現代と同じ星が北極星となる。
夜空に描かれた円を左回りに一周するように北極星は変遷していく。
【動画で歳差運動について理解したい方はこちら】
ワンポイントプラネタリウム 「地球の歳差運動」 https://youtu.be/RjHpJqlZGJo
☆☆日間32位☆☆感謝です☆☆