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第八界—1 『黄泉ノ鎧』


——


 黄金 黒姫の自宅……御屋敷、そのダイニングルーム。朝日 昇流はカーテンの隙間から僅かに射し込む月明かりを浴びていた。ふかふかの背もたれを持ち、豪華な装飾を纏う椅子に腰掛け……食事の際に使うロングテーブルに腕を置きながらも特に何かを口にする事は無く、ただ呆然と……何もせず、染み込む様に月の光に照らされるテーブルクロスを見つめている。


「明日の朝……か」


 アーマードワールデスを打ち倒し、黒姫の屋敷に帰還した後——

 ナイトに呼び出され、俺は言われた……あの言葉、俺の中の疑問、今現在最も気になっている事を明かすという宣言をされた。


『明日の朝、俺の正体……そして世界の崩壊、その真相についてをお前に教える』


 ナイトはそれだけ言うと俺の元から離れ、廊下の曲がり角の中へと姿を消し……それ以来俺の前に姿を現さない。ナイトの正体……に関してはワールデス”だった”何かではあると予想出来るから別にいいとして、世界の崩壊の真相を知れる。その事についてはその時も、今も歓喜とは少し違う、好奇心の生み出す高揚感に包まれている——のだが。


「ぜんッ……ぜん眠くなんねぇ」


 その興奮が仇となり、俺の瞼が重くなる事は無く、むしろその目は冴えていた。今どき小学生だって遠足の前日に眠れないなんて事は無いだろうに、俺は18になっても未だ自身の高揚と睡眠欲を制御出来ていないらしい。


「はぁ……」


 湧かぬ睡眠欲と中々来ない朝——世界崩壊の真相について知れる時にため息を吐いた時だった。


「どしたのこんな時間に起きて……もう2時だよ」

「黒姫か……どうしたのって……そっちも起きてるじゃんか」


 月に照らされていたテーブルに影を作り、現れた黒姫の声によって俺の意識は世界崩壊の真相への興味……その事から引き離される。


「誰にだって寝付きの良くない夜はあるよ」

「なら俺もそうだ。俺も寝付きが悪かったから起きている」

「へぇ……アーマードナイト——ナイト、夜の名を持つ鎧の中身だっていうのに眠れない夜なんてあるんだ」


 黒姫はそんな言葉を、特に深く考える様子は無く連ねながら俺の隣の席に着く。


「関係ないだろそれ」

「てきとーに言っただけだから気にしないでよ……寝付けないだけで眠いからさ、頭ぼーっとしてるのもあるし」


 そう答えると黒姫はテーブルにうつ伏せになり、しばらく黙り込む。俺も黒姫と同じ様に口を閉ざして、ダイニングルームには沈黙が流れ出した。

 気まずい沈黙ではなく、のんびりとした……戦いの終わった後の平穏を感じさせる様な、そんな静寂が月の光と共に俺と黒姫を包む。


「散歩しよっか。暇だし……それに全てのワールデスを倒して、もう何かに襲われる様な事だって無い訳なんだしさ」


 黒姫は起き上がり、静寂を破ると共にそんな……平和への欲求を感じさせる提案をした。

 黒姫のその声は平穏な世界、その中の平和な日常……そのまたその中の平安な時間。それを謳歌したい——と、そう言っている様に聞こえた。


「そうだな……俺も久しぶりに一切の危機感無しに、安心しながら外を歩きたい……夜風を浴びたい」

「決まりだね」

「行く……かぁ」


 黒姫はその回答、同意の言葉を聞くとすぐさま立ち上がり、廊下の方へと歩を進める。

 俺を黒姫に続き立ち上がり、そしてテーブルに背を向けた……カーテンの、その隙間に身体を向けた時だった。


「……あ?」


 廊下に向かおうとする身体はその動きを思考と共に完全に停止させた。俺の脳は完全に機能を停止し、ただ目の前の……微かに揺らめくカーテンの狭間、月明かりに満たされた煌めきの中に存在する”それ”を見つめる。


「ッ!? 白……」


 思考が再び頭の中を巡り始め、肉体が動作を再開した時にはもう”それ”の姿は無く、1度も目を離していないというのに消失のタイミングを認識させない”それ”はまるで幽霊——黄泉の者の様に思えた。


「気の……せいだ、そう……見間違いに決まってる」


 俺は自分自身に、朝日 昇流に言い聞かせてる様に呟き、そして廊下に向かい歩き出す。


「有り得ない、有り得る訳が、有り得ていいはずがない……」


 さっき俺がカーテンの先に見た者……いや見間違えた、”それ”は——


「もういないんだ。ワールデスは……もう人智を超えた様な、そんな事象は起こりやしない……だから現れるはずがない……!」


 心の世界で出会い——再開した時の姿をした……緑煙 白波の姿をしていた。

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