第七界—4 『鎧ノ開界』
「ッ……なんでアーマードバトラーが……私が私以外に居るの……!?」
黒姫は目の前の光景、視界の中央に描写されたアーマードバトラーの姿に困惑し、理解出来ないという風に声を震わせる。
「コピー……模造品か?」
「その通り、模造品の模造品だ。やはり当事者よりも第三者……と言えるかは分からないが外野の方が冷静に状況を判断出来るな」
アーマードワールデスは上半身を大きく、深く反らし、人差し指を向けて俺の推測……というより勘が正解であると、言葉と共に動作で示した。
アーマードの模造品を作り出し、そして召喚、使役する力。
それがアーマードワールデスの開界により開放されるモノ──
「今の……なんだ?」
何か引っかかる。
アーマードワールデスの言葉、その中には違和感が存在していた。
一字一句記憶しようとして、集中して聞いていた訳ではないのでどんな単語が違和感の……この喉に引っかかた魚の骨の様な気持ち悪さの正体であるかは分からない。
だが、絶対におかしな、異常なワードが発言の中に含まれていたとそう確信し、断言する事が出来た。
「君は今、何かがおかしい、何かが引っかかる……そんな気持ち悪さに襲われているな?」
「ッ……」
図星である。
すぐに言い当てた所見るにおそらくわざと、初めから違和感を感じる様に文を作り、発言したのだろうか。
「その違和感の正体は開界の宣言についてだ。私はまだ一度も鎧ノ開界を声にしていない……だというのに何故既にアーマードバトラーを召喚出来ているのか……だろう?」
「そう……なのか?」
「あぁそうだ。君が感じた違和感不快感不安感はそこから来ている。間違いなく、絶対に、疑う余地もなく……な」
無理矢理、勢いで言いくるめられている様な気もする──だが、言われてみれば確かに俺は開界の宣言を、鎧ノ開界という言葉を耳にしていない。
なのに何故開界による能力、によるアーマードバトラーの召喚が行われているのかは気になる、興味が湧いてきた。
「まぁ答えは単純で、蓋を開けてみれば正直拍子抜けな真実なのだが……それでも知りたいか?」
「さっさと答えろ」
「この世界、惑星に訪れてすぐ、君達と接触する前に開界をしていた──ただそれだけの事だ」
確かにそれなら説明がつく……というか他の理由なんて無いだろう。
アーマードワールデスの言う通りなんてことのない、当然の、当たり前の答えであった。
だが……その答えを知って、しっかりと納得したはずだというのに俺の心からこの違和感は消えてくれない。
違和感の正体は開界の事ではないのだろうか……もしそうだとすれば──
「ッ……! 模造品の──」
直感的に脳内に浮かんだ……思い出された単語を口にし呟いた──その瞬間だった。
「リベラァァァアぁああ!」
アーマードバトラーが咆哮を放ち、黒姫に向かって走り出す様な素振りを見せる。
直前までは大人しく、一切の動作を見せずに棒立ちのまま黒姫と見つめ……睨み合っていたといのに、突然、まるで俺の言葉を遮るかの様にして行動を開始した。
「リベッ……!」
「私のスピード!?」
「摸造品っても性能は本家と変わらずか!」
アーマードナイトの、人間のものを遥かに凌駕する動体視力を持ってしても認識出来ない速度を人間の肉眼で捉える事など出来るはずはなく、次の瞬間にはもうアーマードバトラーの姿は俺と黒姫の視界から消失する。
「ッ……どこに行っ──」
「上だッ……死角に移動している!」
アーマードバトラーは黒姫の真上、彼女の死角、赤い天井と衝突する間際に移動していた。
そしてその両手は無駄と言えてしまう程巨大なベッドとタンスが掴んでおり、これから何が起こるかは想像に難くない。
「ラアァァァア!」
「ッ……」
「黒姫!!」
アーマードバトラーは下方向に、黒姫に向けてベッドとタンスを投げ下げる。
その2つの家具──投げ道具は黒姫の脳に回避という思考が浮かぶ前に彼女の元に到達、衝突し、衝撃音が激しく轟いた。
「リベァッ……」
黒姫の上に積み上げられた残骸の山を眺めながらアーマードバトラーは降下する。
ゴミの山の隙間から黒姫の姿……残骸は見えない。
だが状況、過程だけを見て、俺も、アーマードの2体も黒姫の死亡という結果を確信していた──だが。
「リギィ……!?」
「ガワが同じでも貴方の中身は私じゃない……私ならちゃんと目視で死亡確認して、念のため死体撃ちするからね」
残骸の中から黄金の閃光、バトライルブラスターの光線が放たれ、アーマードバトラーのバイザーに傷を付ける。
「リベェ……!」
「というか来るの遅すぎない? 大分ギリギリだったよ」
「ワールデスの存在に気が付いてすぐに最大速度で来たのですが……」
「気付くまでが遅い……まぁいいや間に合ったんだし」
着地したアーマードバトラー……傷物の鎧は、残骸を押しのけてその中から姿を現した本物のアーマードバトラーを強く睨む。
睨む……とは言ってもあくまで動作、真似もしているだけであり、傷の下に目はなく、鎧の中はただの空洞となっていた。
「さてと……それじゃあさっさと砕こうか……私の鎧の模造品さんを!」
「リベラァァァア!」
同一の鎧はそれぞれ、互いに向かい突進する。
そして2体が衝突した瞬間……鎧と鎧はその姿を消失させ、壁には大きな破壊痕……巨穴が生み出されていた。
おそらく人の肉眼では認識出来ない刹那の間に行われた戦闘の流れでどちらかが投げ、どちらかが屋敷の外へと追放されたのだろう。
「無事か朝日」
「ナイトか……俺は別に大丈夫、まったくの無傷だ」
ナイトはどこからか姿を現し、俺の斜め後ろにに、いつものポジションに浮遊する。
黒姫もバトラーにクレームをしていたが来るのがあまりにも遅すぎる……というかピンチが訪れるのを待っていたのではないかと勘ぐってしまう。
「久しぶりだなぁナイト……鎧としての生活は楽しんでいるか?」
「少なくともお前達と世界を開いていた頃よりは楽しませてもらっているな」
ナイトは敵意を込めて、それに対してアーマードワールデスはフレンドリーに、旧友との再会を喜ぶ様にして会話する。
これまでのナイトとワールデスの会話を思い出してみると、アーマードワールデスもそうだがワールデスからナイトへの嫌悪、敵対心の様な感情は特に感じなかった。
となると……ナイトがワールデスを裏切ったのは関係の悪化が原因ではないのかもしれない。
「そんな睨むなよ。今は敵とはいえ昔は──」
「世間話はいい……さっさと戦闘始めるぞ」
「あぁそのことなんだがなぁ?」
旧友との会話を断ち切り、戦闘を始めようとする。
だが、アーマードワールデスは指を弾き、鳴らして戦闘開始への流れを掻き消した。
「せっかく開界したというのに──」
「朝日ッ! こいつさえ倒せば全て終わりになる! この戦闘だけは長引かせるな!」
「ッうおぉ!?」
ナイトはアーマードワールデスの言葉を遮っただけではなく、俺の『アーマード』という戦闘開始の宣言を聞かず、一方的に俺と融合しアーマードナイトとなる。
ナイトを纏った瞬間、ナイトの焦りの様な感情、急かす感覚が俺の中にも流れ込む。
「よくわからないけどとにかく急げばいいんだッ……ナアァァア!」
流入してきた感覚に従い、全力で床を蹴り飛ばし、アーマードワールデスに向かい跳躍混じりの全力疾走をする。
床は砕け、木片は後方に突き刺さりちぎれたカーペット残骸は宙を舞う。
先程の壁の破壊、そして今の跳躍による床と壁の損傷……もう黒姫の部屋は原型を保ってなどいなかった。
「ッ……いやここまま行く!」
一切の動作、何かをする前兆を見せないアーマードワールデスの姿を見て、バトライルブラスターの光線を防いだ時と同じ様に何か仕組んでいるのではないかという不安に襲われる……嫌な予感がする。
だが行動しなければどうにもならない。
勝利も敗北も、幸も不幸も訪れやしない。
そう思考し、疾走を継続して……そして拳を強く握り締める──
「ッ……」
だが……行動するという決意も空しく、俺の予感は的中する事となった。
「氷ッ!? ッ……くそいない!」
「逃がしたか……!」
床全体が突然分厚く硬い氷に覆われ、両足からは自由が奪われる。
驚き、反射的に下を向く……それはつまりアーマードワールデスから目を離してしまった、という事であった。
目線を戻した時にはもうアーマードワールデスは俺対達の前から姿を消しており、その状況にナイトの焦燥は加速させられる。
そして……アーマードワールデスが仕組んでいたトラップは足止めの氷だけではなく──
「ッ……今度は何だ!?」
「これはッ……! 今すぐどんな手を使ってでもここからッ──」
何の前ぶりも無く、突如として赤い……恒星、地球を照らし恵みを与える太陽の様な球体が俺達の前に現れ、人魂の如く浮遊する。
ナイトはその球体を認識するとすぐに逃亡の意思を示す……だが時すでに遅し、球体が現れた時点で攻撃を受ける事は確定していた。
「づおぉぉあッ……!?」
球体は一気に膨張、超新星爆発の如く破裂し……閃光を放ち……周囲の全て──氷、黒姫の屋敷を粉砕して塵と化させ……そして溶解し消し去る。
溶ける瞬間アーマードナイト以外の全ては橙色の輝きを放ち、灰色の町には一瞬だけ疑似的に、小さな太陽が生み出された。
その爆発によりアーマードナイトの鎧は全身の各所を溶かされながら大きく吹き飛ばされ……
「ぐがあぁ!」
青い空の下……冷たい風を切り裂きながら舞う。
鎧に付けられた僅かな傷から入り込む風が肌に触れ、思わず身を震え上がらせてしまう。
そしてショッピングモールの屋上に墜落し、新築の綺麗な、白紙の地面に大きな傷を付けた。
「あッ……ぐ! お前ら……だな? さっきから色々仕掛けてきやがってるのは……!」
よろける体を無理矢理起き上がらせ、遠のく意識を前に向ける。
その視線の先にはそれらが、2体の鎧が存在し……仲良く並び立っていた。
「爆裂……猛烈……豪……烈」
「言います……ッて言います」
内部で花火を打ち上げているかの様に火花を隙間から放出する鎧。
全身から白い冷気を漂わせ、周囲の空気、地面を凍り付かせる鎧。
相反する……真反対の性質を持つ2体の鎧……それぞれが発する熱気と冷気は蜃気楼を起こし、周囲の景色、そして2体の背後に映る青空を歪ませていた。
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