5.幼なじみ。
前回の出来事: 仲間から離脱して村に先回りした。
「誰?」
ライザだ。
ライザは窓辺で編み物をしていた。
ただの村の娘とは思えない、相変わらずの美少女ぶりだ。
おれの理想、恥ずかしがりで奥ゆかしい、花のつぼみのような少女がそこにいた。
「――っ、レンジ。レンジなの? 帰ってきたのね。ムータにはあった? ムータあなたの事とても心配してたわよ」
「……いや、俺はあんたのことを知らない。レンジというやつも知らない。ただこの村に危険が迫っていることを知らせにきた」
(何故すぐバレる?)
ちなみにムータは俺が人間だったの時の弟だ。
ライザは村長、つまり準貴族の娘。
俺たち兄弟とは身分違いの存在である。
……ライザと弟はおそらく好き合っていた。
俺に対する態度はそのおかげか親しみを感じるものだった。
弟とは違って醜男なんだがな。俺は。
かつての俺は、けして届かない存在であるライザに優しくされ、叶わぬ恋心を抱いた。
だが分不相応だとすぐに覚った俺は彼女に対する気持ちを即手離した。
弟は逆にたまらんだろうな。
手が届いてしまいそうな位置にいるだけに。
「なぜお面なんかで顔を隠しているの? 怪しいわ。とって見せなさい。それにその服はレンジが着ていた服じゃない。バレバレよ」
「 」
花のつぼみのような高貴で儚げな少女はどこにいった。
いつの間に気の強そうな獰猛な小動物に変わっていた。
時が経つということは、こういうことか。
……それにしてもなんて面倒くさい人間の小娘だ。
すぐに犯して殺してやろうか!
いや、そうじゃない。
俺はこの少女を助けないといけないんだった。
(《特殊化粧》)
「ほらよ」
「――――っ」
とっさに思いつき、素早くスライムの技で仮面の下にニセモノの酷い傷を造り、目の下あたりまで見せてやる。
驚いているライザ。
どうだ、醜いだろう?
よし、うまくいったぜ。
「この面はこの傷を隠す為のものだ。この服がその誰かさんの物に似てるというならそうかも知れない、勝手にこの村の外れの家で借りたからな」
「……」
「ライザ。時間がないんだ。この村が怪人の集団にもうすぐ襲われる。怪人の噂は聞いているか? 村人全員皆殺しになってしまうだろう。女は犯された上に無惨に殺される。お前だけでも逃げるんだ」
ライザ以外がどうなっても構わないからな。
しかし、ライザは意外な反応を見せる。
「何を言ってるの? もしそれが本当なら村の皆に知らせなきゃ! 冒険者と村の男に知らせて村を守らないと。女性と子どもを避難させないと――っッ!!」
ライザは、家の奥に、足音をパタパタさせながら行ってしまった。
先ずは家人に知らせに行ったのだろう。
そしてあの勢いのまま冒険者の詰所まで飛んでいくのだろう。
俺は1人窓の外に立ち尽くす。
「――あの男、アタシのことを知らないって言ったのに、アタシのこと『ライザ』って呼んだ……どうして」
走り去りながらライザがこう呟いているのを、この時の俺は知る由もなかった。
◆
これで、終わりだ。
もうライザを逃がす時間は無い。
村人は皆殺し、ライザは散々オーク男とゴブリン男に犯されて殺されるしかない。
俺は隠れておいて、しばらくしてから仲間と合流すればよいか。
しかし、俺は何故こんなことを……?
何故、ライザを逃がそうと……?
どうやら、仲間が到着したようだ。
村を囲む雰囲気が変わる。
何者も逃がさないような雰囲気は蜘蛛女の糸が村を囲んだということなのだろう。
村を守る側の声も聞こえてきた。
その声は勇ましいが、いつまで持つか。
しばらくして、遠くの方から甲高い女たちの悲鳴、そして戦いの音が響いた。
俺にとっての日常。
普段通りの殺戮劇が開幕する――――
やっとヒロイン(メイン)登場させれました。