30.怪人=蜘蛛女
蜘蛛女視点です。
ビービービー
上司であるイルビ様から呼び出しがかかったので、アタイはさっと身ぎれいにし、いそいそと巣から這い出る。
他に【ゴブリン男】と【オーク男】、でアタイの合わせて3人か。
むむっ? アタイの天敵ハーピー女がいない。
変わった組み合わせだね。
――あ。天敵といっても恋愛面でだけど。
むむむっ。
イルビ様の顔面が相変わらず強い。
男の子なのにもかかわらず、女子のアタイやハーピー女より美しいとはこれ如何に。
「アラ、ゴブ、オーちゃん。今回の作戦はコレでいくよ」
「「「はっ!!!」」」
アラ、とはアタイこと蜘蛛女のことだ。
ふむむ。
なるほど?
これは逃亡中のスライム男を捕獲する作戦なのか。
そして。
ふむふむ。
なるほど。
【人化】して、人間の村に潜入……
それから人間を人質にして、スライム男を呼び出す……って。
確かに、こんな難しそうな作戦、鳥頭のハーピー女と新人の【コボルト男】にはムリだわね。
よし。
さくっとスライム男を捕まえよう。
捕まえて、イルビ様には渡さないで、アタイの巣に持ってかえろーっと。
◆
久々に人化スキルで化ける。
あーやっぱ、アタイは人間の姿でもイケるな。
ボンキュッボンのフェロモンムンムン美女。
これならあのおっぱい星人(=スライム男)も放っておかないんじゃないか。
ハーピー女は人化したら、アイツの好みじゃないロリっ子だから、ぜったいアタイを選ぶし。
そうだ。今度、ハーピー女を誘って、アイツの前に人間のフリして現れてみようかしらん。
ハーピー女の泣き顔が今から想像出来るぜ。
あはっ。
◆
アタイたち3人(+アルファ)は潜入目標のアサナ村にすんなりと潜入成功。
そして、人間の冒険者ギルドにやってきた。
ギルドの受付嬢との会話は、折衝事が得意なゴブリン男に任せて、アタイとオーク男は冒険者たちの中に溶け込むように食堂で食事を取る。
とは言っても、オーク男は無口担当。
(ホントはおしゃべりだけど、口は災いの元だからね)
そして、アタイはお色気担当。
このフェロモンにスライム男が引っかかってくれたら話が早いんだけど――――
「ゴクッ……見ろよ……」
「ああ……めちゃくちゃソソるな……」
「あの乳堪らん……」
「俺は、あの腰だな……」
――引っかかるのはくだらない人間の男どもだけ。
よし、殺す。
すぐに、人間の男共が色目を使い始めたので殺意MAXのアタイ。
お前らの為に、この格好してないんですケドー!?
あー、今すぐここにいる人間の男、全員殺したい。
「あの2人、出来るな……特に、男の方」
「見ない顔だな……」
「何級だ」
「少なくともB級以上はあると見たが」
ざーんねん。
オーク男よりアタイの方が強いんでしたー。
と、アタイが殺気を放ったら、離れたところで見張っていたイルビ様(普通に人間に変装している)に睨まれてしまった。
はぅわ。いけない、いけない。
とりあえず、当初の目的を思い出したアタイは、スライム男の情報を探る。
「【仮面の男】……?」
そういえば、この間、人間側に居たね、そんな男が。
アタイが探しているスライム男は、顔にキズも無いし、別人かな。
「それよりオネーサン、あの大男と付き合ってるの? こっちで一緒に飲まない?」
「ふふっ。あんなデクの棒と付き合うわけないでしょー。ていうか、アタイの方が強いよ?」
「ええーっ、見えない! けど、ベッドの上では俺も強いよ……ぐふっ」
あー、ウザすぎて、瞬間的に糸で首をしめちゃったよ。
騒ぎにならないように、気絶させるに止めたアタイ超エラい。
「えっ。【仮面の男】と幼馴染!?」
また、コイツの話か。
スライム男と関係ないヤツの話はどうでもいいけど、まあ話に付き合ってあげよう。
「と確実にそうと決まったワケじゃないんだけど……でも、初めて会ったアタシの名前を知っていたんです。アラさん、どう思いますか?」
「そうね……アヤシイわね――「ライザ! 見つけた!」――!?!?」
うっわー!?
コイツ、クソ野郎の【勇者】じゃん!?
超最悪。
恐怖と嫌悪感で吐き気が込み上げてくる。
速やかにここから遠ざかりたい……
「お知り合いかしら? ではライザちゃん? アタイはこれで……」
「おっ。(小声)お姉さん初めて見るけどイイ女だね。初めまして、俺勇者ってモンだけど」
「(小声)知ってます。スゴいですね。頑張ってくださいね」
「(小声)ありがとう。ちょっと待って……これ俺の泊まってる高級宿の部屋番号のカード。良かったら今晩遊びに来て」
「(小声)はい。機会があったら行きますね。では……(普通声)じゃーね。ライザちゃんまた今度ね」
ふーっ。あせるー。
ライザちゃん? は勇者の関係者だったのか……
あっ? ということは、ライザちゃんは勇者の抑止力としては有効かもしれない……とメモメモ……
アタイは字が書けるからね〜。
鳥頭とは、知能が違うんだよな〜。
おっ。
ちょっと可愛目の人間の坊やにも話聞いてみようか。
うーん。
人間の男にまったく興味のないハズのアタイなのに、何だかアタイの子宮を刺激する坊やね……。
辱め殺したくなっちゃう。
「えっ、【仮面の男】が、生き別れのお兄さんかも知れない?」
「は、はい。冒険者だった兄に雰囲気がとても似てるんです」
「ふーん……そこまで興味ない情報だから、あんま深堀りしたくないけど……(ボソッ)………ちなみにお兄さんの名前は?」
「レンジ、っていいます」
「……なるほど……」
この男の子は【仮面の男】に対しての人質になるかもね。
どうでもいい情報だけど。
ていうか、超重要な発見したんだけと、この子ってスライム男に凄く近いニオイするんだ。
全然違う顔なのにどうして?
だから大嫌いな人間なのにアタイを欲情させるんだね。
むふーっ。
この子、人質にして攫っちゃおうかな……
むむ、あれは【聖女】……と、勇者パーティの雑魚2人だね。
少し近づいてみるか。
「……というワケで、わたしより弱いのにスゴくカッコよかったの【仮面男】。ねー? クリエもそう思ったでしょう?」
「ですね。侠気に溢れている御仁でした。実はボクもキュンとなりました」
「ええっ、クリエは男でしょう? 男が男好きになっちゃダメじゃない!? どう思う、ロズナード?」
「……クリエは……男装してる女……(ボソッ)」
「ばっ、ダメでしょ、こんなところで!? 誰が聞いてるか分からないんだから……」
うーん。完全に隙だらけ。
今なら【聖女】含め3人とも殺れる気がする。
けど、潜入中だから我慢ガマン。
……
受付から引き上げてきたゴブリン男と合流。
人間に化けたゴブリン男を見て、吹き出しそうになる。
あー、こんな小狡そうな人間の男って、いるよねぇ。
「どうでしたかアラ」
アラ、はアタイの潜入ネーム「アラモード」の略称である。
「うーん、あんま収穫無かったかなー?」
「とりあえず、見聞きしてきたことを全部教えてください」
「あー、おけ。えっとね……」
アタイの報告を一通り聞き終えたゴブリン男が言った。
「あー、その話にちょくちょく出てくる【仮面の男】がスライム男っすね」
なっ!?
「かっ、【仮面の男】が……スライム男のことだというの?」
「たぶん間違いないっす。だから、そのライザという少女は人質作戦に使えるっすね。あと、自称弟かもしれない少年も人質にしちゃいましょうか」
「あ、うん……」
「後は、受付嬢ちゃんにも協力してもらうっす――――」
目の前のゴブリン男が楽しげに何か喋っているんだけど、アタイの耳にまったく届かなくなってしまった。
アタイは、集中していた。
もう少しで、何かに気づきそうだ。
もし、【仮面の男=スライム男】だとしたら?
ということは、スライム男が裏切った本当の理由は……?
だとすると、アタイはどうするべきなのか…………?
……作戦開始は刻一刻と迫っていて――――





