29.魔族上司=イルビ
上司イルビ視点です。
「仮面男はスライム男の可能性が高い、と……」
ゴブリン男の剣に付着した液体を解析した結果は92%スライム男の血液、98%怪人の血液というものだった。
というか92%だったら、ほぼスライム男と断定してしまっても構わないだろう。
という訳で、上司――つまりガデス様と同僚のネフレがいる部屋に報告の為向かっていた。
あ。君に自己紹介がまだだったね。
ボクの名前はイルビ。
魔族四天王ガデス様の部下の超絶美少女さ。
「いえ。イルビ様の匂いは完全に男ワフ。見た目は完璧な女の子なのに恐ろしいワフ……わ、わわわ、何するワフッ!? ……きゅー……」
後ろを歩いていたコボが謎にボクの思考に割り込んできたからぶん殴って黙らせる。
「コボはそのまま捨ててくよ。ゴブはボクについといで」
◆
ガデス様とネフレに解析結果を報告する。
ちなみにガデス様はここには居られない。
魔導モニターの向こう側からの参加だ。
「ではスライ厶男は【あの村】にいるのだな」
「もしくは、【あの村】付近に潜伏してるのかと思われます。詳しい理由は分かりませんが」
「理由などどうでも良い。速やかにスライム男を始末するんだ」
「はっ」
「イルビ。コレを持っていって」
「コレはもしかして、アレ、なのか?」
「そう。アレ。【自死機能】よ。周魔数はスライム男だけに合わせてるから、他の怪人には影響無いはずだわ」
「このボタンを押せばいいんだね。分かった」
このまま【あの村】に向かって、このボタンをポチッと押せば済む……果たしてそうだろうか。
あの村には懸念点がある。
「……勇者。それに聖女」
「勇者パーティーね。それについては策を考えてるわ」
「有り難いね。どんな策だい?」
「ふふふ。ずばり、人質作戦よ」
「!? ……そうか、なるほど」
卑怯な手だけど、ゴミクズの人間相手なら何の心も痛まないね。
「いつも直ぐに殺していた人間の村人を盾に取ってしまえば、簡単に手は出せないわ」
「確かに。人質がいれば……勇者も同じ人間を見殺しには出来ないハズだから……」
「それに、こうして、ああすれば、……ね」
「ははっ。なるほど。……良いじゃないか!『流石ガデス様の右腕』ネフレ、間違いない策だと思う」
◆
さて、部屋の外に待たせていたゴブリン男と途中捨ててきたコボルト男を拾い、スライム男の始末に【あの村】――人間がいうところの【アサナ村】に向かうとしようか。
逃げ出した怪人は確実に始末しないとならないからね。
え、なぜかって?
その理由は……
えっと。
まあ、【怪人】はボクら魔族が生み出した存在ではあるんだけども。
実は、魔族以上の強さを持ってしまってるんだ。
だって、そうだろう?
常識で考えてみてくれよ。
あの非常識な強さの人間の勇者パーティーに対抗するために生み出した生物兵器なんだ。
まだ勇者の強さに及んでないとはいえ、だ。
魔族四天王であるガデス様だって、一人では勝てないんじゃないだろうか。
……ガデス様は四天王最弱だからな。
他の魔族四天王でも危ういかもしれない。
もちろん魔王様なら問題ないと思うが、な。
【怪人】とはそれ程の威力を持った兵器なのだ。
「イルビ様、ヒドいワフ。たんこぶが出来たワフよ……」
このアホっぽいコボルト男でさえも、ボクよりも強さで言えば上なんだよな。
まあ、【洗脳】が効いてる間は「魔族様ツエー」と思い込んでるが、それが解けてしまったら、その牙がボクら魔族に向かう日がいつか来るのかと思うと、実に恐ろしい存在なんである。
「さあ、ゴブ。コボ。怪人の皆を招集してくれるかな。裏切り者を始末しに行くよー」
「はっ」「ワフッ」
周魔数・・周波数みたいなものですっ。





