25.四天王ミリア。
前回の出来事: レッドスライムが仲間になった。グリーンスライムが友だちに会いにいきたいと言い出した。
マリム鉱山は、レッドスライムを見つけた火山地帯の近く、北西に暫し進み、わずか魔族領に入ったところに位置する。
なので、俺の足なら2日で行ける。
だが、問題が無いわけではなく……
「魔族領に入った途端、ダメじゃの」
魔族領では魔女との通話が切れてしまうことが判明。
何らかの防御魔法に阻まれているらしい。
「この先はリアルタイムの支援は出来ないさよ。放棄された鉱山のハズじゃから危険は少ないと思うがどうする?」
魔女によると、この鉱山は人間国と魔族国の長年の戦争によって、戦火に巻き込まれ廃山扱いになっているという。
グリーンのヤツにも意思を確認する。
「……」プルプル
そうだな。
ここまで来たんだ。
よし、行くか。
◆
そもそも、定住の地を持たないスライム族だから、会えない可能性のが高い。
というか、スライムに友だちという概念? とやらがあったことに驚く。
グリーンの友だち発言には魔女も驚いたらしく、学会がどうのって騒いでいた。
そんな感じで、ひと通り探索してみてから、さっと引き上げよう。
そういう心算だったのだが――――
「……」プル
「……」ぷる
「……ん、オマエはウチ所属の怪人か?」
グリーンの言う通りに進んでいったら、フルフルと震える灰色の友だちを見つけたのだが、その隣にはもう一匹別のスライムとひとりの魔族がいた。
スライム2匹も唯のレアなスライムとは思えない存在感。
小さな体だが、そこから感じる圧の密度がハンパない。
それよりも、魔族の方だ。
フードを深く被った女魔族。
恐らく、かなりの高位だ。
逆らえない圧倒的強者の気。
「部隊名と固体名もしくは番号を名乗れ」
「……っ、はっ。ネフレ様、イルビ様の怪人部隊所属、スライム男です」
ビシッと魔族流の敬礼をしながら答える。
「脱走中の怪人か……」
「……」
存在を知られていた。
誤魔化すのは無理か。
冷や汗が、タラリと流れる。
「ネフレとイルビはガデスの部下だったよな」
「……はい」
ガデス様とはネフレ様とイルビ様の上司で、魔族四天王のお一人だ。
そのガデス様を呼び捨て出来る人物……
「アイツ嫌いなんだよなー。ガデス」
「……ですか」
場の空気がわずかに緩んだ様に感じた。
「ここに来た目的を言え」
気の所為だった。
緩まなかった。
高位魔族様の圧が俺にのしかかる。
「早よ」
ウソは通じないだろう。
本当のことを言うしかない。
「……っ、俺と合成されたスライムの友だちがここにいるというので、会いに来ました」
「えと。お前本気で言ってる?」
「嘘偽りなく、真です」
「ハハッ。逃亡中に友人の友だちに会いにきたってワケか。泣かせる話じゃないか」
「……っ!」
笑い声に反して、目は笑ってないし、泣いてもいない。
これは、……駄目か。
逃走の覚悟を固めていく。
「見逃してもいいが、条件がある」
「……?」
えっ。
「もし、お前がまだ生き長らえて、俺と再会した時」
「……」
「俺に恩を返すと約束できるか?」
「……っ、はい! あっ、1つだけ、俺はアサナ村という村だけは攻撃できないです」
「なるほど、その村が命令違反の原因だったか」
「はい……」
「いいだろう。その条件も飲んで、見逃してやる。この場もお前に譲ろう」
「っ、ありがとうございます!」
「よし、契約魔法を交わすぞ」
「……」
高位魔族様が、何か難しい図形と文字を宙に描いて、魔力を込めると俺と魔族様の間に、確かに約束のような物がされたようだった。
契約が成されたからだろうか、高位魔族がフードをはだけ素顔を見せる。
そこにはひと目見たら忘れられない、2本の美しい角を生やした魔族の超絶美女がいた。
「四天王が一人、ミリアだ。スライム男。お前も素顔を見せよ」
「はい」
俺が久方ぶりに素顔を晒すと、微笑みながら言われた。
「スライム男。その時は必ず声をかけるからな。お前も必ず約束を果たせよ。期待してるぞ」
ハハハ、と朗らかな笑い声と共に、ミリア様は去っていかれた。