19.VSコボルト男。
前回の出来事: 迷宮の中で元上司と同僚の姿を発見した。
カン!
カァン――!
音がする方を岩場に隠れながら覗いて見てみると、元上司たちが迷宮の壁に穴を開けている現場だった。
(ゴブリンたちが穴を拡張工事中――そばにいるのは【ゴブリン男】と、初めて見る【新人の怪人】か)
新人の頭は犬頭――ということはあの新人が前に上司ネフレ様が言っていた交代要員――【コボルト男】なのかもしれない。
見た目はなんともモフっとした茶色の巻き毛が愛くるしいが、確実に最弱の俺よりは強いだろう。
(ついでに、上司の【イルビ様】もいっしょ、と)
見た目が超絶美少女のイルビ様。
丈がかなり短いスカートからスラリと伸びる足が目に毒だ。
でもイルビ様の性別は男なんだよな……。
◇
(にしても、地竜の群れはどこに消えたんだろうな……)
(それに聖女たちはまだ追いついてこないのか……)
地竜の群れが俺を追っていたことを他の3人は気づいたハズなのだが、追ってきていない。
ここで待っていれば、追いかけてくると信じたい。
俺一人だとゴブリン男だけでも辛いからな。
(本当に聖女と魔女が言っていた通りの【異常】が起きていたというワケか……)
目の前で起きていることを理解しようとすれば、あのデカい穴の向こう側が【超基幹迷宮】なのだろう。
手前のコッチ側が俺たち臨時パーティーが潜ってきた【アサナ迷宮】――赤ちゃん迷宮とか面倒くさいから俺が勝手に呼び名をつけてみた――というわけだから。
つまりアサナ迷宮の異常は魔族の計略で人為的に引き起こされていたということだったのか。
(そして、あの時アジトで盗み聞きしてしまった【軍事機密】ということか……ん?)
なぜか新人の【コボルト男】が俺の潜んでいる岩場に近づいてくるのが見える。
キョロキョロと何かを探している。
その顔は、同じ怪人と思えないくらい愛くるしい。
鼻をひくひくとさせている。
「この近くから人間の臭いがするワフ」
(……)
……俺は【怪人】だから、人間のニオイなんてしないはずだ。
「これは若い人間の女の臭いワフ。2人――いや3人か? 隠れても無駄ワフ」
(――!?)
もしかして、聖女たちのニオイが俺にくっついているのか!?
◇
「ワフフ。おいらの鼻は怪人の中でも特別製ワフ。絶対ごまかせないワフよ~」
まずい、まずいぞ。
「そこにいる人間の女。隠れても無駄ワフ。観念して出てくるワフ」
俺は腹を決めた。
この新人を黙らせる。
コボルト男は俺の気配ではなく、俺にくっついてる聖女たちのニオイにつられている。
俺は、俺の周りの空気をそのままこの場に残すように、スルリと移動しコボルト男の背後に回った。
「ワフワフ。かわいがってやるから安心して出てくるワフ。最後は殺しちゃうけどワフ」
「《粘液弾》」
「ぅワフっ!?」
コボルト男の背後から練習を繰り返していた新技を放つ。
「ゴボッ、ゴボボッ」
陸地にいながらにして溺れるコボルト男。
「ゴボッ、男ガボガ!?」
「そうだ。残念だが男だ」
俺の姿を見て、人間の男という事実に驚いているコボルト男。
しかし決まり過ぎなくらいに新技が決まったな。
「ゴボ――ッ、ゴボボボボ――――ッ」
新技は避けられたら終わりだが、命中さえすれば距離がひらくから反撃を受けるリスクも少ないな。
これは思ったよりかなり使えるかもしれん。
「ゴボボ――ッ」
バタンッ
とうとう白目をむいて倒れるコボルト男。
思ったよりも粘られてしまった。
たが――――
「――――まだまだ経験不足だな。こんなんで俺の代わりが務まるのかよ」
ちなみに、コボルト男はまだ生かしてある。
完全に殺さないようにスキルを調整する実験を兼ねて生かしておいた。
持ってきておいた【ヒモ状の蔓の下着】をほどいた半分を使ってコボルト男の手足を縛り上げる。
この蔓なら怪人の力でも容易には切れないだろう。
そうしておいた上で気道をふさいであった右手のグリーンスライムを呼び戻す。
そして、ぶっ倒れているコボルト男の胸を何回か押して圧迫する。
「ぅっゴバワフっ――」
蘇生に成功したところで、声が出せないように【ヒモ状の蔓の下着】の残り半分をコボルトと男の口の中に突っ込む。
「……むぐぅっ臭っ゛、むぐわふ、……」
悪臭はすまん。
よし。これでコイツは何もできない。
危ないところを脱したぞ。
――そう安心しかけたその時だった。
「あれそこの人間、何してるっすか」
くそっ、ゴブリン男に見つかっちまった。
優秀な後輩にモヤってしまうのは私だけでしょうか~。
(人間の器が小さい黒猫虎(;A´▽`A)





