17.赤目八角。
前回の出来事: イケメン斥候は男装したハーフダークエルフ(女)だった。
「悪くない案だと思うが、ここは俺が行こう」
「「「え?」」」
おまえら何をそんなに驚くことがある?
イケメン斥候が【男装した半闇エルフ】と俺は見抜いてしまった。
こんな上玉を地竜なんかに殺させてしまってはもったいない。
俺が犯し殺すまでは生きててもらわないと、な。
「いやなに、ずっと後からついてくるだけだったからそろそろ仕事をさせてもらおうかなってな。それに、ソッチが本隊から離れたら本隊のバランスが悪くなると思う」
「なるほど仮面男――スラオの意見も一理あるわね。……わたしは良い提案だと思ったのだけど、エルーダ殿とクリエはどう思いますか?」
「ひっひっひっ。ワシも良いと思うゾ。コヤツならいざというときの生存力も期待できるしな」
「落ち着いて考えるとボクには厳しい役目だったかもしれない。スラオさん任せても大丈夫ですか?」
魔女は何がおかしいのかニヤニヤしている。
俺が何かおかしなこと言ったか?
意味不明だ。
変人を相手にするのは疲れる。
イケメン斥候改め【男装半闇エルフ】も見るからにホッとしているのが分かった。
ちくしょうその安堵した顔をいきなり服をひん剥いてまた恐怖で歪ませてやりたいぜ……
さて、魔女に隠密系と罠避けの魔法をかけてもらうとするか。
何しろ相手は数も多いし慎重にいきたい。
「お前さん、気配を消すのは得意じゃろ? 罠避けだけで良いじゃろ?」
「念のため頼むぜ」
◆
温度隠蔽、魔力隠蔽、光学隠蔽、それに罠避けか。
このババア、思ったよりも優秀だった。
「向こう側に着いたら待機しておくれ。予定通り2周過ぎたら罠避け以外の隠密系魔法が解けるからの」
「仮面男――スラオ、頼んだわよ」
「仮面――スラオ。ボクの代わりにすまない」
すでに3人は俺の姿が見えないらしく、その視線は微妙に明後日の方向を向いている。
「ああ。任せておけ」
これから俺は魔女の手の中にある魔導時計が2周する間に、向こう側にたどりつかないといけない。
もちろん魔女の隠密系魔法に頼り切らずに、自分自身が持つスライムの特性を活かして存在感も薄くし、地竜の群の中を進んでいく……
(余裕だな……)
地竜はまったく気づく様子がなく、このままあっさりと向こう側に付きそうだ。
しかし一頭一頭がデカい。
大きさ的には、人間ひとり怪人ひとりは余裕で丸のみだろう。
――この後の予定は、地竜たちからある程度距離を取ったあとに魔女の隠蔽魔法を解除。
次に挑発して地竜の気を引く。
そして地竜を引き連れて迷宮の奥に向かう。
最後は頃合いを見て地竜をまいて終わり、という算段だ。
そろりそろりと地竜たちの横を通る。
うーん、さすがに迫力はあるな。
問題なく向こう側につけそうだ――そう楽観視し始めた時だった。
(うん?)
その個体に近づいてから気づいたのだが、微妙に他と違う個性を発見する。
(赤目、八角……)
それに体も一回り大きい。
コイツもしかして地竜の【上位種】か【特殊個体】だろうか。
(何かコッチを見ているような気がするな……)
その考えが脳裏を過ぎった瞬間、
グワァブッ
【赤目八角】が大きく口を開けたかと思うと、俺は一気に丸のみにされた。
◆
いや、危なかった。
とっさにスライムの特性で《軟体化》して牙の隙間から逃れることが出来た俺だったが、スライム成分がほとんど右腕に取られてしまったからか、かなりギリギリだった。
何なら、右腕だけ生き残るところだった。
そんなこんなで現在、地竜の群から絶賛逃走中である。
魔女の補助魔法は《罠避け》以外は予定通り解除されている。
というワケで最初の頃は【赤目八角】だけが俺を認識していたが、今は他の地竜も俺の姿をとらえているだろう。
ちなみに、いまさらスライムの特性を生かして気配を消すことはしない。
どうせ【赤目八角】に見破られるだろうしな。
◆
(なあ。俺はお前たちと同じ魔物なんだが)
(……)
だめだ。
浅い表層で出会ったゴブリンやホブゴブと違って意思の疎通が出来ない。
どうしてだ。
もしかして【超基幹迷宮産】なのが関係してるのか?
しかし、こいつら図体がデカいのに相当すばしっこい。
全然撒けない――――
(あと6頭)
地竜1頭ずつなら俺ひとりで対処できると思うのだが【赤目八角】の存在がある。
(しかも赤目八角は俺より強い――)
◆
幸運なのは、他の魔物に出くわさないこと。
――これは、他の魔物たちが地竜の群から隠れてしまってるのだろう。
不運なのは、残りのパーティーメンバーから完全にはぐれたこと。
――おそらく、【赤目八角】に俺が襲われてから逃げ出す瞬間は正確に見えていなかったはずだ。
初動が遅れてしまったに違いない。
(はたして、異常事態に気づいて地竜の後を――――俺の後を追ってこれているか)
それに、この移動速度についてこれるのは聖女くらいだろう。
幸運を期待して落胆するよりも、悪い方に考えた方が覚悟がついて良い。
というか、やはり半闇エルフを先に行かせなかった俺の判断は正しかったな。
先に行ったのがアイツだったら今ごろ丸のみされて胃袋の中で消化が始まってたに違いない……
(何とか生き残って、半闇エルフを裸に剥いて犯して殺してやらなきゃな――勇者と聖女が見ていない隙を狙って――)
だがしかし、確実に【赤目八角】は俺との差を縮めてきていた。
(あと3頭)
【赤目八角】を撒くために幾度となく悪路に入ったり障害物の影に隠れてみるも、全て見破られてしまった。
俺の限界も近い。
◆
(――イチかバチか、新技を使うか)
図体がでかすぎて新技の効果がどれほどあるのか疑問だがが仕方ない。
俺がそう覚悟を決めようと後ろを振り返ったのだが、
(何だ……!?)
すぐ後ろに付いてきていたはずの地竜たちが、【赤目八角】を含めて忽然と姿を消していた。
「??」
周りを見渡すも見間違いや勘違いではなく、本当に地竜たちの姿がない。
「どこに――消えた――?」
完全の完璧に体力の限界だった俺は思わず座り込んでしまう。
「あぁ、さすがにキツいぜ――ッ」
しばらくした後、ようやっと息を整えた俺は、その場に座ったままゆっくりと周りを見渡す。
迷宮の雰囲気自体は特にこれまでと変わったように感じられない。
魔女が言っていた【超基幹迷宮】に入ったワケではなさそうだ。
しかし魔物の気配がしない――――
「ん?」
いや。
違和感がある。
――遠くからかすかに音がする。
カン
カァン
何かを叩く音だ。
俺はここぞとばかりにスライムの特性を活かし、気配をスルリと消して音のする方に近づいてみる。
カン!
カァン!
(あれは、【上司イルビ様】と【ゴブリン男】、それに見たことのない怪人――【新人】か?)
そこには元・上司と元・同僚の姿があった――――
この度、お仕事辞めました。w
スライム男みたいに元上司と同僚に偶然再会したら超気まずいので、鉢合わせしたりしませんように。
(>人<;)ナムナム
そんなワケで、8月末まで週2ペースを目指してみようと思います。





