10.帰還。
前回の出来事: 魔女に右腕を新調してもらった。
『重要な事が3つある。1つ。全身のパワーは今までの約半分になるぞ――』
仲間と上司の待つアジトに急ぎながら、俺は老魔女の忠告をようやく実感し始めていた。
「……力が出ねえな」
来るときはアジトからアサナ村まで3日はかからなかったのだが、アサナ村近くの魔女の家を出てから、もうすでに3日は過ぎていた。
距離的にはあと半分というところか。
時間が掛かっている原因というのが、魔女に施された治療にあるのだろう。
前よりも体から力がだいぶ失われているのだ。
しかし右腕を失くすよりはいい……
(本当にそうか? 不味くないかコレ……)
やはり良くはないだろう。
仲間と体力が大きく違えば、行動を共にしづらくなるかもしれない。
いや。
難しいことはアジトに戻ってから相談しよう。
上司は優秀だからきっとなんとかしてくれるハズだ……
◇
パチ
パチパチ……
ひとりたき火に当たりながらそこら辺の草を口の中に放り込む。
怪人な俺は10日くらいは何も食わなくても平気なのだが、何も食わないよりも食った方が体にいいことは間違いない。
まだまだ傷を回復させたい俺はそこらへんの草を適当に食っている。
たき火に照らされた右腕をさすってみる。
老魔女が作ってくれた新しい右腕。
『2つ。右腕はスライム成分90%、殆どスライムで出来ている。今までよりパワーも出るし、今までと違った使い方ができるぞ――』
新しい右腕は今のところ違和感なく馴染んでいる。
今までよりパワーが出るようになっているらしいが、しばらくは無理しないように老魔女に注意されてるので試せていない。
――それから「今までと違った使い方」についてはこれから自分で見つけていかないとならないと言われている。
そのことついては、実は少し楽しみにしていたりするのだが。
『3つ。ただし、右腕のスライムはその内、魔物としての自我を持つかもしらん』
本当に俺の右腕が、俺とは別の自我とか意識とかいうものを持ったりするのだろうか。
「おい、なんとか言ってみろ」
無反応の右腕を強めにつねってみる。
うん、ちゃんと俺が痛かった。
◇
ようやくアジトに戻った。
(――確か、このあたりが入口だったと思うんだが)
アジトの入口を見つけられない……
仲間の後ろからついていく専門で、全ての説明をいつも右から左だったのが悔やまれる。
「な、何だ!?」
その時、俺は何者かの糸に捕まり、暗がりに引きずりこまれた。
口も塞がれ、あっという間に大量の糸でグルグル巻きにされ――――
「ぐむー、むーっ」
「あはっ、そんな怯えたりしてスライム男。その顔とってもそそるよぉ」
「むーっ、ぐむむーっ」
「とって食おうってんじゃないからさぁ。……いや、このまま食べちゃおうかな」
「むーむーむーっ、むーむーぐむーっ」
……
「じ、冗談は勘弁してくれ、蜘蛛女」
「アタイは冗談のつもりないんだけどー」
不満そうな蜘蛛女はブツブツと拗ねている。
ちなみに俺はまだ糸に捕まっており、予断を許さない状態だ……
「戻ってきたのはいいんだけど、今までどこに行ってたの? もう帰ってこないと思っちゃったよ」
「悪かった。実はあのあと勇者に出くわしてしまったんだ。それで戦う羽目になったら動けなくなっちまってな……」
「なるほどねー。でもアジトに戻るのは止めた方がいい。2日前にスライム男は廃棄処分が決まったんだ」
「えっ」
「裏切ったと思われてる。人間の時の記憶が戻ったんじゃないかっていう意見もある。もうスライム男の代わりも決まっていて、今はその新入り待ち」
「……」
俺が、廃棄処分……?
急な展開に頭が回らない。
「安心して、アタイはスライム男の超味方だからさぁ。スライム男だったら一生養ってあげるよぅ」
「……」
ほとんど裸の上半身を蠱惑的にくねらせてみせる蜘蛛女。
確かに上半分だけは胸もたわわに実ったとんでもない美女、とびきりイイ女だ。
しかしその実態は下半身が蜘蛛の超束縛女。
まったくそそられない……
「あっ、ヤバい、ハーピー女のヤツだ。そこに隠れていて。アタイがあの鳥頭女を追い払っておくから。先にアタイの巣に帰って隠れといて」
あんなにきつく縛られていた糸があっというまにシュルシュルとほどける。
やっと解放された。
「やほー、ハーピー女ー、しかしスライム男のことショックだよねー」
「何、蜘蛛女。急にアヤシイ。アタクシを丸め込もうという気配を感じるんですけど」
「あはっ、そんなこと無いってー。ほらー、アタイら親友じゃん?」
「じー……」
「やだなー、あははっ……」
――さて、どうする。
蜘蛛女の巣に向かう? いや、ありえない(即答)。
化け物と愛し合うなんて俺には到底無理だ。
こうなったら直接上司に会って直談判するしかない。
今回文字数の割にあんまり進展しなくてすみませんっ(´;ω;`)





