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胸焼けといちゃつく両親

投稿は年一回あるかないかの牛歩戦術

 青年は旅をしていた。

 世界の果てを見たいと、故郷の小さな閉じた世界だけでなくもっと色んなものを見たいと旅をしていた。

 無味乾燥な荒野を歩き、天まで届く山を登り、海を渡って世界の広さを知った。

 時には遥か昔の古代の遺跡に赴きまだ見ぬ未来や過去に思いを馳せた。


 だが旅はいい事だけではなかった、行きついた先では酷い争いが起きている場所もあった。

 人が人を憎み、傷つけ、命を奪う、そんな人の恐ろしい争いに巻き来れたことも幾度とあったが、それでも歩みは止められなかった。


 青年は旅は続く、いまだ見果てぬ夢を見ながら歩き続ける。

 あるとき、立ち寄った街で路銀稼ぎの仕事を探していた時だ、『先史文明遺跡調査』という依頼を受けた。

 どうやら、今のような魔法主体の時代ではなく、科学と言われるものを主体に置いていた時代のもので、鋼鉄製の守衛が跋扈しており、技術の違いから扉一つ開けるのすら苦労しているとのことで、青年には遺跡の守衛を排除し可能ならば内部に入り何かしらの物品を持ち帰ってきてほしいという。

 青年は旅の途中で色んな遺跡を探索してきた、その中に科学時代の遺跡もあったので経験が生かせる上に戦いの腕にも自信があったものだから、意気揚々と準備を整え出発した、後にこの遺跡で青年は運命の出会いをするとも露とも思わず――――



 「 青年が出会ったのは科学文明が作り上げた結晶。人と違わぬ姿しながらその実、機械の仕掛け身体で一騎当千の力を誇る機械人形の少女――彼女と出会い青年は世界を股に掛けた大冒険を繰り広げることになる 」


 ほふー、と息をついて本を閉じる少女、次いで天に目をやり読んでいた本に思いを馳せる。

 己であればどのような道を歩むのか、己ならばその道を踏破できたのか、と。


 「 諦めなければいつか夢は叶う、と申しますけれど、本や歴史書に登場する英雄のようになるのは(わたくし)には無理でしょうねぇ 」


 諦観の息を吐いて少女は己の特異性を思い出す


 「 (わたくし)には前世の記憶と呼べるものがありますし、魔眼だってあります――けれども、どちらも大して役に立ちませんのよねぇ 」


 少女には特異なものがあった、一つは前世の記憶と呼べるもの、一つは視界に入る範囲であれば自由に炎を出せる魔眼と呼ばれるものである。

後者はこのもんすたーや蛮族と呼ばれる人類の敵対種に対して有効であろうが、前者に関しては全く役に立ちそうものないものであった。


 「 なんですの、魚屋の三十路の記憶って何に使えばいいんですのよ……!! 」


 あまりの役に立たなさそうな知識の塊に少女は頭を掻き毟る、少女の黄金の髪が乱れてしまうが気にしない、ついでに立派な縦ロール(ドリル)が大暴れしてるがそれも気にしない。

 三十路魚屋の記憶に悩まされる黄金の少女はひとしきり頭を掻いたあと、パンッと子気味良い音を立てて自らの頬を叩く。


 「 よしっ、悩むのは終わりですわ、役に立たないなら無いものとして扱えばよいのです、(わたくし)には三十路の魚屋の記憶なんてありませんわ!! 」


 「 まあ、お魚を捌けるのは多分便利ですわ 」と、己を奮い立たせたところで少女を呼ぶ声が聞こえた、

 母親であろう、少女がいる部屋の階下から夕飯ができたと、お呼びのようだ。


 「 もうそんな時間なんですのね、今日のお夕飯はなにかしら? 」


 と立ち上がり、階下の母へすぐに行く旨を伝える。

 部屋を出て階段を下りる、木造の階段が立てる音を聞きながら夕飯は何だろうかと思案するも、こじんまりとした我が家ではすぐに答えに辿り着く。

 肉である、分厚い肉を塩と胡椒で焼いただけのあまりにもシンプルな料理がダイニングのテーブルには鎮座していた


 「 お母さま?今日は何かお祝い事でもありまして? 」


 シンプルではあるがサイズ感を考えれば一般にはご馳走の部類にはいるだろう存在を見て少女はキッチンで準備する母に問いかける。


「 んー、特にお祝いと言うこともありませんけどぉ、たまにはガツンとお肉を食べたいなぁって 」


 のんびりした口調で語る母。

 「 たまには良いわよねぇ 」と朗らかに笑っている母の言葉を聞きながら胸やけしそうなステーキの前に着く。

 テーブルに三枚のステーキがそれぞれ皿に乗せられ並べられている、焼いた肉の香ばしい匂いと肉汁の滴りを見てると今にも胸やけしそうではあるので、キッチンでごそごそしている母を見やる。

 少女と同じ金色の髪を結わえた後ろ姿が、機嫌が良いのか鼻歌交じりに添え物のスープを注いで、テーブルへと運んでくる間に玄関のほうから物音がする。

 「 ただいま 」と、低めの些か疲れた声音を伴って誰かがこちらへ向かってくる

 ややあって、少女たちの居るダイニングへと顔を覗かせると、丁度配膳を終えた母が満面の笑みで誰かへ抱き着いた。


「 おかえりなさい、あなた! 」

「 おかえりなさい、お父様 」


 部屋へ入ってきたのはどうやら父親らしく、二人がそれぞれ父親へ労いの言葉をかけると父親は顔を綻ばせ再び「 ただいま 」と帰宅の言葉を返す。


 少女は主人が帰ってきて喜び跳ね回る犬のように父親にじゃれつく母と、それをデレッとした顔であやす父の二人を辟易した溜息を洩らした、この夫婦はいい年をしてる上にそれなりに成長した子供が居ながらいまだに新婚のようにお熱いのだ、実の両親がイチャついてる場面などそれなりに成長した自らにとって針の筵のような時間であろうがそこはこの両親の娘として、毎日見せられていればおのずから耐性も出来ようものである。

しかし、そこはそれとしても飯時前は勘弁していただきたいのが本音である、なによりもこれから食す物は肉汁滴る見るからに胸焼けしそうなステーキなのだから、食べる前から両親のアツアツっぷりに胸焼けを起こさせられてはたまったものではないので


 「 お父様、お母様、イチャつくのも宜しいけれども早く食べませんとせっかくのお料理が冷めてしまいましてよ? 」


 と、早々の解散を促すこととする


 「 おっと、そうだったな、さっきから焼いた肉の匂いで腹の音が止まらないんだ。

 ほら、母さんも席に着いて晩飯を食べよう 」


 娘の言葉に母より幾分か冷静であった父が未だ自らの体に頬やら頭やらを擦り付けている母を席へと連れていく、母は見た目こそ金髪碧眼のクールな女であるが中身は犬系のおっとりさんなのだ。

 そんな犬系母は夫婦のイチャ付き時間が足りないと抗議しているが父は飯の時間だからと受け流していくそんな父親は鍛えた鋼の体が自慢の野生全開です!と言わんばかりの男である。

 どう足掻いても美女と野獣である二人の間に生まれた少女は母譲りの金色の髪に生まれ持った縦ロール(ドリル)、魔眼の魔力によって黄金に輝くネコ科のような瞳のどこからどう見ても美少女(自称)である。ただし、顔つきが悪役のそれのように人相が悪いことを除けばであるが……――


 両親と己の姿を鑑みて改めて母親に近い容姿で良かったと安堵している少女の対面と隣に父と母が座ればいよいよ夕飯の開始である、三人は両手を合わせて


「「「 いただきます(ますわ)! 」」」


 仲良く食事の挨拶をするのであった。その時ふと、少女は自らの持つ『三十路の魚屋』の記憶も食事前には手を合わせて同じような挨拶をしていたことを思い出す、奇妙な合致ではあるが命を頂く行為において挨拶は大事だものと、三十路の魚屋に頭の中で花丸を付けてあげる少女。

 一方で両親はというと娘の前だというのに切り分けたものを食べさせ合うなどと存分にいちゃついているのであった


 ――こうして少女のなんでも無い日常の一日は更けて行く。良くも悪くも日々何もなく趣味の読書に興じたり、時はご近所の友人とお買い物に出かけたりする何気ない平和な日常だ。

 おとぎ話の勇者のような素晴らしい活躍をすることもなく、異性と胸ときめくラブロマンスを繰り広げる事もない、退屈な日常であるが少女は日々をとても楽しく暮らしている、もちろんそういった事に憧れはあるし、せっかく持った力もあるのだからきっと何かしらの活躍はするではあろうが少女にとって……いや、少女の記憶の一部となっている三十路の男にとってこの世界は夢にまでみた『剣と魔法のファンタジー世界』なのだからここで生きているだけで楽しいのだ。


 その思いも少女に伝播しているのだろう、時に泣いて、時に怒って、そして笑って、少女は日々を全力で生きて行こうと胸焼けを堪えながら誓うのだった―――――






 

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