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第二章・選択する時 Ⅲ

Ⅲ カサンドラ訓練所


 退艦していく将兵を乗せた艀がミネルバから発進した。それを艦橋から見つめながら神妙な表情のフランソワ。

「結局残ったのはほとんどが訓練生ばかり……」

「前途多難ですね」

「何とかミネルバを動かせるだけの要員が確保できたのは幸いです」

「これもランドール提督の人望ですかね」

「若い士官それも特に女性士官の間では圧倒的な人気がありますね」

「らしいですな」

「何にもまして、中尉に残っていただけたことには感謝しております。本当にありがとうございます」

「いや、何。親父がケイスン中佐と一緒に設計した艦ですから、敵の手に渡すには忍びないですからね。宇宙艦隊決戦の時代に、何を今更大気圏防衛専用の空中戦艦などと笑われて、後ろ指さされていた父の無念を晴らしたいと思いましてね。ランドール提督は、ミネルバの重要性を見抜いて自分の部隊に組み込んでくれました。それまでは配属が決まらず宙に浮いたままだったんですよ」

「お父様は?」

「亡くなりました。エンジンの燃焼実験の爆発事故に巻き込まれて」

「そうでしたの……お気の毒に」

「いえ。とにかく、こいつで納得いくまで総督軍と戦ってみたい。最終防衛ラインを守る役目として十分役に立つ事を見せ付けることで、笑った奴を見返してやりますよ。それに、妹のやつがランドール提督の旗艦であるサラマンダーの艦長なんですよ。負けてはいられません」

「そうでしたか……。あ、艦長じゃないですよ。スザンナさんは、昇進して旗艦艦隊の司令官になってます」

「え? そうなんですか。親父が死んでからちっとも連絡を寄こさないから……。ということは、少佐になったんですね」

「ええ、艦隊一番の頑張り屋さんですから。とにかく、共に頑張りましょう」

「もちろんです」


「艦長! 暗号通信が入電しています」

「暗号解読器にかけてください」

「現在解読中です」

 やがて解読が済んだ電文を読むフランソワ。

 リチャードが尋ねる。

「我々の次の任務を伝えてきたんですよね?」

「ええ、カサンドラ訓練所へ赴き、モビルスーツのパイロットを収容するように」

「カサンドラ訓練所ですか。敵の手に落ちている可能性は?」

「その可能性は少ないでしょう。現在の敵は第一次攻略部隊しか降下しておらず、主要宇宙港や軍事施設の攻略が精一杯で、訓練所までは手が回らないはず。続く第二次攻略でも国会議事堂や交通管制センター、放送センターなどの政治中枢部が目標になっています。残存兵力の掃討は第三次攻略部隊以降になるでしょう。とはいっても時間がないことは確かです。速やかに、命令を実行してください」

「わかりました。カサンドラ訓練所に赴き、モビルスーツパイロットを収容に向かいます」

「次の定時連絡は、明後日の標準時一六○○時頃の予定か……」


「しかし何でしょうねえ……レイチェル大佐のことですよ」

「大佐が何か?」

「どこにいるか判りませんが、無線で指令を伝えるだけで、自身は安全な所に身を潜めているだけじゃ」

「それはありません。大佐が指揮するのはミネルバだけではないのですよ。共和国同盟の各惑星に散っている、第八占領機甲部隊メビウスの全軍を統括する任務をも担っているのですから。それが何より、我々が必要とする物資を調達して補給艦を手配してくれているじゃない」

「それですよ、それ。一体どこから調達するのでしょう。秘密基地の存在は聞かされましたが、そこだけでは、トランター全域をカバーすることはできないでしょうしね」

「だいぶ以前から、準備していたということですから、各地に秘密の補給基地でもあって相当量の物資を備蓄していたとか」

「それは有り得るかもしれませんね」

「でしょう?」

「ともかく大佐には大佐の仕事があるだろうし、我々には我々の任務があります。与えられた任務をまっとうすることです」

「判りました」



「一体これはどういうことなのだ」

 マック・カーサーは、憤りを覚えずにはおれなかった。各地の基地の弾薬庫の帳簿の帳尻がまるで合っていないのである。

「戦艦搭載用対艦ミサイル三百十五万基、高射砲弾丸八千六百万発、核弾頭巡航ミサイル三十六基……総額にして、トランターの国防予算一年分に匹敵する武器弾薬が行方不明になっています。記録によりますと、アレックス・ランドール少将の命令で、第十七艦隊保有分のタルシエン要塞への弾薬移管が実行されて、ラスベシオ軍港弾薬保管庫に一時格納されたことになっております。しかし当のラスベシオ保管庫はもぬけの殻というわけでして」

「ランドールめ、謀りよったな」

「しかし、これだけの弾薬をどこへ隠したのでしょうか?」

「ランドールのことだ、どこかに秘密基地でも作っているのではないかな」

「それはどうですかねえ……」

「わからんぞ。タルシエン攻略だって五年以上も前から周到に準備していたというじゃないか」

「潜入に使った特殊中空ミサイルの開発と安全性の実験、及び数次にわたる特殊部隊による実際を想定した予行演習。確か士官学校時代の戦術理論レポートで最初に発表されたというあれですか」

「まあ、当時の教官は馬鹿げた理論だと一笑に付して及第点を出さなかったそうだが」

「先見性の鋭さというか、予知能力が備わっているというか……。確かに数年先を見越した作戦を立てて実行するから、先読みが出来ず今日のことしか頭にない連中にとっては、馬鹿げたことをしているとしか思えないってことはあるでしょうね」

「タルシエンを陥落させて逆侵攻さえできる時に、密かに工作部隊を使ってこつこつとトランターのどこかに秘密基地を建設し、占領後のレジスタンス活動の拠点を作っておく。ランドールならやりかねん。そうは思わないか」

「実際問題として、膨大な弾薬を隠匿してしまったところをみると、有り得ない話しではありませんね。記録によりますと、第十七艦隊所属第八占領機甲部隊ですが、シャイニング基地攻略戦の後、トランター他の主要惑星において補充員の戦闘訓練を実施、かなりの工作部隊も随伴しております。一方、シャイニング基地の再建資材が申請調達され、やはりラスベシオ軍港から積み出しされております。その一部を流用した可能性は否定できないでしょう」

「その機動部隊の指揮官だが……」

「レイチェル・ウィング大佐です。ランドールの副官から情報参謀兼主計科主任を経て、第八占領機甲部隊司令に着任」

「どういう人物だ」

「ランドールと同じく戦災孤児収容施設育ち、養子に迎えられるも実子の誕生を境として養母に疎んじられた後に、養子縁組みを解消される。その際幾許かの慰謝料を渡されたもよう。十二歳の時に初等士官学校へ入隊、さらに中等科、高等科へ進んだ後に優秀な成績で卒業。旧第十七艦隊二十一補給部隊に配属。同艦隊独立遊撃部隊の司令としてランドールが任命されたのを機に転属、ランドールの配下となり重臣の一角を築いてきた……とまあ、こんなところですね」

「性格的な面はどうか」

「主計科主任を兼務して隊員達の生活面を良く指導・監督して、何事にもよく気がついて女性的なしとやかさからくる魅力で、男性隊員の注目の的。女性士官からも慕われている」

「女なのか?」

「はい。共和国同盟軍はじまっていらい初の女性佐官です。第十七艦隊においては、女性佐官は全部で七名、司令官の約六分の一を占めています。その筆頭が総参謀長パトリシア・ウィンザー大佐」

「連邦では考えられないことだな」

「同盟では男女同権の一貫で士官学校から平等に扱われています。もっとも男女比率がこれほど接近した艦隊は他にはありませんが……平均ではせいぜい五パーセント止まりですね」


「結局のところとして、トランターに残る反乱軍は、少なくとも一年間は抗争を継続できるということになるわけじゃないか」

「そういうことになりますが、何より驚異なのは、TNT火薬十五メガトン級核弾頭巡航ミサイルの存在です。一発で二千平方キロメートルの地上を灰塵に帰することができ、三十六基あればトランターの各主要都市を廃墟にできる。国際条約で使用が禁止されている惑星破壊用の反陽子核弾頭に比べれば、破壊力は微々たる旧世紀の代物ではありますが、現在使用可能な地上破壊兵器では最大級ですからね」

「とはいっても奴等がそれを使用することはありえないだろうが、反乱軍に荷担する民衆に対しては十分な説得力を持つことになる」

「そうですね。言うことを聞かない奴には核を使うぞと脅しをかけることもできます」


 第二章 了

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