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第二章・選択する時 Ⅱ

Ⅱ 休息の時


 艦橋から物資の補給状況や対空監視のために居残っているフランソワ。

 そこへイルミナがやってくる。

「艦長。艦長もいらしてくださいよ」

 といって、すでに水着にパーカー姿のイルミナ・クレソン准尉が強引にフランソワの袖をつかんで引き連れていく。

「ちょっと、だめよ」

「だめだめ、艦長がこなくちゃはじまらないんだから」

「それに、水着だって持ってないし……」

「大丈夫。艦長の分もちゃんと用意して有ります。ほら」

 といってイルミナは、ワンピースの水着を差し出した。

「もう……しようがないわね」

「いいじゃありませんか。行ってあげてくださいよ。艦長が動かなければ、他の隊員も遠慮して、動けないじゃないですか。大丈夫、対空管制は自分が見ていますから」

 副長が言うように艦橋には、まだ半数の隊員が残っていた。遠慮のない三回生を除く、四回生の一部と正規隊員のほとんどである。

「そ、そうですか。では、すみません。後をよろしくお願いします」

「まかせてください」

 フランソワが動いたことで、残っていた隊員のほとんどが同時に席を立ちはじめた。


 シューマット群島は珊瑚礁に囲まれた温暖で風光明媚な島である。はるか昔、トランターに人類の植民の手が入った時、地球環境より持ち込まれた生物が海や陸にと分布を広げ、このシューマット群島にも海洋性気候に準じた生物系に進化して、今日の姿を留めることとなったのである。また自然環境保護地域に指定され、一切の人工建造物設営及び居住が禁止されている。

 砂浜は天然の海浜公園と化していた。

 海に入って泳いでいるもの。

 島の砂浜にビーチパラソルを広げて、その日陰に涼んでいるもの。

 ネットを張りビーチバレーに興じるもの。

 各人それぞれが思い思いに短い休息を楽しんでいた。

 突然大型ワゴンカーが砂浜に入り込んできた。

「何事……?」

 一同が首を傾げている間にも、ワゴンカーは止まり、サイドボードを開いて即席出店を広げはじめたのだ。

「へーい。らっしゃい、アイスクリームにホットドック、ジュースにコーラはいかが?」

 ワゴンカーを持ち出したのは、料理長のニック・ニコルソン曹長であった。

「おお!」

 わらわらと人が集まってきて、早速オーダーを開始した。


 イルミナがホットドックとコーラを運んできた。

「はい。艦長、どうぞ」

「ありがとう。でも、お金はどうしたの?」

「認識章を見せたらツケで買えました」

「ツケねえ……後で私が払っておくわ。ニコルソン曹長でいいのよね」

「あ、ありがとうございます」

 砂浜に腰掛けてホットドックを食べ始める二人。

 イルミナが質問する。

「艦長、聞いてもいいですか」

「なにかしら」

「艦長は、どうしてこんな任務を引き受けられたのですか?」

「そうねえ。トランターが好きだから……といいたいけど、私の大好きな先輩のたっての直接の依頼だったから」

「知ってます、パトリシア・ウィンザー大佐でしょう」

「ランドール提督にしても、この作戦を任せられるのは私しかいないって、絶大なる信頼を得ているからといって」

「それです。提督は本当に反攻作戦を考えておられるのですか?」

「もちろんです。だからこそ私を遣わせてレジスタンス活動をさせているのです」

「総督軍の足元を攪乱するためですね」



 それから数時間後。

 アレックスが自分の意思を発表したように、フランソワも自分の意思を艦内放送で流すことにした。

「ミネルバの乗員に告げます。先の記者会見放送のごとく、共和国同盟はバーナード星系連邦の手に落ち、旧同盟艦隊は解体され総督軍に再編されることが要求されています。その一方で我第八占領機甲部隊メビウスは、タルシエン方面軍司令官アレックス・ランドール提督の配下にあります。我がミネルバは提督の意志に従い、レジスタンス部隊の用兵としての任務を開始します。ゆえに乗員達には、故郷に弓引く結果を招くことになります。しかし、それも同盟を解放するための犠牲として考えておいてください。強制は致しません。意にそぐわなければミネルバから退艦することを許します。四十八時間待ちます。それまでに進退を決定してください」

 残るも去るも本人の自由意志にまかせることにしたのである。

「あんなことをおっしゃって良かったのですか?」

「この艦に乗艦している者の多くは士官学校を繰り上げ卒業されて特別徴用されています。軍人としての心構えも出来ないうちに無理矢理引っ張り出されたのです。学生気分のままの者もいます。また家族のいる人もいるでしょう。元々全員、共和国同盟の軍人なのです、同盟が消滅した時点で、軍人としての身分はすでに消失しているのです。軍人ではなくなったからには、祖国へ帰るのが自然であり、それを拘束する権利は誰にもないのです」

「確かにそうですね。無理に引き止めても、士気の低下は避けられませんし、謀反も起きるでしょう」

「レジスタンス活動をする人材は、自らの意思で残ってくれる人だけに限るべきです」


 そんなフランソワの気持ちを察してか知らずか、乗員達はそれぞれに結論を出しつつあった。

「あなたはどうするの?」

「あたしは、艦長についていきます」

「そりゃ、あなたは艦長をお姉さまと思って慕ってるかんね」

「しかしランドール提督はともかく、うちの艦長さんは士官学校出たての新米艦長だかんな。俺達の命を預けるには心許ない」

「そうはいうけど、提督が軍法会議にかけられそうになった時に、計略を案じて救ったのは艦長らしいわよ。つまり今の提督があるのは艦長のおかげというわけね」

「結局、その時もそうだけど、艦長さんは同盟に弓引く定めの星の下に生まれたということかな」

「俺達の任務って、解放軍にとってどんなもんなんだろうか」

「どういうこと?」

「解放が成功するもしないも、結局は宇宙空間における艦隊決戦にかかっているだろう。惑星を守るのも攻撃するのも艦隊次第で、制宙権を確保したほうが周辺の惑星を手中にできるということ。となると俺達のやっていることって何なんだろうかと疑心暗鬼になる」

「そりゃおまえ、自分達つまりトランターにいるミネルバだけを考えるならそうかも知れないけど、これが同盟の全惑星規模でレジスタンス活動が発起されてかつ綿密に連絡を取り合えば大きな力になるってことだよ」

「例えば捕虜になって収容所に入れられたとするでしょう。すると敵軍は捕虜を監視するのに貴重な兵士を裂かなければならないし、脱走されたりなんかしたらさらに捜索のための警察や軍隊を出動させることにもなる」

「そうそう。戦う能力のない奴は速やかに捕虜になったほうが、自国のためになるってことさね」

「捕虜は消極的・受動的ではあるし国家が消滅してしまえば意味をなさないが、より積極的・能動的な行動に出て国家を再建しようとするのがレジスタンスだな」

「敵の注意を自分達に向けさせ兵力分散させるとともに、隙あらば転覆させてしまう」


「結局のところ、このまま共和国同盟がバーナード星系連邦の一州になってしまうか、それともランドール提督が解放に成功するか。って、どっちを信じるかに掛かっているんじゃないの」

「冷静に勢力分析する限りでは、ランドール提督には三十万隻と同数に匹敵するといわれる機動要塞があり、マック・カーサーにはいずれ再編成される旧同盟の残存艦隊百万隻と合わせて二百万隻にのぼる艦隊がある。仮に提督が防衛に徹するとすれば、艦隊六十万隻相当、総督軍はその半分を自国防衛に回したとして残り半数の艦隊百万隻との戦いになる。六十万隻対百万隻、提督の力量からして十分防衛可能な勢力といえるだろう。しかしそれでは同盟の解放をするには至らない。そこでランドール提督が反攻するとなると、動かせない要塞は無意味であるから正味三十万隻、対する総督軍は持てるすべての二百万隻を動員できるから、三十万隻対二百万隻との戦いとなる。よほどの奇策でも講じない限り勝てる見込みはないな……」

「それに解放軍にとってやっかいなのは、かつての味方同士で戦わなければならないので、士気統制面で非常に不利益ということ。総督軍にとってはランドール軍はただの反乱軍であるから、これを討伐することには何ら不都合は生じないのにたいし、解放を旗印にするランドール軍には、旧同盟軍は味方でありまともには戦えない」

「現状のまま維持する限りは、ランドール提督の未来はないということか」

「勝算のない戦いはしないというのがランドール提督の性分らしい。にも関わらず総督軍に楯突く限りは、何らかの作戦を用意しているに違いない」

「過去の例をとってみれば、継続してレジスタンス活動を維持し敵を追い出して国家の再興を謀るには、対抗する国家の援助を取り付けられるかどうかにかかっているといえる」

「対抗する国家?」

「銀河帝国だよ」

「そうか、帝国にとっては同盟が完全に崩壊してしまえば、次ぎなる獲物が自分達であることを身にしみて感じているはず。そこに提督の望みがあるというわけか」

「銀河帝国と何らかの軍事協定を結ぶことに成功すれば望みも出て来る」

「そういうこと。ともかく提督には時間稼ぎが必要だ。そのためにレジスタンス部隊として第八占領機甲部隊を各主要惑星に配置したのではないかと思うんだ」

「でもさあ、もし提督が同盟を解放することに成功すれば、俺達も功労者として二階級特進とか勲章かなんかもらえちゃったりするのかなあ」

「可能性はあるんじゃない。マック・カーサー総督の首でも取れば間違いないかな」

 議論白熱する乗員達であった。

 それも議論に参加しているのは、若い士官達ばかりであった。

 それはもちろん、アレックス・ランドールという英雄の存在がある中で、士官学校に学んだ連中ばかりなのだ。

 そのほとんどが、アレックスに対する熱い信奉があったのである。


 一方その頃、フランソワは艦長室に一人

「果たして何人残るかしら……」

 いくら反乱の狼煙を挙げたとしても、着いて来るものがいなければしようがないし、故郷に弓引くことを強制することもできない。

「先輩なら、こんな時どうなさいますか?」

 物言わぬパトリシアの写真に向かって問いかけてみるフランソワであった。

 ノックの音がして、リチャードが入ってくる。

「あれから三十六時間が経過しました。現在時点の退艦希望者リストです」

「こんなに……」

「妻帯者を中心に七十余名に登る士官が退艦を申し出ております」

「仕方がありませんね。妻や子供を残していくわけにはいかないでしょうから」

「はい」

「リストの全員に退艦許可を与えます。退艦用の艀を用意してください。期限の十二時間後に出発させましょう」

「わかりました」

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