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第二章・選択する時 Ⅰ

I 補給部隊


 シューマット群島に近づいたミネルバ。

 潜望鏡深度で慎重に周囲を探査しているリチャード・ベンソン副長がいる。

「二時方向の海上すれすれに艦影。どうやら味方の補給艦のようです」

「1300時、定刻通りですね。浮上しましょう。上陸準備にかかってください」

「浮上!」

「第一班、警戒体制の位置につけ」


 波静かな海上に補給艦が影を落としている。その影から波飛沫を上げて、ミネルバが浮上してくる。

「補給艦より連絡。島の南東部の入り江付近に降下するそうです」

「艦を島の入り江に入れてください」

「了解。面舵十五度」

「ハイドロジェットエンジン停止。後は慣性に任せて前進する。制動エンジン噴射準備」

 ハイドロジェットエンジンはその機能上から前進のみしか出来ないので、制動用の補助として空中推進用の逆噴射エンジンを併用して使用する。

「制動エンジン噴射準備完了」

 ゆっくりと滑るように入り江に侵入するミネルバ。

「沿岸まで五十メートル。制動開始」

 断続的に逆噴射が行われて徐々に速度を落としていくミネルバ。

「面舵一杯! 左舷側に接岸する」

 沿岸ではすでに降下した補給艦が荷おろしの準備を開始していた。

 そのそばに着岸して停止するミネルバ。

 すぐさま物資の搬入がはじめられた。搬送トラックが両艦の物資搬入口を往来して、弾薬・食料などを移し替えていく。

 ミネルバの作戦室。

 補給艦の艦長ベルモンド・ロックウェル中尉が航海図を指し示しながら説明している。

「ここがメビウスの秘密基地のある海域です。この深海底に秘密基地への入り口があります」

「ずいぶん遠いわね」

「ただ基地への来訪はもうしばらく後にしていただきます」

「なぜですか?」

「このミネルバの任務が敵の陽動にあるからです」

「陽動作戦?」

「あえて敵の渦中に飛び込み、注目を集めるような行動を起こして頂きたいのです」

「それはレイチェル・ウィング大佐の指令ですか?」

「もちろんです。私は指令を伝えているだけです」

「要するに基地には近づかないで欲しいということですね」

「その通りです。基地の存在が敵に知られれば、メビウスの存続も危うくなりますので」

「判りました。指示に従いましょう。しかし、補給は今後も受けられるのですよね?」

「可能な限り手配するとのことです」

「ならいいでしょう」

「私から連絡することは以上です。よろしいですか?」

「はい。ご苦労様でした」

「補給が終わるのは、三時間後です。それでは」

 と敬礼して退室していった。


「艦長。補給を終えるまで三時間は要します。今のうちに補給に関わらない戦闘要員などに休息を与えてはいかがでしょうか」

 イルミナが進言した。

「ところであなたは?」

 ミネルバに来て早々から戦闘状態となったために、各士官達の紹介がまだ済んでいなかった。

「あ。わたしは、艦長の副官を仰せつかっております、イルミナ・カミニオン少尉です」

「イルミナ・カミニオン少尉ですね」

「はい。それで休息の方は?」

「そうですね。どうせ補給が終わるまでは発進できませんから。よろしい、許可しましょう。半舷上陸を与えます。ただし、三時間だけですよ」

「やったー!」

 小躍りして喜ぶ隊員達。それもそのはずで、ミネルバに乗艦しているとはいえ、そもそもは訓練航海の最中に、戦時特別徴用法の適用を受けて、士官学校を繰り上げ卒業して、現地徴用されて四回生は少尉に、三回生は准尉とそれぞれ任官されてしまったのである。士官学校生気分から抜けきれない隊員も相当数にのぼっていた。四回生はともかく三回生はまだまだ子供なのである。

 それから艦橋オペレーター達の紹介があってから、レーダー管制員を覗いて半数ずつに分かれて上陸・休養の時間が与えられた。

 女子更衣室。

「ねえねえ。水着持ってる?」

「もちろんよ。こんなこともあろうかとちゃんと持ってきていました」

「ところで艦長は?」

「艦橋にいらしたわよ」

「休息しないのかしら」

「やっぱり艦長ですもの」

「それじゃあ、可哀想よ」



 補給を終えた補給艦が去っていく。

 それを見送るミネルバの乗員達。

「艦長。トランターを占領した連邦軍の記者会見放送が入っています」

「拝見しましょうか。艦内放送にも流してください」

「わかりました」

 パネルスクリーンにトランターを占拠した連邦軍戦略陸軍中将マック・カーサーが映しだされていた。

『本日をもって、トリスタニア共和国同盟はバーナード星系連邦の支配下に入ったことを宣言する』

 艦内にどよめきが広がった。

「来るべき時が来たというところですね」

 記者会見放送は続いている。

 一人の記者が代表質問に立った。

『共和国同盟には、出撃に間に合わなかった絶対防衛艦隊や、周辺守備艦隊を含めて、残存艦隊がまだ三百万隻ほど残っています。これらの処遇はどうなされるおつもりですか?』

『残存の旧共和国同盟軍は、新たに編成される総督軍に吸収統合されることになるだろう』

『タルシエン要塞にいるランドール提督のことはどうですか? 彼は未だに降伏の意思表示を表さずに、アル・サフリエニ方面に艦隊を展開させて、交戦状態を続けています』

『むろんランドールとて共和国同盟の一士官に過ぎない。共和国同盟が我々の軍門に下った以上、速やかに投降して、要塞を明け渡すことを要求するつもりだ。もちろん総督軍に合流するなら、これまで共和国同盟を守り通したその功績を評価して、十分な報酬と地位を約束する』

 マック・カーサーの記者会見放送に対する乗員達の反応はさまざまだった。

「どうなんだろうね。ランドール提督は徹底抗戦を続けるつもりなのかな」

「じゃない? だってこうやって、メビウス部隊をトランターにわざわざ派遣して、レジスタンス活動させているんだもの」

「しかしそれって、共和国同盟の軍人同士で戦うことを意味してるんだぜ」

「要は艦長次第じゃないのか?」

「もちろん徹底抗戦に決まってるじゃない。こういう時期に転属命令を受けてやって来たんだから、それ以外に考えられないでしょ」

 各自それぞれの意見を寄せ集めて、議論真っ盛りであった。


「乗員達の間では、意見真っ二つに分かれています」

 乗員達の議論を耳にした副長のリチャードがフランソワに伝えていた。

「でしょうね。誰も今後のことはどうなるか判らないし、味方同士で戦うのを避けたいと思うのは当然ですよね」

 フランソワは、この地にしばらく留まることにした。

 乗員達に議論の時間を与え、各自の意思を固めさせるためである。

 もちろん士官学校繰上げ卒業で、未熟なまま徴用された新人達に、艦内装備や艤装兵器などの習熟度を上げる訓練をも兼ねていた。

 さらにしばらくして、マック・カーサーの宣言に答えるように、アレックス・ランドール提督の放送が流された。

『共和国同盟に暮らす全将兵及び軍属諸氏、そして地域住民のみなさんに伝えます。私、アレックス・ランドールは、タルシエン要塞を拠点とする解放軍を組織して、連邦軍に対して徹底抗戦することを意志表明します。解放の志しあるものは、タルシエン要塞に結集して下さい。猶予期間として四十八時間待ちます。なお以上です』

 放送を聞き終えたリチャードが質問する。

「どうなんでしょう。タルシエンに結集する艦隊はあるのでしょうか?」

「期待は薄いでしょうね。解放軍に参加するということは、故郷に対して弓引くことになる結果を招くことになるわ。つまりこのミネルバのようにね。辺境の地へわざわざ出向いて行くことはしないでしょう」

「ということは現有勢力だけで戦わなければならないというわけですか」

「そうなるでしょうね」

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