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第一章・ミネルバ発進! Ⅲ

Ⅲ 深海底秘密基地


 空中戦闘から水中潜航体制に切り替わりつつあった。

「操舵手配置につきました」

「艦首魚雷担当戦闘準備よし」

「水中発射ミサイル担当戦闘準備完了」

「艦尾発射管配置完了」

「機関部、総員配置につきました。ハイドロジェット推進機関異常なし。水中戦闘速度は四十八ノットまで可能です」

「全艦、水中潜航体制に入りました」

「よろしい。直ちに水中潜航に入ります」

「防水シャッター閉鎖」

「バラストタンクに注水」

「メインバラストタンク及び艦首バラストタンク注水開始」

 ゆっくりと海中へ沈んでいくミネルバ。

「海中へ侵入します」

「深度百八十メートルまで急速潜航」

「浮遊機雷投入準備。深度調整五メートル」

「浮遊機雷、水中信管を海面下五メートルにセット」

「現在深度五十メートルです」

「浮遊機雷、準備完了」

「投入!」


「艦長、沈没して爆発したように見せかけるのですね」

「その通りです。まあ、敵が騙されてくれれば儲けもの」

「うまくいってくれればいいのですが」

「深度百メートルです」

 海上で爆発した機雷からの震動が水中を伝って艦内に届いた。各部がミシミシと音を立てて軋みはじめる。

「爆発確認」

「深度百八十メートルです」

「艦を水平に」

「艦体水平」

「艦首バラストタンク半排水。艦尾バラストタンクに五十パーセントまで注水開始」

 ゆっくりと艦首が頭をあげていく。

「水平です」

「進路そのままで前進。無音潜航!」

 しばらく様子を見ることにするフランソワだった。



 深海底。

 潜水艦が航行している。

 やがてとある岩盤に近づいていくと、地響きを立てて岩が割れて、隠れていた侵入扉が開いた。静かにその扉の中へ進む潜水艦。


 秘密基地内部。

 モビールスーツが所狭しと並べられており、各種の戦闘機なども自動昇降装置によって格納されている。

 プールのようになっているその水面に浮上する潜水艦。

 桟橋がせり出して、潜水艦の搭乗口に掛かる。

 やがて搭乗口から出てくる人物がいる。

 第八占領機甲部隊司令官、レイチェル・ウィング大佐であった。

 桟橋の周りには基地の主だった幹部将校達が出迎えていた。

「大佐殿。お帰りなさいませ」

「ついに、連邦の降下作戦が始まったわ」

 歩きながら話を続けるレイチェルと幹部将校。

「はい。傍受した通信によれば、かなり同盟に不利な情勢のようです。やはり絶対防衛艦隊三百万隻が壊滅させられてしまったことで、戦意消失してしまっています」

「でしょうね。現在、まともに戦える戦力と言えば、周辺艦隊の第五軍団と、ランドール提督のアル・サフリエニ方面軍だけです」

「なさけないことですが、出撃に間に合わなかった絶対防衛艦隊の生き残りはすでに降伏の意思表示をしています」

「しようがないでしょ。まともに戦ったことのない司令官達ばかりなんですから。スティール・メイスン少将の戦歴を知れば、戦う気力も起きないでしょう」

 大きな扉の前に来る。

 扉を警護している兵士が敬礼し、扉を開ける。


 中央作戦司令部。

 岩盤を繰り抜いた洞窟状の広大な部屋に、所狭しと各種の機材やコンピューター端末が整然と並べられ、それぞれにオペレーター達が甲斐甲斐しく操作していた。

 レイチェルの入室に気づいたそれらのオペレーター達は、一斉に立ち上がって敬礼を施し、再び端末に向かった。

 部屋の正面の壁に展開するマルチパネルスクリーンに、トランター本星各地の状況を示す映像が次々と映し出されていた。

 天空から舞い降りてくる連邦軍降下部隊、迎撃する地上基地、海上に浮かぶ無数の艦艇。攻撃する側と防衛する側の情勢が手に取るように判別できる。

「トランターが陥落するのは、時間の問題ですね」

「そうね」

「ミネルバはどうですか?」

「ミネルバは基地を出立して、連邦軍降下部隊との戦闘の後、ミューゼス海域にて潜航状態に入りました。交信記録を解析したところでは、かなりの弾薬を消耗したもようです。おそらく補給が必要でしょう」

「そうね……。ミネルバの現在地と敵部隊の展開状況から、最適な補給地点を割り出してください」

「了解しました」




 水中潜航しているミネルバ。

 艦内において、音を立てないように息を潜めている隊員達。

「だいぶ時間が経ちました。そろそろ、いいのではないでしょうか?」

「そうですね。でも、念のために、海上ドローンを投入して上空を探査してください」

 上部ハッチが開いてワイヤーに繋がれたバルーンがするすると浮上していく。

 海上ドローンは、潜水艦が上空の敵機・艦隊を索敵するために、超小型レーダーを搭載したバルーンで、ワイヤーを通して情報を得ることができる。

「ドローン、海上に到達。索敵を開始します」

 ドローンからのデータが、レーダー手の前面パネルに投影された。

「海上及び上空には敵影の存在ありません」

 オペレーターが答える。

「どうやら去っていったようですね」

「騙されたかどうかは判りませんが、潜航艦相手に揚陸艦では戦闘になりません。ひとまず追撃を断念して、他の地区へ転戦したのでしょう」

「どうします。浮上しますか?」

「いえ、もうしばらくこのまま潜航していきましょう。ヒベリオンが弾切れでは、攻撃されたらたまりませんからね」

 ミネルバには弾薬が乏しく敵に発見されにくい潜航を選ぶのは当然である。

「わかりました」

 ミネルバには、超伝導現象を巧みに利用してジェット水流を起こし後方に噴出することで水中を高速で移動できる、ハイドロジェット推進機関(HJE)が搭載されている。高速とはいっても他の水中艦艇に比べてであり、移動速度では空中を進んだほうが圧倒的に速いのは確か。

 隠密行動が出来る点で便利ということと、空中ではエンジンを止めれば落下してしまうが、水中ならば浮力に支えられているから、水中抵抗を差し引いても燃費が良いこともある。反面、主砲や高性能索敵レーダーをはじめとして大半の武装が使えなくなるので防備の面で不利となる。

 水中艦艇や水中アーマーに出くわし魚雷を受けたらひとたまりもなく水没してしまう。その時のために速やかに空へ舞い上がる準備だけは怠れない。

「ハイドロジェット推進機関始動開始」

「ハイドロジェットエンジンに海水注入開始。補助ポンプ始動」

「超伝導コイルに電力投入開始。融合炉よりの電力供給に異常なし」

「エンジンへの注水完了」

「電力ゲージ、五十パーセント」

「エンジン内、圧力上昇中」

 ハイドロジェット推進は電気推進の一種であるから、内燃機関のように艦内の空気を消費したり汚染したりしないので、非常にクリーンであるといえる。長時間の潜航が可能となるのも便利である。

 頃合良しとみてフランソワは艦を発進させた。

「ハイドロジェット、微速前進」

「ジェットノズル弁解放」

「微速前進」

「進路は?」

「北緯三十五度、東経百二十度のパラリス諸島へ向かってください。補給艦と合流して燃料・弾薬の補給を受けます」

「どうしてそこに補給艦がいると?」

「こちらに来る時の命令書に指示が書いてありました。基地出立の後パラリスへ向かえとね」

「なるほど。こうなることは予想済みというわけですか」

「目標到達予定時間は?」

「十一時間三十二分後であります」

「それでは、交互に休息を取らせてください」

「わかりました」


 航海士のスチュワード・スミス少尉が、現在位置と目標点から即座に航路を計算して進路を示した。

「進路を一四○に取る。取り舵二十度」

 それを操舵手が復唱して確認する。

「進路一四○」

「取り舵二十度」


「戦闘配備を解除。第二級警戒体制に」

「戦闘配備解除。第二級警戒体制」

「三十分後に各部署の長を作戦室に集合させてください。それまで艦長室にいます。副長、後をよろしく」

「わかりました。三十分後ですね」

「あ、艦内を案内します」

 イルミナが後を追いかけた。

「その必要はありません。艦内の見取り図はすべて記憶していますから」

 と微笑みながら、イルミナの申し出を断るフランソワ。

「そうですか……」

 ちょっと残念そうに元の席に戻るイルミナ。

「ほう……」

 という声があちこちから漏れる。

「艦内見取り図どころか、ミネルバの戦闘装備についても全部理解していましたよ」

「そういえば、戦闘指示だって一つのミスや思い違いしていない」

「水中潜航には専任の潜航士官が別にいることもちゃんと知っていましたし」

「さすがに、艦長に選ばれてくるだけのことはあるというわけか」

「そりゃそうですよ。今回の艦長の任務には、佐官昇進試験をも兼ねているんでしょう?」

「士官学校卒業したばかりで、もうすでに佐官候補生か……」

「そんなエリート艦長がやってくるところをみると、今回ミネルバに与えられた作戦も、かなり重要だと俺はみたね」


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