第一章・ミネルバ発進! Ⅱ
Ⅱ 機動戦艦ミネルバ
ケースン研究所内にある造船工場。
機動戦艦ミネルバが係留され、発進の刻を待っていた。
そのミネルバ艦橋。
副長のリチャード・ベンソン中尉は苛立ちを隠せない表情であった。
「艦長からの連絡は?」
「ジャミングがひどくて通信困難」
「シャトル搭載の通信機の出力は小さいからな」
「上空軌道を探査衛星が通過します」
「やばいな……」
「探査信号、艦体を透過」
「上空軌道の艦隊。軌道爆雷投下ポイントに移動開始」
「見つかったな」
「投下ポイント到達まで二分三十五秒」
「仕方がない。艦長はいないが……発進準備にかかれ」
「ちょっと待ってください。三時の方向より味方信号接近中です」
「スコット・リンドバーグのシャトルです。着艦許可を申請しています」
「艦長はおられるのか?」
「はい。おられるそうです」
「わかった。メインゲートへ誘導してやれ」
「了解!」
「リンドバーグ機、着艦を許可する。メインゲートより進入せよ」
『了解。メインゲートより進入する』
メインゲートには、艦橋へ直行できる高速エレベーターがある。
メインゲートに滑り込んでくるシャトル。
ただちにタラップがかけられて、フランソワが降りて来る。
艦内放送が告げている。
『敵艦隊、機動爆雷投下ポイントまで三十秒』
「ご覧のとおりです。ただちに艦橋へ」
「艦橋は?」
「艦長。こちらです」
高速エレベーターの前に案内されるフランソワ。
艦橋。
エレベーターの扉が開いてフランソワが姿を現した。
「艦長!」
一斉に振り向き、敬礼をする艦橋勤務の士官達。
「敵艦隊、投下ポイントに到達」
「時間がありません。発進準備は?」
「完了しています」
「では、ただちに発進してください。ヒペリオンの各要員は配置について」
「すでに配置を完了しています。ミネルバ発進します」
ヒペリオンは、その主要構造は電磁飛翔体加速装置であり、電位差のある二本の伝導体製のレール間に、電流を通す伝導体を弾体として挿み、この弾体上の電流とレールの電流に発生する磁場の相互作用{ローレンツ力}によって、弾体を加速・発射する物でハイパーベロシティガンともいう。
この際、伝導体は流す電流の量によっては、電気抵抗により蒸発・プラズマ化してしまう事もあるが、プラズマであっても伝導体として機能しローレンツ力が働くため、弾体自身は電流を全く通さない樹脂などの非伝導体で作り、弾体後部に導体を貼り付ける様式が一般的となっている。
理論上では、レールガンが打ち出す弾体の最大速度に限界はない。相対論的制約で光速度が上限となるのみである。発射速度は入力した電流の量に正比例するため、任意の発射速度を得るために、任意の電流を入力してやればよいだけであるが、実際は摩擦や損失が生じるために理論通りにはいかない。
概ね、ローレンツ力と各種の摩擦や損失がつりあう速度が最大速度となる。
現実問題としてはヒペリオンにおける初速19.2km/s が現時点での最大射出速度の記録となっている。
さらにヒペリオンの場合は、CIWS{近接防御武器システム}の一環として改良が加えられ、毎分2,000発もの連続発射が可能となっている。
砲弾には炸薬も推進剤もないために誘爆の危険もなく大量安価に搭載できるために、弾切れを起こすことはほとんどない。もちろん開発者はフリード・ケイスン科学技術士官であることは言うまでもないだろう。
直ちに発進を開始するミネルバ。
「係留解除」
「浮上開始」
「ミネルバ、発進する」
「ヒペリオン、発射準備完了」
「上空に軌道爆雷多数!」
すかさずフランソワは下礼する。
「待避運動、面舵二十度転進」
「面舵二十度コースターン」
「ヒペリオン、一斉発射して弾幕を張れ」
「敵の揚陸艦を確認」
「戦闘機がこちらへ飛来してきます」
「対空戦闘用意」
次々と命令を続けるフランソワ。
オペレーター達も黙々とそれに答えて命令を実行していた。
スクリーンに明るく明滅する光点が現れた。
「後方に戦艦クラスの揚陸母艦を多数確認」
ふと考えてから、
「敵の揚陸母艦を攻撃します。アーレス発射準備」
と、ミネルバ主砲の発射体制に入った。
アーレスとは、原子レーザー砲のことである。
減衰率の大きい大気圏内において、最も効率的なエネルギー効果を達せられるように改良が加えられ、なおかつ連続発射タイミングも通常の三分の一までに短縮されている。
「アーレス発射準備」
「超伝導コイルに電力供給開始」
「BEC回路に燃料ペレット充填」
「原子レーザー発振回路限界点に達しました」
「射線軸を合わせる。取り舵、五度回して」
「取り舵、五度」
「軸線、合いました。撃てます」
「アーレス発射!」
「アーレス、発射します」
ミネルバの艦首から、空気を切り裂く凄まじい音響と共に、敵揚陸母艦に一直線に突き進む原子レーザーのエネルギー。
そして見事に命中して、敵揚陸母艦を撃沈させた。
さらに連続発射で次々と撃沈させていく。
しかし、次から次に現れてはミネルバに向かってくる。
「執拗に向かってくるわね」
ふとため息交じりに漏らすフランソワ。
「向こうも味方が撃沈されて、激怒しているのでしょう。仇討ちのために逃がすものかと迫ってくるのです」
「でしょうね」
戦闘機群が飛来してくる。
「エネルギーゲージダウン。最充填が必要です」
「面舵一杯、最大戦速で逃げます」
「面舵一杯」
「最大戦速」
「機関出力最大、全速前進」
迫り来る揚陸母艦に対して背を向けるミネルバ。
「艦長。ヒペリオン弾丸が切れかけています」
まだ試験運用段階のために燃料や弾薬などを満載にしてはいなかった。本来弾切れを起こすことのないヒペリオンも同様である。
「これまでのようですね。戦線の離脱を計ります。高度を下げて海上に着水してください」
「高度を下げます」
「着水準備」
「これより、水中潜航モードに移行します。潜航士官は交代準備にかかってください」
「潜航士官、交代準備」
水しぶきをあげて海上に着水するミネルバ。
「着水完了」
「潜航準備。総員、潜航士官に交代せよ」
この機動戦艦ミネルバには、士官学校卒業したばかり、もしくは卒業見込みの繰り上げ者が多数乗艦している。なので未熟者が多く、航空士官と潜航士官とに分かれてそれぞれ訓練を続けていた。