第六章・新造戦艦サーフェイス Ⅲ
Ⅲ
その頃、ミネルバが発進した造船所では、新造なったミネルバ級二番艦の【サーフェイス】の出航式が執り行われていた。
「機関始動開始!」
「超伝導回路に液体ヘリウム注入!」
「浮上システムに異常は見当たりません」
機関部より次々と報告がなされるサーフェイス艦橋。
新艦長となったゼナフィス・リンゼー少佐が、造船所長官に挨拶をしていた。
「建造を急がせてしまって済みませんでした」
「なあに、いいさ。君もミネルバ討伐隊の司令官として責任重大だからね」
「これまで煮え湯を味合わせてくれたお礼は、倍にして返しますよ」
「まあ確かに、ミネルバを含むメビウス部隊によって、占領政策にもかなりの支障をきたしている。君達の活躍に期待しているよ」
「ご期待に沿うようにいたします」
オペレーターが報告をしてくる。
「サーフェイス、出航準備完了しました」
「私は降りるとしよう」
「お手数をおかけしました」
「うん、しっかりな」
「それでは、行って参ります」
下船する造船所所長に敬礼をしつつ見送るリンゼー少佐だった。
やがて勇壮と造船所を出発してゆくサーフェイス。
「今度こそ互角の戦いができるぞ」
「砲弾一発で撃沈は辛かったですね」
「ああ、宇宙戦艦では、大気圏戦闘に特化したミネルバは倒せない」
「そのミネルバを早く探し出して雪辱を晴らしましょう」
「そうだな。が、どこをうろついているかだ」
「いずれ情報部から連絡があるでしょうが、パルチザンによて撹乱されていて、正しい情報がなかなか集まらないらしいです」
「致し方ないな。こちらで独自に探し回るしかないということか」
「運まかせですね。うまく遭遇できれば良いのですけど」
「まあ、何とかなるだろう。何せ相手は、最新鋭の巨大戦艦だ。そうそう雲隠れできるものでもない」
「水中潜航を続けていたら?」
「何らかの作戦命令があれば、水中から出てくるだろう」
「そうですね」
「とにかく、いついつまでに掃討しろと期限は切られていないんだ。先は長いさ、のんびりやろうじゃないか」
「はい、判りました」
「今頃、ランドール提督は何をしているのだろうな」
「噂では、援軍を求めるために銀河帝国へ向かったらしいです」
「銀河帝国か……。この戦いのキーパーソンだな」
「ランドール提督が、銀河帝国を味方に付けて戦いを挑んできたら、ひとたまりもないでしょうね」
「例え有象無象の連中でも、作戦巧者の手に掛かれば百万馬力さ」
「司令!」
オペレーターが突如として叫んだ。
「なんだ?」
「たった今、ラグーンのミサイルサイトが破壊されたとの報告がありました」
「たぶんミネルバでしょう」
「ラグーンか……とっくに現場を立ち去っているだろうが、方向性は掴めるだろう。よし!急行しろ!!」
「全速前進!ラグーンへ」
ほどなくして、ミネルバとサーフェイスが対峙することになる。
ミネルバ艦橋。
「右舷三時の方向より、大型艦接近中です」
「警報!全艦戦闘配備!」
艦内を駆け回って、それぞれの部署へと急行する将兵達。
「戦闘配備完了しました」
「敵艦の動きは?」
「まっすぐこちらへ向かってきます」
ミネルバ乗員達の目に飛び込んできたのは、ミネルバと全く同じの巨大戦艦だった。
「あれは、ミネルバ?」
副官が驚きの声を上げた。
「ミネルバ級二番艦のサーフェイスだわ。完成はもう少し後のことだと知らされていました」
「急がせたのでしょうねえ」
ミネルバ級は、一番艦のミネルバ、二番艦のサーフェイス、そしてまだ命名されていない三番艦まで建造計画が予定されていた。
「同型艦が相手では苦しいですね」
「しかし、やらなければやられます」
「判っています。艦の性能は互角ですから、新型モビルスーツに活躍してもらわなければなりません」
「なるほど、新型モビルスーツを奪還したのは、ここまで読んでいたからですね」
「その通りだと思います」
「ミサイル発射管室より、装填ミサイル種を聞いてきております」
「無誘導慣性ミサイルを装填してください」
「了解。無誘導慣性ミサイル装填」
「無誘導ですか……。大昔の戦艦同士における艦砲戦になりそうですね」
「レーザー誘導ができませんからね」
同型艦なら当然、超伝導磁気浮上システムによる電磁波遮蔽能力を備えている。
超伝導によるマイスナー効果(完全反磁性)によって、磁力を完全遮断して電磁波を通さない。
「すべてのセンサーを超音波センサーに切り替え」
電磁気は防がれても、音波は防げないということだ。
遮蔽能力を最大限に引き上げると、光すらも通さなくなるが、当然電力消費も莫大となり、兵器に回す電力が足りなくなる。防御に徹するならそれでも良いが、ミネルバとの対決を目指すサーフェイス側としては論外であろう。
接近するサーフェイスを見つめるフランソワ。
「これより、敵艦サーフェイスとの戦闘になる。レーザー誘導ができないため、自分の目と感が頼りになる。各砲手は光学側距離計を用いて攻撃体勢に入れ」
簡単に説明すると、ライフル射撃手がスコープをのぞいて目標を撃ち抜くということだ。
フランソワも言ったとおり、自分の目と感が頼りということ。
「艦長、これを」
と、副長が差し出したのは双眼鏡だった。
「ありがとう」
受け取って、敵の艦影を確認するフランソワ。
「敵艦との推定相対距離、5.7ゲイン」
「距離設定5.7ゲイン」
発射管室に距離指定が出される。
「合わせました!」
即座に返ってくる。
「艦首発射管開け!」
艦首の発射管が開かれてゆく。
水中・水上にあっては魚雷、空中ではミサイルを発射できる。
「艦首発射管開きました」
「艦首ミサイル発射!」
「発射!」
艦首から発射されるミサイル。
噴煙を上げて一直線に敵艦に向かって突き進んでゆく。
その奇跡を双眼鏡で見つめるフランソワ。