第五章・ターラント基地攻略戦 Ⅵ
Ⅵ
「総員帰還しました」
「司令本部より暗号通信入電!」
「解読してください」
「ただ今解読中です」
やがて解読されて報告される。
『ターラント基地を攻略し、撤退命令あるまで確保せよ』
その指令に、げんなりという表情をする副官。
「まともな休息もありませんね。次から次へと命令が届けられます」
「仕方ありません、我々の任務は陽動です。総督軍の只中にいるのですから。それより回収したモビルスーツを使って、パイロット候補生の訓練を始めてください」
「了解しました」
というわけで、パイロット候補生の訓練が開始された。
発着格納庫で、ナイジェル中尉が、候補生を前に訓示を垂れる。
「パイロットになるための訓練はきびしい。志願した君達には十分な訓練を積んで、立派な戦士となってもらいたい。幸いにも鹵獲したモビルスーツを持って、訓練の機会が増えたのは喜ばしいことだ。今から読み上げる者から順に機体に搭乗しろ。呼ばれなかった者は次の順番とするが、訓練を見学しつつ仲間の動きを観察して研究しろ」
名前を順番に読み上げるナイジェル中尉。
その頃、病室に入れられている三人。
サブリナ中尉が面会に来ていたのはアイクとジャンのいる病室。
サリーは、まだ回復せず別室となっていた。
サブリナを見つけて、中の一人が駆け寄ってきた。
「いい加減に出してくれよ!」
隔てられた窓ガラス越しに懇願するのはアイクだった。
「いいだろう。三日間の休息を与えた後に、仲間と共に訓練をはじめる」
「訓練か……それは、いやだなあ」
「何を言っておるか。強制召集されて軍に入ったんじゃなくて、志願したんだろ?」
「まさか、トリスタニア共和国が滅亡するとは、思ってもみなかったもんでね。後方部隊でのほほんとしていながら、給料を貰って楽しみたかったよ」
呆れ返るサブリナ中尉。
「甘ったれたことを言うんじゃない。艦長は君達の将来を、いつも考えて戦っているのだ」
「そういえば、まだ艦長さんにはお目見えしていないな」
「そのうちに会えるさ。ともかく三日間の休息だ。十分に身体を養生しておけ」
「へいへい。ところでサリーはどうしている。見えないが……」
「まだ集中治療室だ。起き上がれるまでには回復しているがな」
「それは良かった」
突然、サイレンが鳴り響いた。
「なんだ?」
「ターラント基地の攻略戦が始まるのさ」
「ターラントって結構大きな基地じゃないか。大丈夫なのか?」
「五隻の応援部隊が駆けつけている。この機動戦艦ミネルバと合わせて、艦長なら何とかするさ」
壮烈なるターラント基地攻略戦が開始された。
ミネルバ。
艦内の至るところで、警報が鳴り響き戦闘態勢が発令された。
「艦載機及びモビルスーツ隊は発進準備せよ」
フランソワの命令を伝えるオペレーターの声がこだまする。
格納庫から戦闘機が次々と引き出されて、発着艦デッキへと移動されてゆく。
モビルスーツへと駆け込むパイロット達。
サブリナ中尉とハイネ上級曹長、ナイジェル中尉とオーガス曹長も複座式の新型に乗り込む。
搾取したモビルスーツも全機投入される。
「アイク、ジャン、両名とも搭乗完了しました」
「出撃させてください」
「了解しました」
今回の作戦は総力戦である。
モビルスーツ及びパイロットを遊ばせておくわけにはいかないのである。
作戦に参加する艦艇も、ミネルバ以下の空中戦艦、水上艦艇、陸上部隊と動員できるものはすべて参加していた。
「あの新人、大丈夫でしょうか?」
副長のリチャード・ベンソン中尉が心配する。
「アイクはサブリナ、ジャンはナイジェルに任せてあります。何とか扱ってくれるでしょう」
「二人の競争意欲が邪魔をしなければと思うのですがね」
フランソワとて考えでもないが、それを口にすることは士気の低下を招くことも良く判っていた。
「良いほうに考えましょうよ。オニール准将とカインズ准将もまた競争心によって、絶大な功績を挙げたのも事実なのですから」
「確かにそうではあるのですが……」
煮え切らない副長であった。
オニールとカインズ両名は、有能であるからこそ競争心は向上心となりえた。
アイクとジャンは未熟で能力は未知数である。が、未知数であるからこそ将来もまた有望であるかも知れないのだ。
激烈なる戦闘が繰り広げられる中、アイクとジャンも頑張っていた。
双方ともパイロット役として、操縦桿を握っている。
「右後方に敵機!」
機関士でありナビゲーターでもあるサブリナ中尉が警告する。
「了解!」
振り向きざまに、ビームサーベルを抜いて切りかかる。
「上手いぞ。その調子だ」
サブリナの指揮・指導の元、着々と技術を向上させてゆくアイク。
ジャンとナイジェル中尉の方も同様であった。
「アーレスを発射します。軸線上の機体は待避せよ」
ミネルバからの指令に、サブリナ機及びナイジェル機、その他多くの機体が退避する。
その数分後にミネルバから強力な光が放たれターラント基地を破壊した。
その凄まじさに驚愕した基地司令官は白旗を揚げて降参。ターラント基地はミネルバの手に落ちた。
「作戦終了! これより、この地に留まって撤収指令が出るまで確保する」
メビウス海底基地司令部。
ターラント基地攻略成功の報告が届いていた。
「着々と任務をこなしているようですね」
副官が感心していた。
「まあ、ランドール提督の眼鏡にかなった人物ですからね。それなりの力量は持っているはずです」
レイチェルの言葉には確たるものがあるようだ。
「ここいらで休息を与えてはどうでしょうか?」
副官の提案にレイチェル・ウィング大佐が答える。
「それはやまやまなのですが、総督軍もミネルバを追い回しているみたいですからね。それにミネルバ級二番艦の【サーフェイス】も完成の間近なようですから」
「ミネルバ級ですか……」
「このミネルバ級と合わせて三番艦まで建造予定でした。いずれもメビウス部隊の所属になるはずでしたが、占領の方が早過ぎたのです」
「連邦軍のスティール・メイスン提督の作戦が作戦が素晴らしかったからですね」
「三百万隻もの艦艇を炎で焼き尽くしてね」
「あれには参りましたよ。お陰で共和国将兵は腰を抜かしてしまいました」
「しかし、サーフェイスが完成し実戦配備されると、今後の活動に支障が出ますね」
これまでの勝ち続けの戦いは、最新鋭空中戦艦ミネルバがあってこそのものだった。総督軍がミネルバ級をもって対戦を挑んできたら勝ち目は遠のく。
「サーフェイスが実戦投入される前に、トランター解放作戦を成功させなけらばならないようですね」
という副官のため息とも思える言葉に、
「そのためにもモビルスーツ隊の教練度を上げる必要があります」
レイチェルが作戦の方向性を唱える。
「訓練ですか……例の三人組も?」
「もちろんです。パイロット候補生は一人でも多い方がよろしい」
「分かりました。ミネルバに伝えます」
第五章 了