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第五章・ターラント基地攻略戦 Ⅳ


 湿地帯の中を突き進むオーガス曹長の班。

 足を取られながらも前進を続けていた。

「ようし、ここらでいいだろう。上陸するぞ」

 向きを変えて、湿地帯から上がろうとするオーガス班。

 およそ三分の一ほどが上陸した時だった。

 森林の奥からミサイルが飛んできて、一機に命中した。

 ペイント弾が破裂して、機体を真っ青に染め上げる。

『ガラン上級上等兵、命中です。行動不能に陥りました。隊より離脱して帰還してください』

 通信機から指示が入った。

 戦闘シュミレーションによって、攻撃を受けた場合の損傷状態が計算され、戦闘不能と判断されて帰還命令が出されたのである。

「りょ、了解。帰還します」

 隊を離脱して帰還の途につくガラン上級上等兵。

 奇襲攻撃にたじろぐ兵士たち。

「な、なんだ? どうしたんだ」

 オーガス曹長も例外ではなかった。

「奇襲です。森の奥から攻撃を受けています」

「森の奥からだと?」

 攻撃は続いていた。

 次々と撃破されて離脱する機体が続出していた。

「一時後退だ。湿地帯へ戻れ」

 湿地帯へと避難するオーガス班の機体。

 だが、違う方角からの攻撃が加わった。

「後方よりミサイル多数接近!」

「ミサイル?」

「対岸より発射されたもよう」

「対岸というと、サブリナ中尉か!」

「挟み撃ちです」

 進むもならず、退くもならず。

 進退窮まって全滅の道を急転直下のごとくに陥るオーガス班だった。


 全滅だった。


「こんなのありか……? 二班から同時攻撃を受けるなんて」

「おそらく共同戦線を張られたのかと思いますが」

「共同戦線だと?」

「はい。作戦概要の禁止条項を確認しましたところ、ルール違反にはならないようです」

「サブリナ中尉の策略か」

「そのようですね」

 通信機が鳴った。

『オーガス曹長の班は、総員帰還せよ』

 ミネルバからの連絡は、冷徹な響きとなってオーガスの耳に届いた。

「了解。帰還する」

 ペイントまみれの機体が続々と帰還をはじめた。


「オーガス班、全滅です。総員、帰還の途に着きました」

「ふふん。天狗になっているから、こういうことになるのさ」

「これから、どうしますか?」

「共同戦線はここまでだからな。この勢いに乗ってハイネの班へ殴り込みをかけたいところだ」

「C班ですね」

「まあ、ハイネは個人としての戦闘能力はずば抜けて高いが、所詮はただの下士官だ。作戦を立て、隊を指揮するなどという頭脳プレーは経験がない。ちょっとかき回してやれば、隊は混乱に陥り、士気は乱れて自滅する」

「サブリナ中尉の指揮下にあってこそのものということですね」

「その通りだ。ハイネ上級曹長、恐れるに足りずだ」

 数時間後、ナイジェル中尉率いるB班と、ハイネ上級曹長率いるC班が、戦闘の火蓋を切った。

 ナイジェル中尉の予想通り、ハイネ上級曹長率いるC班は、緒戦こそ善戦したが、ナイジェルが放った陽動作戦に見事に引っかかって、善戦むなしく敗退した。

 奮戦むなしく帰還するC班を見送るナイジェル中尉。

「ようし続いて、残るD班との決戦だ。その前に補給だ。しっかり燃料弾薬を積み込んでおけ」

 負け組みが帰還した後に残された陣地は、勝ち組が自由に使っていいことになっていた。



 時間を遡ること、オーガス班が全滅した時点。


「攻撃、中止!」

「攻撃中止!」

 耳を劈くような発砲音が一斉に止んだ。

「オーガス班、全滅のもようです」

「作戦通りだ」

「この勢いに乗ってハイネのC班を料理しに行きますか」

「いや、その前に一旦陣地に戻って補給をしておこう」

 陣地に戻って補給を受けるサブリナ班。

 オーガス曹長の班への遠距離ミサイル攻撃で、ほとんどの弾薬を使い果たしていた。

 補給を受けながら、次なる作戦の構想を練っているサブリナ。

 副隊長のカリーニ少尉が尋ねた。

「よろしいのですか?」

「なにがだ?」

「こうしている間にも、B班がC班を撃滅に成功すれば、功績点は全部B班のものになり、A班を全滅させた功績点の分配率6割と合わせれば、仮に我々D班がB班を全滅させても総合点で追いつけません」

「いいじゃないか。いかに功績点を挙げようとも死んでしまっては元も子もない。ランドール提督の口癖だよ。生きて帰ることこそが勝利者だとね。我々はB班を全滅させればいいんだ」

「ではB班を倒す算段があるということですか?」

「ともかくB班とC班に存分に戦ってもらうことだ」

「つまりハイネ上級曹長とナイジェル中尉とが戦って消耗するのを待つわけですね」

「漁夫の利というやつだ」

「どちらが勝っても戦力低下は否めないですよね」

「まあ、どちらが勝つかは想像がつくがな」

「ナイジェル中尉ですね」

「たぶんな」


 やがて、C班の敗北という情報が入った。

「小隊を指揮させるには、まだまだ経験不足か……」

 思案に暮れるサブリナだった。

 そんな様子を見つめているカリーニ少尉。

「ん、どうした? 顔に何かついているか?」

 見つめられているのに気が付いたサブリナがたずねる。

「いえね。考えていたんですよ。中尉殿がC班のリーダーに副隊長の私ではなく、ハイネ上級曹長を推薦したのか」

「それで?」

「ハイネは、中尉殿が小隊の隊長として任官した時に付いた初めての部下の一人ですよね」

「まあな。当時は伍長だったが」

「いろいろと経験させてみるのも、本人の隠れた能力を引き出す可能性を見出すことになります。中尉殿は、チャンスを与えられたのですね」

「直属の部下に対する、えこひいきだと思うか?」

「そんなことはないでしょう。部隊を指揮できる者が一人でも多いほうが、作戦の幅が広がりますからね。目先のことではなく、将来を見越して行動することは大切だと思います」

「ありがとう」

 その時、機体への補給が完了した報告がもたらされた。

「それじゃあ、行くとするか」

「ナイジェル中尉を叩きにね。ハイネ上級曹長の仇を討ちましょう」

「ようし、出撃準備だ」

「総員出撃準備。機体に乗り込め」


 砂塵を上げて進撃を開始したサブリナ達。

 やがて目の前に森林地帯が広がった。

「何があるか判らん。慎重に進め」

 警戒しながら突き進む。

 と、突然。

「止まれ!」

 サブリナが叫んだ。

 全軍が停止する。

 ナイジェル機のコックピットが開いてサブリナが降りてくる。

 そして慎重に周囲の探索をはじめた。

 そこら中に爆薬が仕掛けられているのが確認できた。

「なるほど、ブービートラップか……。後方の憂慮を最小限に食い止めておいて、前面の敵に全精力を注ぐというわけだな。ハイネらしい考えだ」

「どうします? 迂回しますか?」

「せっかくのトラップだ。利用させてもらおうじゃないか」

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