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第四章・新型モビルスーツを奪回せよ Ⅵ


 夕闇に暮れるバルモア基地を格納庫へと突っ走っている特殊工作部隊。

 警備兵の姿が見られないのは、ミネルバ迎撃のために海岸へと応援に借り出されているせいだろう。

 格納庫の扉を開けて潜入するが、

「何者だ!」

 庫内に残っていた警備兵に発見される。

 銃撃戦が開始され、わらわらと待機所から警備兵が飛び出してくる。

 そんな中、遅れてやってきた二つの影があった。

 アイクとジャンの二人であった。監視がいなくなったのを機に、どうにかしてロープを解いて、後を追ってきたのであろう。

 と、目の前にシャーリー隊長が、コンテナの影に身を隠しながら、銃撃戦を繰り広げている場面に遭遇した。

「やあ、こんばんは」

 気楽に声を掛けるアイク。

「お、おまえ達!」

 目を丸くしているシャーリー隊長。

「どうやって解いた?」

「いやね、こいつは縄抜けの名人でね」

「そんな事はどうでもいい。宿舎に戻って寝てろ!」

「ここまで来て、それはないでしょう。手伝いますよ」

「そうそう。あの新型モビルスーツを奪取するんですよね」

 ちょこっとコンテナの影から顔を出して、庫内に据えられているモビルスーツを見上げるジャン。

「危ない!」

 シャーリーが首根っこ掴んで引き戻す。銃弾が顔を出していた辺りに着弾する。間一髪のところであった。

「ひえええ! 危ないなあ」

 格納庫のシャッターがゆっくりと開き始めた。

「まずい。奴ら、モビルスーツを駆り出してきた」

 膠着状態を打破するために、モビルスーツを使って強制排除するつもりのようだ。

「ハイネ! ギルバート! モビルスーツに乗り移れ、援護する」

 そう叫ぶと、コンテナの影から飛び出して、銃を乱射しながら庫内にあったジープに向かって一目散に駆けていく。そしてその背後に隠れる。

 その間にも、名前を呼ばれた二人がモビルスーツに乗り移ろうとしていた。

 一人は乗り込みに成功するが、一人はコクピットに乗り込む寸前に銃撃に倒れて、コンクリートの床に落下した。

 恐る恐る倒れた兵士に近寄るアイクとジャン。

 兵士は虫の息だった。

 そして震える手で、持っていたディスクを二人に差し出しながら、

「こ、これを……たのむ」

 そう言い残して事切れた。

 ディスクを手渡された二人は、しばし見つめ合っていたが、

「これ起動ディスクだろ?」

「たぶんな」

 モビルスーツを見上げ、やおら登りはじめた。

 そして無事にコクピットに潜り込むのに成功する。

「へえ、うまい具合に複座だぜ」

「うん。俺の方が操縦担当だな」

「こっちは機関担当ってところだ」

「ええと、ディスクの挿入口は……。あった。ここだ」

 起動ディスクを差し入れると、計器類が一斉に点灯し、ディスクを読み込みはじめた。次々と計器類を操作して、起動の準備を進めていく二人。


 カメラが作動して、目の前の様子が映し出された。

 ジープの荷台に設置された機銃を一斉掃射している隊長が映っている。

「やるなあ。あの隊長」

「感心している場合かよ。まだ動かせないのかよ。モビルスーツがすぐそこまで迫っているんだぞ」

「うるせえよ。まだだよ。そっちの武器の方こそ使えねえのかよ」

「今、確認してるさ。何だこりゃ?」

「どうした?」

「残弾数が0だよ。試運転中だったから、弾薬を積んでいないんだよ」

「使えねえなあ……」

 目前までモビルスーツが迫っていた。

 観念した時、もう一台の新型が体当たりして、モビルスーツを吹き飛ばした。

「すげえ馬力だ」

「これが新型の威力か」

「おっと、やっと動かせるぞ」

「気をつけろよ。こいつパワーがありすぎるからな」

「まかせろって」

 しかし足を前に振り上げた時、バランスを崩して倒れてしまう。

「何をやってる。言ったそばからこれだ。早く体勢を立て直せ」

「判ってるよ」

 その時、座席の後の方からあくびのような声がした。

「なんだ? 今の声は」

「知るかよ。おまえの後ろから聞こえたようだぞ」

 アイクが振り向いて見ると、女の子が眠たそうに目をこすっていた。

「あれ? ここはどこ?」

 とぼけた表情で、キョロキョロと見回していたが、

「ありゃりゃ、アイクとジャンじゃない。こんなところで何してるの?」

 自分の置かれている状況に、まだ気がついていない。

「サリー。おめえこそ、何してたんだよ」

「何してたと言われても……」

 サリーと呼ばれた女の子は、左手人差し指をこめかみに当て、首を傾げながら、

「グラウンド十週し終えて、モビルスーツ内に忘れ物したこと思い出して、コクピットに入ったはいいけど、そのまま寝ちゃったみたい」

 と言って、ぺろりと舌を出した。

「コクピットに戻ってだと? おまえの乗っているの新型だぞ。どこをどう間違えれば、自分の練習機と新型を間違えるんだよ」

「へえ? これ新型なの?」

「聞いてねえし……」

 呆れた表情のアイクとジャン。

 機器が鳴り出した。

「無線よ。出てみて」

「うるさいなあ……」

 無線機のスイッチを入れると、スクリーンに現れたのは、特殊部隊のテントで首根っこ掴まえられた、あの屈強な兵士だった。

「あー! おまえは、あん時の!」

「おまえら、そこで何をしている。ギルバートはどうした?」

「こいつに乗る予定だった奴は死んじまったぜ」

「おまえらがやったのか?」

「冗談じゃねえ。警備兵に撃たれたんだよ。そいつの代わりに乗ってやってるんだ」

「ちょっと待てよ……」

 ジャンが何事かを考えていたが、思い出したように、

「死んだ奴がギルバートってことは、おっさん……ハイネか?」

「そうだ!」

 憮然として答えるハイネ。


 見合わせる三人。

 突然、大声を出して笑い転げる。

「何がおかしい」

「何がおかしいって……。ハイネだぜ、ハイネ」

「その筋骨隆々の身体で、ハイネはないだろう」

「俺は、シュワルチェネッガーかと思ったぜ」

「そうそう、女の子みたいな名前は似合わないわよ」

 怒り出すハイネ。

「俺のオヤジが付けた名前だ。しようがないだろ」

「しかしよお……」

 とまた笑い出すジャン。

 再び計器が鳴り出した。

「ほら、呼び出しよ」

「わかっている」

 無線機を操作すると、別のポップアップが画面が開いて、あの隊長が映し出された。背後に複雑な計器類が並んでいるところから、モビルスーツのコクピットにいるらしい。

「おまえら、何をしている!」

「実は、例の二人組みのガキがモビルスーツに……」

 ハイネが弁解する。

「あらら、隊長さん、モビルスーツを運転できるの?」

「当然だ。残しておくのももったいないので、拝借することにした」

「いつの間に……」

 つい先ほどまで、ジープから機関銃を掃射していたはずである。臨機応変に行動する実行力のある人物のようである。

「とにかく議論をしている暇はない。港まで突っ走れ! ミネルバが回収してくれる」

「了解」

 新型が二台と旧式が二台。

 機銃を装備している旧式が一斉掃射しながら突破口を開いていく。その後を新型が追従する。

 しかしながら、アイクとジャンの機体は、「よっこらせ」という状態で、思うように動かせないでいた。

「もう、何やっているのよ。どんどん引き離されていくじゃない」

「しようがねえだろ。新型だから、駆動系がまるで違うんだから」

「加速装置とかないの?」

「もう、じれったいわね」

 というと、手を伸ばして機器を手当たり次第に、押しまくった。

「ば、馬鹿。何をする!」

 突然、椅子に押しかけられるような加速を感じる一行。

「なんだ? どうしたんだ」

「知るかよ」

 サリーがスクリーンを指差しながら、

「見て、見て。これ、空を飛んでるんじゃない?」

 と叫んでいる。

「う、嘘だろ?」

 事実のようであった。

「こいつ、飛行タイプだったのか……」

「どこまで行くのよ」

「知るかよ。こいつに聞いてくれ」


 どんどん加速して上昇していく機体。

 操縦方法などまるで知らないのでなすがままだった。

 地上に残された隊長たち。

 呆然と見送っている。

 やがて雲の彼方へと消え去ってしまう。

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