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第四章・新型モビルスーツを奪回せよ Ⅳ


 海上を進む戦艦ミネルバ。

 艦橋の最先端にあるガラス張りの場所に立ち尽くして、バイモアール基地のある前方を静かに見つめているフランソワ。

 上級大尉の肩章の施された淡いベージュ色のタイトスカートスーツに身を包み、その胸には戦術用兵士官であることを示す徽章(職能胸章)が、夕焼けの光を受けて赤く輝いている。

 半舷休息から戻ってきたばかりで、じっと正面を眺めたまま腕組みをして、何事か思案の模様であった。

 その様子を見つめている周囲のオペレーター達。

「艦長は何を考えていらっしゃるのだろか?」


 フランソワには四歳下の弟がいた。

 成績優秀で品行方正にして、クレール家の次期当主として両親の期待を受けていたフランソワ。

 対して弟の方は、姉とはまるで正反対の粗忽者で乱暴者、毎日のように誰かと喧嘩して生傷が絶えなかった。

 そんな弟ではあったが、子供のいないとある軍閥の家系に養子として迎えられた。

 養子と言えば聞こえが良いが、実情はクレール家から厄介払いしたに等しかった。

 フランソワにとっては、できの悪い弟であったが、幼少の頃から世話をやいてきた可愛い弟でもあった。

 その後、クレール家と養子先の軍閥家との交流は断絶し、弟の消息も途絶えた。

 風の噂に、家に寄り付かず放蕩のあげく、勘当されてしまったという。

「今どこで何をしているのかしら……」

 士官学校に入隊する少し前の話である。

 どこに注視することもなく、ぼんやりと前方を見つめるフランソワであった。


 突如、艦内に警報が鳴り響いた。

 自分の端末に集中するオペレーター達。

「バイモアール基地の探査レーダーに補足されました。基地の絶対防衛圏内に侵入」

 我に返り指揮官席に向かって駆け出しながら、

「戦闘配備。アーレス発射準備!」

 フランソワは命令を下した。

 まだ半舷休息の時間は終わっていなかったが、戦闘となれば最上位の士官が指揮を執るものだ。

 ゆっくりと休んでなどいられない。

 戦闘配備と同時に、眺めていた展望用ガラスの外壁に防護シャッターが降ろされ、メインパネルスクリーンなどのシステム機器が下降してくる。

 それまで指揮官席に陣取っていた副長が席を譲りながら、

「これより艦長が指揮を執る。戦闘配備。アーレス発射準備」

 と指揮権の交代を告げながら、命令を復唱した。

「戦闘配備!」

「アーレス発射準備」

 各オペレーター達も命令を復唱して確認した。

 兵装の内でも、原子レーザー砲のアーレスは、発射準備が整うまで時間が掛かるので、使用の時にはいの一番に準備させておかなければならない。

 原子をレーザー励起させるために極超低温にし保持する装置。莫大な電力を瞬間的に発生させる超伝導コイル蓄電装置など。それぞれに冷却材である液体ヘリウムの注入が必要だった。

「バイモアール基地の詳細図をスクリーンに投影。敵艦艇の位置データを重ね合わせてください」

 スクリーンに基地が映され、海上を埋め尽くすように水上艦艇がひしめいていた。

「水上艦艇の総数は、およそ七十二隻です」

「たいした設備もないのに、これだけの艦艇が集合しているのは珍しいわね」

「新型モビルスーツのせいではないですかね。このバイモアール基地には、カサンドラ訓練所と共にモビルスーツ研究所も併設されてますから。新型をここへ運び込んだのもそのためで、警備のために派遣されてきたものと思われます。何せ、あのフリード・ケースン中佐が設計したマシンです、ただものでないことは誰しも察しがつきますからね」

「それは言えてますね」

 うなづくフランソワ。

 サラマンダー艦隊に配属されて日も浅かったために、フリードとはほとんど話しをしたことがないが、噂の限りではとんでもない天才科学者であることは、彼が開発したものを見れば一目瞭然。極超短距離ワープミサイル、ステルス哨戒艇Pー300VX、そしてなんといってもこの機動戦艦ミネルバである。

「さて……。まず最初に射程に入るのは湾内を固める水上艦艇ですが、これは純然たる旧共和国同盟軍から転進した部隊です。同じ祖国同士ということになります」

「もちろんすべて撃沈破壊します。水上艦艇を残しておけば、いずれ我々の秘密基地の探索に借り出されることになります」

「なるほど、それは問題ですね」

 パネルスクリーン上の艦艇データの明滅がが、一斉にこちらに向かっていることを示した。

「敵艦隊が動き始めました」

「目標戦闘艦、先頭を進む艦艇に設定」

「了解。目標戦闘艦として、ミサイル巡洋艦チャンセラーズに設定」

 艤装、mk26ミサイルランチャー、mk41垂直発射トマホーク、mk46三連装魚雷発射管、5インチ54口径軽量速射砲2門、20mmCIWS機関砲2門。機関出力、ガスタービン4基2軸の80,000shp、速力30ノット。

 スクリーンに目標戦闘艦に設定した艦艇データがテロップで流れていた。

「およそ平均的な部隊編成ですね。このミネルバの戦闘能力からすれば、それほどの脅威ではないと思われます」

「油断は禁物ですよ。一頭の猛獣が蟻の大群に倒されることもあるのですから」

 確かにフランソワの言うとおりである。

 格段の火力を誇るミネルバとて、その対象は上空から迫る宇宙戦艦が本来の相手である。海上を航行する水上艦相手では、水平発射しかできないアーレスは使用不可だし、ヒペリオンも上空迎撃が主任務である。結局のところ下向き攻撃できるのは、135mm速射砲第三砲塔と爆雷による攻撃しかない。しかし相手はすべての兵器を使用することができ、トマホークなどのミサイルを集中させられると、さすがのミネルバも苦戦を強いられることになる。

「海面に着水してください」

 これしかない。

 着水すれば、ほとんどの兵器が使用可能となるが、反面として破壊力の大きな魚雷攻撃を受けることになる。

 攻撃力をとるか、防御力をとるか、二者選択である。

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