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第四章・新型モビルスーツを奪回せよ Ⅰ


 海上を進む機動戦艦ミネルバ。

 第一作戦室では台上に投影された航海図を囲んで士官たちが作戦を討論していた。

「しかし……、ここまで来て、バイモアール基地が陥落したことを知らせてくるとは。何も知らずに基地に向かっていたらどうなっていたか……」

「それは無理からぬことではないでしょうか。何せ敵の只中にいるのですから、通信は基地の所在を知らせる危険性があります。もちろん敵も通信傍受の網を広げて、我々を必死で探し求めています」

「で……。どうなさいますか、艦長」

 一同の視線がフランソワに集まった。

 フランソワは毅然として答える。

「命令に変更はありません。情報によれば、最新型のモビルスーツを搭載していた輸送艦が鹵獲されて、基地に係留されているという。最新型を回収し、予定通りに訓練生を収容します」

「訓練生と申されましても、すでに敵軍に感化されてしまっていて、スパイとして紛れ込むという危惧もありますが……」

「それは覚悟の上です。何しろこの艦には乗員が足りないのです。交代要員もままならない状態で戦闘が長引けば、士気は減退し自我崩壊に陥るのは必至となります」

 いかに最新鋭の戦闘艦といえども、それを運用する兵員がいなければ、その戦闘力を発揮できない。問題とするなれば、カサンドラ訓練所はモビルスーツ・パイロットの養成機関であり、パイロット候補生に艦の運用に携わる任務をこなせるかどうかである。

 それでも、猫の手も借りたい状況では、一人でも多くの兵員が欲しい。

 特殊な技術や知識を必要としない部門、戦闘で負傷した将兵を運んだり介護する治療部衛生班や、艦載機などに燃料や弾薬などを補給・運搬する整備班など。特に重要なのは、戦闘中に被爆した際における、艦内の消火・応急修理などダメージコントロールと呼ばれる工作部応急班には、事態が急を要するだけにパイロットであろうと誰であろうと関係なしである。

 とりあえずはパイロットであることは忘れてもらって、各部門に助手として配備させて、手取り足取り一から教え込んでいくしかないだろう。



「バイモアール基地周辺の詳細図を」

 これから戦闘が行われるだろう基地の情報を、前もって知り事前の作戦計画を練ることは大事である。

 オペレーターが機器を操作すると、それまでの航海図からバイモアール基地の投影図へと切り替わった。

 基地の名称ともなっているバイモアール・カルデラは、数万年前に大噴火を起こして陥没して広大なカルデラを形成したもので、その後東側の外輪山の山腹に新たな噴火口ができて爆発、山腹を吹き飛ばして海水が流入し現在のカルデラ湾となった。

 バイモアール基地は、このカルデラの火口平原に設営されたもので、海側は入り口が狭い湾となっているし、山側は高い外輪山に阻まれ、さらに後背地は砂漠となっていて格好の天然要塞となっている。

「基地の兵力はどうなっているか?」

 作戦計画なので、各自意見のあるものは遠慮なく発言を許されている。

「湾内には共和国同盟の水上艦が守りを固めているはずです」

「基地直轄としては、三個大隊からなる野砲兵連隊が配備されておりまして、各大隊は7.5cm野砲8門、10.5cm榴弾砲4門の構成。内二個大隊は湾側の防衛、一個大隊を砂漠側の防衛にあたっております」

「野砲はそれほどの脅威はないでしょう。脅威なのは湾を望む高台に設営されているトーチカ、そこに配備されている205mm榴弾砲ではないかと思います。直撃されれば一撃で撃沈されます」

 一同が頷いている。

 ミネルバ搭載の135mm速射砲でも敵戦艦を一撃で撃沈させたのだ。それが205mmともなれば、言わずもがなである。

「まず最初に破壊する必要性があるでしょうが、いかんせん向こうの方が射程が長いのが問題です。こちらの射程に入る前にやられてしまいます。近づけません」

「ですが、こちらにはより長射程の原子レーザー砲があるじゃないですか」

「強力なエネルギーシールドがありますよ。原子レーザーは無力化されてしまいます」

「軍事基地をたった一隻の戦艦で攻略しようというのが、いかに最新鋭戦闘艦といえどもどだい無理な話なのでは?」

 一人の士官が弱音を吐いた。

 すかさず檄が飛ぶ。

「馬鹿野郎! 戦う前からそんな弱気でどうする。困難を克服しようと皆が集まって作戦会議を開いているのが判らないのか? 艦長に済まないとは思わないのか」

「も、申し訳ありません」

 フランソワの方を向いて、平謝りする士官だった。

 遙か彼方のタルシエン要塞から遠路はるばるこの任務に着任してきたフランソワ・クレール艦長。共和国の英雄と称えられるあのランドール提督からの厚い信望を受けてのことであるに違いない。

 たんなる戦艦の艦長であるはずがない。

 それは一同が感じていることであった。

 暗くなりかけたこの場を打開しようとして、副長が意見具申する。

「この際、背後の砂漠側から攻略しますか?」

 砂漠には、丘陵地や谷間などがあって、砲台からの死角となる地形が多かった。

 それらに身を隠しながら接近して、砲台を射程に捕らえて攻撃しようという作戦のようであった。

 しばし考えてから答えるフランソワ。

「いえ。海上側から攻略しましょう。砂漠から攻略してトーチカを破壊しても、山越えした途端に基地からの総攻撃を受けます。基地に配備されたすべての兵力の集中砲火を浴びせられては、さすがのミネルバも持ち堪えられません」

 トーチカの205mm榴弾砲のことばかりに気を取られていた一同だったが、基地の総兵力の九割が海側にあることを失念していたようだ。トーチカだけなら砂漠からの方が楽であるが、その場合は基地に入るためには山越えをしなければならず、満を持して構えていた基地から一方的に攻撃を受けることになる。

「海上からなら、まずは水上艦艇、次に野砲兵連隊、そして基地直営ミサイル部隊と、射程に入り次第に各個撃破しつつ基地に接近することができます」

「トーチカからの攻撃はどうなさるおつもりですか?」

 海上では隠れる場所がない。トーチカの格好の餌食となるのは必定である。

 それがために皆が頭を抱えて思案していたのである。

 が、フランソワは一つの打開策を用意していた。

「基地には、モビルスーツを奪回するために潜入している特殊部隊がいるはずです。彼らに協力を要請しましょう」

 特殊部隊?

 一同が目を見張ってフランソワを見た。

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