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第三章・狼達の挽歌 Ⅵ

Ⅵ 一撃必殺!!


「ミサイル高速接近中!」

「ヒペリオンで迎撃せよ」

 フランソワが発令すると、副官のリチャード・ベンソン中尉が復唱して指令を艦内に伝える。

「ヒペリオン、一斉掃射。ミサイルを迎撃せよ!」

 次々と飛来する誘導ミサイルをヒペリオン{レールガン}が迎撃していく。

「誘導ミサイルは、ヒペリオンで十分迎撃できますね」

「現時点で、ヒペリオンに勝るCIWS{近接防御武器システム}はないでしょう。何せ初速19.2km/s、成層圏到達速度でも13.6km/sありますから、軌道上の宇宙戦艦さえも攻撃できる能力を持っていますからね」

「しかし炸薬がないので、船体に穴を開けることはできても撃沈させることはできませんよ。誘導ミサイルないし戦闘機の迎撃破壊が精一杯です。砲弾に炸薬を詰められれば良いのですが」

「それは不可能よ。あまりにも超高速で打ち出すので、炸薬なんかが詰まっているとその加速Gの衝撃だけで自爆しちゃいますから」

「でしょうね……。誘導ミサイルはヒペリオンに任せるとしても、そろそろ敵艦のプラズマ砲の射程内に入ります。撃ってきますよ」

「そうね……。スチームを全方位に散布してください」

「判りました」

 答えて、端末を操作するリチャード。

「超高圧ジェットスチーム弁全基解放! 艦の全方位に高温水蒸気噴出・散布せよ」

 艦のあちらこちらから高温の水蒸気が噴出し始めた。と同時に雲が発生してミネルバを包み隠した。


 敵艦の方でも、その様子を窺っていたが、

「何だ、あれは?」

「敵艦のまわりに雲が発生した……て、感じですかね」

「馬鹿なことを言うな。あれは水蒸気だ。艦の周りに水蒸気を張り巡らしているのだ」

「どういうことでしょうかね?」

「今に、判る」

 その言葉と同時に、オペレーターが報告する。

「ゴッドブラスター砲の射程内に入りました」

 コッドブラスター砲は、245mm2連装高エネルギーイオンプラズマ砲のことで、ザンジバル級戦艦の艦首と艦尾にある格納式旋回砲塔に設置されており、大気圏内における実質的な主砲と言える。

「よし、ゴッドブラスター発射準備! 目標、敵戦艦」

 旋回砲塔がゆっくりと回って、ゴッドブラスター砲がミネルバを照準に捕らえた。

「ゴッドブラスター砲、照準よし。発射態勢に入りました」

 砲塔からプラズマの閃光がミネルバへと一直線に走る。


「ゴッドブラスター砲のエネルギー、敵艦の到達前に消失しました」

「消失だと?」

「誘導ミサイルも、あの雲の中で自爆しているもよう。敵戦艦は無傷です」

 思わず、ミネルバを注視する司令官。

「そうか……。あの水蒸気の雲がエネルギーをすべて吸収してしまったのだな」

「どうしますか?」

「ミサイルを誘導弾から通常弾に転換、引き続き撃ち続けろ。後、使えそうなのは75mmバルカン砲だな……。気休めにしかならないだろうが、砲撃開始だ」



 地球上に存在する物質中、水(水蒸気)は最大の比熱容量と気化&凝固熱を有する物質である。

 水が蒸発して水蒸気になる時には、大量の気化熱を奪って周囲を冷却し、逆に水蒸気が水になる時には、大量の凝固熱を放出して周囲を暖める。

 すなわちミネルバが放出した高温高圧の水蒸気は、艦の周囲百メートルに渡って、水蒸気と水&氷が混然一体となった雲のバリアーを形成させていたのであった。しかもその雲は、天然の雲よりはるかに高密度であり、プラズマ砲のエネルギーを完全吸収できるほどのものであった。

 その蒸気発生装置は、水を温めて蒸気と成し放出するだけという至極簡単なシステムで、これほど安価・簡便なものはない。しかも艦内には熱を大量に発生する設備が多数あり、それを冷却する配管が張り巡らされて艦内を循環しており、普段は居住区などの冷暖房装置の熱源となっている。その冷却水を利用するので、特別なボイラーなどの必要もなかった。

「敵の攻撃が、まったくこなくなりました」

「プラズマ砲のエネルギーは雲が吸収してくれるし、熱感応ミサイルも凝固熱に反応して雲に突入と同時にその場で爆発してしまいますからね」

「さて……。艦長、次の手は?」

「三連装135mm速射砲を使いましょう。こちらはいつ補給が受けられるか判らないんですものね。無駄な攻撃は避けましょう。そして、一番砲塔にAPFSDS徹甲弾を装填して、敵艦のエンジンを狙い撃ち。撃沈させます」

「そうですね。一撃で仕留めましょう。高価なトラスターを使用することもないでしょう。一番砲塔にAPFSDS徹甲弾を装填!」

 三連装135mm速射砲は、艦首(1番)と艦尾(2番)そして船底のやや後方(3番)、格納式旋回砲台に設置されている。

 その速射砲の機械室では指令を受けて、徹甲弾への換装が行われていた。

 速射砲には数種類の弾頭が使用される。


・APFSDS徹甲弾=[Armor Piercing Fin Stabillzed Discarding Sabot]

 離脱装弾筒付翼安定徹甲弾。初速を速くするための離脱装弾筒と安定翼が付いており、断面積に対しての長さの比が大きいために初速の低下が少なく、貫通力も高い。敵艦の厚い装甲を貫く一撃必殺の弾丸である。


 砲弾は再装填の完全自動化がなされており、砲弾種にもよるが最大毎分200発(AP弾)の連続発射が可能である。

 自動換装装置によって砲弾の装填が完了した。

「APFSDS弾の装填、完了しました」

 砲術長が報告する。


 艦橋。

「発射準備OKです」

「よし。敵艦後部エンジンに照準」

「AN/SPYー3BVレーダーよりデータを入力。敵艦後部エンジンに照準を合わせます」

 射撃オペレーターが復唱する。

 レーダーが捕らえたデータがコンピューター解析されて、本艦との相対位置や移動速度、敵艦の艦影図形などがパネルスクリーンに投射されていた。

「水蒸気のせいで敵艦を視認できないのはちょっと不安がないとは言えませんけど、最新の電子装備が目となり耳となってくれるので助かりますね。あの天才科学者のフリード・ケースン中佐が設計した戦艦ですから、その点についてのことはまったく不安はありません」

 副長が漏らしたように、フリードが設計をしたものでトラブルを起こしたものは、これまで一度も報告されたことはなかった。

 あるとすれば、その高性能さを使いこなせなくて、使用者の勘違いや操作ミスによるものがほとんどだった。

「速射砲、発射態勢に入りました」

 速射砲の射撃オペレーターが緊張した声で報告する。

 フランソワが叫ぶ。

「発射!」

 それに呼応して射撃オペレーターが復唱して、発射ボタンを押す。

「発射します」



 ミネルバ艦首の三連装135mm速射砲が火を噴いた。

 砲口から飛び出したAPFSDS弾は、加速ブースターとも言うべき離脱装弾筒を切り離して、後尾翼のついたペンシル状の弾丸となって敵艦を襲う。

 砲口初速は2100m/s(7560km/h)とハープーンの巡航速度(970km/h)とは桁違いの速度であり、しかも電波を出さず推進用の熱源もないために、着弾時の終速値がかなり低下していたとしても、これをミサイルで迎撃するのは至難の業である。

 余談だが、かつては大砲の砲身には砲弾を回転させ安定感を与えるための旋条砲身というもの使われていたが、最近のAPFSDS徹甲弾のように、その直径と長さの比が大きい(L/D比が6以上)弾種は、旋動させる方が飛翔中の安定性が悪くなることが判った。そのため旋条のない滑腔砲身が使用され、弾丸の安定には翼が付くようになった。なおラインメタル対戦車榴弾なども滑腔砲身用である。


 APFSDS徹甲弾はザンジバルの後部エンジンに見事着弾して炎上させた。

 炸薬がないとはいえ、凄まじい運動エネルギーの放出によって、衝撃波が生じ付近一帯をことごとく破壊する。

 ザンジバル艦橋。

 大きな衝撃を受けてよろめく乗員達。

「後部エンジンに被弾しました!」

 オペレーターが金きり声で叫ぶ。

「エンジン出力低下! 機動レベルを確保できません!!」

 火炎を上げながらゆっくりと降下するザンジバル戦艦。

 艦内では、消火班や応急処理班が駈けずり回って、何とか艦を立て直そうと必至になっている。

 やがて海上に着水し、加熱したエンジンに大量の海水が流入して、水蒸気爆発を起こして火柱が上がった。


 艦橋に伝令が駆け寄ってきて報告を伝えた。

「艦長! 至る所から浸水が始まっています。艦を救える見込みはありません!」

「判っている。副長、総員を退艦させろ!」

「了解、総員を退艦させます」

「通信士。艦隊司令部に打電だ。『我、撃沈される。速やかなる救助を願う』艦の位置も報告しろ」

「了解!」

 総員退艦の指令を受けて、艦の至るところで退艦の準備が始められた。

 救命ボートや救命艇が海上に降ろされて、次々と兵員が乗り込んでいく。

 艦橋からそれらの様子を眺めている艦長。

「だめだ! 敵艦は、エンジンから武装、その他すべてにおいて大気圏内戦闘のために特殊開発された特装艦だ。宇宙戦艦一隻が太刀打ちできる相手ではない」


 ミネルバ艦橋。

「敵艦、海上に着水。撃沈です」

 一斉に歓声が上がる。

「スチームの射出を停止。当艦はこのままカサンドラ訓練所のあるバルモアール基地へ向かう。全速前進!」

「了解。進路バルモアール基地、全速前進します」


第三章 了

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