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第三章・狼達の挽歌 V

V カサンドラ訓練所


 その頃。

 モビルスーツパイロット養成機関「カサンドラ訓練所」を抱えるパルモアール基地。

 基地の空港の一角に輸送艦が停泊しており、警戒のためのモビルスーツが待機している。

 そのかたわらで明らかに新型と思われる真新しい機体、ぎこちない動きを続けるモビルスーツがあった。

「どうだ、調子は?」

「どうだと言われましても、この機体にインストールされているOSは、手足を動かして移動させる程度の輸送用のOSなんですよ。ちゃんとした起動用のプログラムをインストールしなければ、とても戦闘に使えませんよ」

「やはりな。輸送艦内を探しているのだが、起動用プログラムが入ったディスケットが見つからん」

「輸送艦のコンピューター内に保存してあって、そこからコピーして使用するということはないですか?」

「ああ、その可能性もあるだろうと思ってな、システムを調査させているところだ」

「とにかくOSがない限り、こいつはまともに使えませんよ」

「判った。今日はもういい。その機体を格納庫に収納しろ」

「了解しました」

 地響きを立てながらよちよち歩きのような格好で格納庫へと移動するモビルスーツ。

 さて、その輸送艦とモビルスーツは、フランソワがタルシエン要塞から遠路はるばる運んできたものだったが、トランター本星への輸送を完了したものの、「メビウス」に渡る前に接収されてしまっていたのであった。



 基地に隣接する、カサンドラ訓練所。

 次の世代を担うモビルスーツパイロット候補生達が日々の研鑚を続けていた。

「駆け足! 全速力!!」

 グラウンドでは、訓練用の機体に乗り込んでの操縦訓練の真っ最中だった。

 地響きを立てながら整然と隊列を組んでグラウンドの周囲を走り回っていた。

「こらあ! そこ遅れるな!!」

 訓練生達の機体のそばでジープに乗り込んで後を追いかけながら、拡声器を使って指示を出している教官。

 パイロットにも各人各様、習熟度が違う。

 機体を完全に乗りこなしている優秀なパイロットがいれば、今日乗り込んだばかりというような不慣れなパイロットもいる。

「すみませーん!」

 黄色い可愛い女性の声が訓練機体から返ってくる。

 共和国同盟では男女均等法によって、男女区別なくパイロットとして士官できる。

「まったくおまえはどうしようもなくどんくさい奴だ! これが終わったら、その足でグラウンド十周!!」

「そ、そんなあ」



 カサンドラ訓練のとある教室。

 訓練生達が机を並べて、教官から講義を受けていた。

「……であるから、この養成機関はこれまで通りに存続することとなった。もちろん君達パイロット候補生達もだ。かつての共和国同盟に忠誠をつくすために集まった諸君だが、今後は新しく再編された共和国総督軍のために尽力してほしい。

 さて、君達も知っての通りだが、ランドール提督はアル・サフリエニ方面軍を解体することなく、あまつさえ我が国に対して反旗の狼煙を揚げ周辺地域を侵略するという暴挙に出た。ここに至っては、ランドールとその艦隊を反乱軍として、総力をあげてこれを鎮圧するために総督軍を派遣することに決定した。また、このトランター本星においては、ランドール配下の第八占領機甲部隊【メビウス】がパルチザンとして活動をはじめている。

 この養成機関に与えられたことは、このメビウスに対抗するために組織される部隊の戦士を育てることだ。諸君らの健闘を期待したい。話は、以上だ。何か質問は?」

 教官が声を掛けるとすかさず手を上げる候補生達。

「我々が戦うことになる相手は、共和国同盟にその人ありと讃えられる不滅の常勝将軍です。あのタルシエン要塞攻略も士官学校時代から数年に渡って作戦立案を緻密に計算され尽くされての偉業達成です。

 このトランターが陥落するなどとは、誰しもが考えもしなかった人々の中にあって、提督だけがこの日を予測しての【メビウス】をこの地への派遣。パルチザン組織の急先鋒としての任務を果たすこととなりました。

 まるで未来を予見する能力があるように思える提督に対し、果たして我々に勝算などあるのでしょうか?」

「何もランドールと戦えとは言ってはいない。彼は宇宙だからな。君達が実際に戦うのはメビウス部隊だ。指揮官が誰であろうと、ランドールにかなうほどの技量を持っているはずがない。心配は無用だ」

 と言われて、「はい、そうですか」と納得できるものではなかった。

 ランドール提督に限らずその配下の指揮官達も、並外れた才能を有している連中ばかりなのである。メビウス部隊だって、ランドール提督から厚い信頼を受けて、トランター本星へ配属されてきているはずである。

「それではお伺い致しますが、共和国同盟軍には環境を破壊する禁断の兵器として封印されていた【核融合ミサイル】があったはずですが。それは今どこに保管してありますか?」

「どうして……そのことを?」

「ネットに情報が流れていて、誰でも知っている公然の事実じゃないですか。核融合ミサイルは、反政府パルチザン組織のミネルバ部隊の管轄にある。そうですよね?」

 糾弾されて言葉に詰まる教官だった。

「そ、それは……」

 教官が動揺するのは無理もない。

 メビウス部隊の司令官は、特務科情報部所属のレイチェル・ウィングであり、その背後にはネット界の帝王と冠されるジュビロ・カービンがいる。共和国総督軍をかく乱するために、ありとあらゆる情報をネットに流すという情報戦を展開していたのである。

 いかに強力な政府や軍隊を作っても、それを支えているのは民衆であり、そこから得られる税金によって成り立っていることを忘れてはならない。民衆からの信頼を得られなければ、その屋台骨を失うこととなり、政府軍はやがて自我崩壊の危機に陥ることになる。

 反政府ゲリラなどの常套手段として、各地に大量に地雷を埋め込んだり、爆弾テロなどで多くの不特定多数の民衆を巻き添えにすることは、よくあることである。

 これは、強力な軍隊を持つ政府軍と直接戦うよりは、か弱い民衆を相手にして数多くの犠牲者を生み出すことによって、政府軍の民衆に対する信頼を失墜させることが目的だからである。

 たった一発で大都市を灰燼にし、放射能汚染で数十年以上もの長期に渡って人々を住めなくする核融合ミサイル。そのすべてを使用すればもはやこの星は人の住めない状態の死の惑星となるのは必至である。


 その禁断の破壊兵器を、占領時の混乱に乗じてミネルバ部隊が密かに接収してしまった。

 そんな情報をネットに流したのである。

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