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第三章・狼達の挽歌 Ⅲ

Ⅲ エースパイロット


「すげえ!」

 ストライク・ファントム戦闘機のコクピットから、ミネルバの状況を目の当たりにしたパイロットが驚く。

 パイロットの名は、カッシーニ・オーガス曹長。

 あの撃墜王のジミー・カーグ中佐に戦闘の手ほどきを受けたエースパイロットである。

 端末から指令が届く。

「艦載機は敵戦艦に対し、攻撃開始せよ」

 その指令に従うように操縦桿を握り締めるオーガスだったが、引き続いて入電が入った。

「オーガス曹長は、ただちに帰還せよ」

 出鼻をくじかれたような指令に、

「え? どういうことですか。敵艦の迎撃に入るんじゃないですか?」

 意外な命令といった感じで確認する。

「迎撃は、他の艦載機にまかせてください。曹長は帰還です」

「納得いかないなあ……」

 うだうだと言っていると、相手が代わってスピーカーががなり立てた。

「馬鹿野郎! おまえは新型モビルスーツの搭乗員だ。ここで撃墜されるわけにはいかないんだよ」

 発進前に甲板に陣取っていた、モビルスーツパイロットで戦闘班長のナイジェル中尉の声だ。

「新型っていっても、機体を搬送していた輸送艦が敵揚陸部隊に捕獲されてしまったというじゃないですか。肝心の機体もないのに、パイロットも何もないじゃないですか」

「機体については、メビウスの特殊部隊が奪還作戦に入っている。だから今後のためにもパイロットである貴様を失うわけにはいかないんだ」

「新型のためにですかあ?」

「当たり前だ。一般のパイロットの補充はできるが、新型用のパイロットは補充がきかん」

「きついなあ……」

「いいから、戻って来い! 命令だぞ」

「へいへい。戻ればいいんですね、判りましたよ」

 言いながら乱暴に通信機を切るパイロットのオーガス曹長。

 ユーターンしてファントムがミネルバへ戻っていく。


 艦載機発着場。

 ファントムが着陸して、オーガスが機体から降りてくる。

 そしてパイロット待機所に戻るやいなや、ナイジェル中尉に詰め寄る。

 中尉は、愛機のモビルスーツの燃料・弾薬補給を待つ間に、自分自身の燃料補給中だった。

 戦闘中のために、ペースト状の食料を詰めたチューブ式の携帯食料を食していた。

「納得できませんよ!」

 憤懣やるかたなしといった様子で、中尉に食い下がるオーガス。

「まあ、そういきり立つな。血圧が上がるぞ」

「血圧が上がるのは中尉じゃないですか。納得いく説明をしてください」

 食していた携帯食料をカウンターに置きながら、質問に答えるナイジェル。

「知ってのとおり、この艦にはおまえの他に三人の新型のモビルスーツパイロット候補生がいる。もちろん自分もその中に入っているがな。しかしながら」

「肝心のモビルスーツがない!」

「そのとおりだ。当初の予定では、タルシエン要塞から護送船団によって運ばれてくる予定だったのだが」

「敵の陣営に横取りされてしまいましたよ。その護送船団の指揮官は艦長殿ですよね」

「まあな……。背後から敵艦隊が押し寄せている状態で、本星にまで無事に輸送してきたことは評価に値すると思うがな」

「しかし反面、敵に最新鋭のモビルスーツを与えたことになりませんか? あのフリード・ケースン中佐が開発し、わざわざ送ってよこしたものです。ただのモビルスーツであるはずがありません。その機動性能、戦闘能力、すべてにおいて現行のモビルスーツの性能を凌駕しているに違いないのです」

「ほう……。なかなか鋭い判断だ」

「それを奪われてしまったんですよ。これが落ち着いていられますか?」

「それだ! 近々、その最新鋭のモビルスーツを奪回する作戦が発動するらしいのだ」

「奪回作戦ですか?」

「そうだ。しかも、その作戦に我がミネルバも参加するらしい。何せそのモビルスーツ専用の整備・補給システムなどが装備されているのが当艦だからな。つうか……、このミネルバに搭載することを前提として開発されたと言ってもよい機体だ。最新鋭のモビルスーツと最新鋭のこのミネルバが揃ってこその【メビウス】旗艦としての位置付けがあるというわけだ」

「その奪回作戦はいつですか?」

「そうだな……」

 と言いかけたところで、

「ナイジェル中尉。弾薬の補給が完了しました。すみやかに出撃してください」

 艦内放送が中尉の出撃指令を伝えていた。

「おっと。将来の話よりも、まずは目の前の敵を叩くのが先だ。今の話は、戦闘が終わってからにしよう」

「で、その間。自分は何をしていればいいんですか?」

「飯を食って、寝ていろ!」

「寝……。戦闘中だというのに、眠ってなどいられませんよ」

「馬鹿者が! 眠ることも大事だぞ。出撃しないものは体力の回復と温存に務める。これもパイロットの仕事のうちだ」

「わっかりました! 寝ていりゃいんですね」

「そういうことだ」

 携帯食料をカウンターに戻して、そばに置いてあったヘルメットを取り上げ、

「それじゃ、行ってくる。殊勝な気持ちが少しでもあるのなら、みんなの無事を祈っていてくれや」

 と右手を軽く上げて、発着場へと向かっていく中尉だった。

「へいへい。いってらっしゃい」

 後姿を見送りながら、

「空を飛べない陸戦用モビルスーツでどう戦うつもりですかね……」

 と、呟きにも似た吐息をもらすオーガスだった。


 艦載機発着場。

 モビルスーツに乗り込み機器を操作しているナイジェル中尉。

『ナイジェル中尉は、甲板にて近寄る戦闘機を撃墜してください』

 通信機器より指令が入電する。

『了解した。甲板にて敵戦闘機を撃滅します』

 飛翔することのできない陸戦兵器には、動かない砲台としての役目しかなかった。

「ま、やるだけのことをやるだけさ」

 苦笑いしながら、

「さて、行くとしますか」

 操縦桿を握り締めて、ゆっくりと機体を動かして、甲板に出る昇降エレベーターに乗る。

「ナイジェル、出る!」

 通信機に

『了解。エレベーターを上げます」

 ゆっくりと上昇するエレベーター。

 やがてナイジエルの視界に飛び込んできたのは、勇躍として迫りくる敵戦艦の姿であった。

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