↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/104

⑤月光



 カズンと共にマルカートを迎えに行ったその夜。


 俺はカズンに呼ばれて再び夜の森へと足を踏み入れた。とは言っても別に何がある訳でもなかろうし、寝る前の散歩だと断って出て来たので、そう遠くまで出向くつもりもなかった。


 「……で、話ってのは何だい」


 俺は先に立って歩くカズンの背中に向かって尋ねてみる。初めて会った時から比べれば、随分と女らしくなったもんだ。黒く艶やかな髪も背も少し伸びたが、それより全体的にふっくらと丸みを帯び、華奢だった肩も多少の繊細さを残しつつ、野を走る鹿みたいに柔軟な柔らかさを折々に見せる。まあ、その分だけ俺も年を取ったんだろうが。


 「あのね、イチイ……昨日、夢を見たの」


 「……夢? それがどうしたんだい」


 カズンの言葉に俺は当たり前の質問を重ねるが、彼女は少し離れて立ち止まり、じっと空に浮かぶ月を見上げながら黙り込む。


 この世界にも、月はある。ただ、俺の知っている月とは違って、やや赤みを帯びて大きい。その違いにどんな意味があるのか判らないが、元の世界と似たような環境だと思うと、何となく気が紛れる。


 「……ええとね、何にも無い雲の上みたいな所で、私一人だけ居て……そこに、すごく大きな【ひりゅうしゅ】が出てきたの」


 と、彼女の真似をして月を見上げていると、俺の質問に答えるように夢の話を始めたが……何か、違う。


 カズンは、俺の方を見ないまま、月だけを見ていた。月の光でうっすらと赤く染まった夜空の真ん中に、濃くて赤い穴のような月が浮かんで見える。その月だけを、カズンは見ながら話している。


 「……大きな【ひりゅうしゅ】は私を指差して、こう言ったの……」


 そこまで言うと、祈るように手を胸の前で組み、誰かに許しを乞うみたいな格好で……月だけを見ながら、更に話し続ける。


 「……【お前がひりゅうしゅとしてうまれかわる時がきた】って……」


 そう告げた瞬間、カズンの身体から紫色の光が沸き上がり、今まで見た事も無い激しい力の渦と共に烈風を巻き起こす。


 「おいっ! カズン……何を始めようって言うんだ!?」


 「……判らない……判らないけど、何(・)か(・)違(・)う(・)ってだけ、判るの……」


 つい声を荒げてしまうが、カズンは構わず話し続ける。


 その、竜巻のような風が周りの木々を揺らし、木の葉や小枝を夜空に向かって巻き上げ続けるが、カズンの髪の毛は……揺らぎもしない。何が何だか判らないまま、俺は……彼女が何処か遠くに行ってしまうのではないかと思い、風の渦に逆らいながらカズンの肩を掴もうとして、手を伸ばす。



 「……そう、今なら判るの……どうしたら【飛竜種】になれるかが……」


 そしてカズンは信じられないような言葉を口にしながら、僅かにだが……地面から足先を宙に浮かせながら譫言(うわごと)のように、しかしハッキリと明確な意思を現しながら、続ける。


 「……ああ……【力を蓄えし我が亜子よ……日を陽とするならば月は陰……陽と陰を重ね身に帯び一(・)つ(・)身(・)で(・)殖(・)え(・)し(・)竜の末裔と還らんとするは……此れぞ】……(……イチイ……だめ……ッ!!)……」


 熱病に魘(うな)されながら呟くように、途切れ途切れな声で何かを唱える。しかし、最後の言葉に反応した俺は、


 「……カズンっ!!」


 伸ばした手で彼女の肩を掴み、今にも夜空に向かって飛び上がろうとする身体を無理矢理に抱き寄せながら、


 「俺は……お前と……離れたくないっ!!」


 自分でも驚く程の力を籠めて、叫んだ。


 「……【此れぞ……竜鎧(りゅうがい)と為(な)りて……】……イチイ、ほんと?」


 その言葉に反応し、今さっきまで抑揚を欠く念仏じみた台詞(せりふ)を唱えていたカズンが、ふと正気に戻ったように無表情から一変、いつもの見慣れた顔になった。



 ……やっと落ち着いて話せる、そう思った瞬間。


 カズンの肩の付け根から、夜空の月と同じ赤い閃光が迸(ほとばし)り、カズンと俺を包み込んだ。







 ……何が、起きた?



 まだ光に包まれたまま、浮遊感と共に混濁した意識が戻ると……赤い月明かりに照らされながら俺とカズンは、空の中に居た。


 「おい、こらカズン……起きろって……」


 「……ん? ここ……どこ……?」


 まだ寝起きのような状態のカズンを揺すると、目を擦りながら周りを見回して暫くボーッとしていたが、


 「……ふぁ!? 空飛んでるぅ!!」


 「そりゃ、コッチの台詞だよ……どうなっちまってるんだ、一体……」


 自分でも呆れるような言葉と共に、カズンと同様に自分達が何処に居るのか、やっと俺にも理解は出来たが……


 クソ重い全身義体のサイボーグの俺と、カズンの二人分を支えてるのが、彼女の肩甲骨辺りに現れた、ぼんやりと透けて見える二対の羽根だなんて信じられん。


 「う~ん、何でだろ……飛びたかったからかな?」


 カズンはいつもと変わらん様子だが、自分の肩の付け根から赤い光に包まれた羽根を四本生やし、ゆっくりと動かして羽ばたかせながら、地上が遥か下に見える高さを飛んでいる。


 「……私にも判んないけど、何だか二人でヒコーキに乗ってるみたいじゃない?」


 能天気なカズンの言葉に心の中で苦笑しながら、視界に広がるコレダの街付近の景色を眺める。二人で登った、街の中心に在る鐘楼の屋根が小指の先みたいな大きさに見えるが……俺達、随分と高い所に居るんだな。


 「ああ、まるで【紫電】に乗ってるみたいだな。しかしどんな仕組みで空飛んでるんだよ、それ」


 向かい合わせのままのカズンの背中を指差すと、彼女は人差し指を顎の先に当てながら、


 「う~ん……たぶん、魔導を使ってる時と同じなんだけど、じわじわって少しづつ減ってる感じかな?」


 そう言ってカズンなりの説明をするが、俺が聞きたかったのは空を飛ぶ原理とかそう言う事なんだが……ま、こいつに判る訳無いか。そりゃあ俺だって、飛行機がどうやって飛んでいるかなんて、説明出来る自信は無い。羽根生えてりゃ何でも飛ぶんだよ、きっと。


 「じゃあ、お前の腹が減ったら仲良く二人とも落ちちまうな」


 「そーだね! じゃあ、早く帰ろう!!」


 カズンはそう言うと、羽根を交互に上下させながら街外れの森を目指して降下していく。どんな原理か知らんが、二人分の重さを支えて魔導の力だけで空を飛んだってんなら……きっと明日のカズンの朝飯は、とんでもない事になっちまうぞ?





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。