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⑧コレダの市街地



 俺とカズンが一番近い街の【コレダ】に向かって歩いて行く途中、俺には耳慣れた()()()()()()()()()と共に、頭上を小型ドローンが通過していった。


 「……と、言うことは……おっ」


 俺は呟きと共に無線が繋がる事を確認し、盗聴の心配をする必要が無い環境に感謝しつつ、回線を繋げた。


 【……中継器は上手く機能してますね。菊地一尉、状況報告を……】


 直ぐに通信手の若々しい声が頭に響き、少しだけ音声のボリュームを落としてから、


 【……こちら、菊地一尉。地元住人と接触した後、街に向かって進行中。まあ、特に問題は無しだな】


 報告すると、向こうの通信手はホッとしたように声のトーンを僅かに上げながら、


 【了解しました。無理は禁物です。義体の不調や充電が必要な時は早めにお知らせください。GPSで確認した後、補給機を派遣します】


 手短に要件を伝えた後、お互いに御武運を、と締め括りながら通信を終えた。


 「これで杞憂の一つは晴れたな。さて……街に着いたら、どうしようか」


 軽く腕を組みながら上に伸ばしつつ、一人言を呟くとカズンが跳び跳ねるように前を歩きながら、


 「ご飯にしよう!!」


 と、さも当然のように言うものだから、つられて笑ってしまう。ついさっき、食べたばかりだろうに……。




 歩き始めて二時間後、俺とカズンはコレダの街が眺められる丘の上に着いた。最初に見たファルムの街と比べれば一回りは小さい街だが、典型的な都市機能を兼ねていそうだ。ただ、当然だが俺達は現地通貨を一切持ち合わせていない。滞在したくても、その手段が果たして有るのか……?


 いや、悩んでいても事態に変化はないだろう。カズンに通訳をして貰えば何とかなる。ただ、何の後ろ楯もないまま働くつもりも無い。第一、俺達は偵察の為に来ているのだから、観光気分で中を見ていくだけでも充分じゃないか?


 そう思う気持ちが伝わったのか、先を急かすカズンに手を掴まれながら、俺達は街外れの門を潜った。



 (……ねえ、イチイ……お前達は何処から来たのかって、言ってるよ)


 いかにも門番だという格好の二人組の男に行く手を遮られ、カズンが困ったようにイヤリングを介して語り掛けてくる。片や大荷物を背負った娘と、やたら図体のデカい女の二人連れ(に見えるだけだが)。そりゃあ、怪しいと言えば怪しいだろう。


 カズンに言われるまでもなく、誰何(すいか)されるのは当然だと思っていた俺は、どうせ通じる訳も無いと思いながら、カズンに向かって話し掛ける。


 「そうだな……カズンは行商の途中で乗り合わせた馬車が盗賊に襲われて、後ろの大きな女性に助けられてここまで辿り着いた、って言ってみたらどうだ?」


 「うーん、上手くいくかなぁ……」


 困った顔になりながら、カズンが自分達の言葉で二人組に話すと、男達は暫く互いに何か言い合いながら、やがてカズンと俺を解放してくれた。


 「何処で襲われたのか、とか色々聞かれちゃった……ウソは慣れてないから、ドキドキしたよ……」


 やっと街の中に踏み入れた俺に、胸元を両手で押さえつつため息混じりに報告するカズンだが、夜まで待ってから侵入する手段もあったな、と今更気付いたけれど……ま、いいか。



 「なあ、カズン。この世界の連中はどんな暮らしを……っと」


 俺は途中まで言い掛けて、気付いた。以前カズンがコッチの世界で飛竜種の世話をする仕事以外はした事が無く、あまり一般的な生活に馴染みがなかった、と言っていた。


 それを物語るように、カズンはキョロキョロと周囲を珍しげに見回しながら、時折何か見つけては俺の方を(あっち行ってみない?)と言いたげな顔をする。そう言えば、こうして地上の街を二人で歩くのも……かなり久しぶりな気がする。


 「まあ、いいか。但し、俺達は金持ってないからな? 買い物は出来んぞ」


 「……判った。でも、見るだけならタダだよ?」


 カズンはそう言いながら、少しだけ表情を抑え目にしつつ、俺を引き連れながら街の散策を続けたが……


 (……一人、いや……二人か)


 俺は足元の振動センサーを介し、周辺の警戒をしていたが、早速網に掛かった。背後から二人連れの男が尾行して来ているが、この前会った狩人の二人では無いようだ。つまり……街の中に入ってから目を付けられていたのか。街の門辺りで張って獲物を品定めする類いの輩……案外、街の治安は良くないのかもしれん。


 【カズン、後ろを振り向くな……二人尾けてきている】


 【……うん、それでどうする?】


 【そうだな……またとない機会かもしれん。大切に()()()()()するつもりだ】


 カズンは俺と無線で話しながら、最後の()()()()()という言葉に少しだけ不思議そうな顔をする。


 「お茶にでも誘うの?」


 自分で気付かぬまま、平凡な会話をしてくれるカズンのお陰で背後の連中はまだ、異変には気付いていない。向こうは暢気(のんき)な御上りサンが散歩していると、思っているのなら……またとない機会だ。


 「いや、ちょっとした実地試験……かな」




 昼過ぎから夕方まで、街の中をほうぼう歩き回ってから、俺とカズンは少し中心部から離れた界隈へとやって来た。下見の最中、明らかに人気の少ない地区が有り、そこならうってつけだろうと目星を付けていた。


 そして、カズンと共に中庭のある廃屋へと踏み入れた俺は、少ない手荷物の中からチップ状の【小型観測器】を五個、入り口と中庭にばら撒いて、準備を終えた。


 「……カズン、お前は隠れてろ」


 俺の言葉に無言で頷くと、入り口から死角になる廃屋の瓦礫(がれき)の陰に身を潜め、気配を消す。そうして独りになった俺は、義体の知覚センサー以外を待機状態にし、時が過ぎるのを待つ。



 やがて、夜の帳が辺りを包み込み、喧騒が遠ざかり廃屋が静けさに覆われる。


 (……さて、そろそろ動くか)


 そう思った瞬間、布を巻き付けて顔を隠した二人の男が、足音を忍ばせながらやって来て、中庭の真ん中に立つ俺と鉢合わせになり、動きを止めた。





 

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