⑮待つ者達
「……驚かせて、しまったわね」
【竜帝】と全ての飛竜種……いや、【竜の巫女】達が飛び去った後、俺の元に戻って来たファルムが詫びる。
「いや、気にしなくていいさ。お陰で色々と見られたからな」
各所の閉鎖を解きながら資材の陰から立ち上がり、ファルムに向かって手を振りながら曖昧に答えつつ、俺は小さくなっていく【竜帝】の姿を思い返していた。
見た目は明らかに青年より若々しく、しかしその面立ちは……自分が与えられた力に何一つ疑問を持たぬ、冷徹で無邪気な笑みを浮かべたままの……仮面のような顔だった。
ただ、どうしてかは判らんが……何処かで見たような気がする。全く違う世界、全く違う環境の者だというのに、何故か……頭から【既視感】が付いて離れない。
「……なあ、【竜帝】ってのは、何処からやって来たんだ。シルヴィとは全く違う奴じゃないのか?」
つい口から漏れた俺の呟きに、ファルムは一先ず此処から離れましょうと前置きして、歩き出す。その背中を追いながら見上げた空の隅に、八つの点が徐々に小さくなっていき、やがて視界の中から消えていった。
しかし、あそこまで無防備に歩き回っても平気で居られる位、【竜帝】の周りに居た連中は強いんだろう。もし万が一、再び顔を合わせたにせよ……果たして……
とか考えていたが、不意に今着ている服が気になった。そういえばファルムに渡されて何気無く身につけたが、ピタッと身体に密着して気持ちが悪いんだよな、これ。
「ところで……この服って…」
「ああ、それ? 私の姿に似るようにしてあったけど、自分では見られないから判らなかったかしら」
そう言いながら近くの宿舎の窓を指差して、確かめてみればと促してくる。言われるまま自分の姿を窓ガラスで見てみると……
「……なっ!? 何だこりゃあっ!!」
……そこには、ファルムと瓜二つの身長180センチを超す奴が居た。まあ、頭から上はそのままだったが、すっぽりとフードを被っていたお陰で顔は良く見えなかったので怪しまれなかったんだろうが……
「……なあ、首から上はそのまんまってのは趣味が悪くないか」
俺はご丁寧に再現された、有る筈の無い二つのソフトボール大の膨らみに呆れつつ、フードの下から覗く見慣れた機械的な顔を眺め、ファルムに向かって尋ねてみる。
「……そうかしら? こちらの世界にも【魔導人形】が有るから怪しまれはしないけど……ま、アレは気配が無いから毛嫌いされてるけどね」
……ふーん、そうか……いや、待てよ? 気配が無い、って事は俺達の世界にやって来る飛竜種が、たまに光学機器に映らなくなるのと同じって事なのか……やりようによっては、使い道があるな。
「さ、私達も退散しましょ。そろそろ貴方のお仲間も心配になるでしょうから」
ファルムに促され俺は荷車へと戻り、彼女が統治している街を後にした。
キラキラと陽光を反射する海面の上を、大きな翼を広げた偵察ドローンが低空飛行で飛ぶ。無人で長時間飛翔出来る為、索敵や捜索には向いているが細やかな調査には不向きだ。そのドローンが海岸沿いの開けた場所に、連続した光の反射を捉えて反応し翼を傾けながら広角レンズで撮影し、【飛龍・改二】に映像を送ったのは菊地一尉が撃墜されてから三日目の朝だった。
まだ朝焼けのオレンジ色の光が残る中、三国一尉の乗機、【極光】がタキシング状態で待機場に停められている。
【……私も、いっしょに、行く!! イチイ、見つける!!】
菊地一尉と違い、日常的に接していた訳でない三国は、カズンの言葉が切れ切れに伝わって来る。彼女の言葉の重みは理解出来るが、相棒のイデアと違うシルヴィ相手だと、コミュニケーション・アクセの【翻訳機能の偏り】が活かされず、微細な言葉の機微は伝わらない。
「判ってるけどさ……イデアと一緒に乗るつもりかい? いくらアンタらシルヴィが細いからって、二人で乗れる程に後部座席は広かないし……」
彼女の気持ちは良く判るものの、三国は然り気無くカズンとイデアの二人に視線を這わせる。その先に並ぶ二人のシルヴィだが、イデアの細く華奢な体型に反し、カズンのややふっくらとした体型に目が留まり、自分の胸元と見比べてから、
「くそぅ……ふっざけたチチのシルヴィだなあ、まったく……」
八つ当たりの呟きを吐いた。が、やれやれと言いたげに首を振ってから、
「わーったよ、わーった!! イデア、カズンの膝の上でもいいだろ?」
【いいよ! イデア、軽いから!!】
そんなやり取りを交わした後、無許可で乗り込んだカズンに管制官が気付いた時には既に遅し……再三の帰還要請を無視したまま、三国の駆る【極光】が滑走路のジャンプ台を飛び越して大空に溶けていった。




