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⑭【竜帝】の降臨



 (……あれが、【竜帝】……!?)


 仰ぎ見る俺の視線の先、長く巨大な龍の背の上で下界に見回しながら立つ、白銀の衣を纏う奴が……【竜帝】か。


 (……今なら、手元に有るハンドガンで……)


 俺がそう思った瞬間、()()()()()()()()()()()


 ファルムに促されて身を隠していた資材の裏から、最初に見えたのは翼を生やした人間……シルヴィだ。彼女達は次々と駐屯地に降りて来た。一人、また一人と。


 そして、点々と散らばりながら駐屯地の各所に七人のシルヴィが現れたが……身体中から白い煙を渦のように湧き立たせ、物理法則をねじ曲げながら細かい鱗を纏った飛竜種へと変わっていく。


 ……赤、緑、青……身体の色の異なる飛竜種達へ姿を変えたシルヴィ達は、悠々と地面へ近付いて来る【竜帝】の姿を仰ぎ見つつ、平伏するようにゆっくりと首を下げて【竜帝】が降り立つのを待っていた。



 俺は、そんな光景を目の当たりにしながら、指一本動かせなかった。




 ……怖かったのだ。


 一番近い距離に居る飛竜種の、山のように大きな身体に気圧されて、身動き一つ出来なかった。今まで戦闘機に乗り、圧倒的な火力で何度も奴等の同族を屠って来たというのに、その巨体から放たれる有無を言わせぬ力量差で……身体が硬直して動けなくなっていた。


 俺の胴より太い指がゆっくりと曲げ伸ばされ、僅かに湾曲した黒く鋭い爪が地を掻く度に、それが俺に向けられて振り(かざ)されたらと思うだけで心拍数が上がり、息が詰まる。


 自分達の(あるじ)が地面を踏み締めると、恭順を示すように天に向かって口を開き、耳をつんざくような咆哮を上げる。ビリビリと全身を貫く空気の振動が通り抜けていくと、四肢から力が抜けて抵抗する事も出来ぬまま、地面に座り込むしかなかった。



 《 ……(なさけ)(あつ)き陛下の閲兵である……一騎当千の【竜の巫女】を率い、我等(つわもの)の忠義に報いんとする…… 》


 再び、男の声が駐屯地に響く。いや……頭の中に直接、言葉を刺し込まれるような感じだ。竜の巫女……こいつらは、そう呼ばれてるのか。巫女……なのか。


 俺は……無言のまま、生存に必要な最低限の機能だけ維持し、それ以外の機能を全てオフにした。木化け石化けじゃないが、気配を悟られない為にそうした。情けない話だが、生き残る為に出来る事はその程度だった。


 【竜の巫女】と呼ばれている飛竜種達は、下に居る俺の存在に一切気付いている様子は無い。いや、もしかすれば知っているのもしれんが……取るに足らない扱いなのか。


 それにしても、今まで見てきた飛竜種と全く違う大きさだ。目測でビルの三階より高い位置から伸びる首と、頑丈そうな皮膜と共に畳み込まれた大きな翼を加味した上の巨体だが、ワイバーンやサラマンダーとは比較にならない肉弾戦に強そうな筋肉質の身体に見える。その各所が緊張と弛緩を繰り返しながら、引き絞られて細くなったり膨れ上がったりし、何時でも戦いに備えて動けるよう構えているように思える。


 ……コイツらと、本当にサシで殺り合えるのか? 俺は……一対一でならともかく、大挙して押し寄せた時、冷静さを保ちながら……弾丸を叩き込めるのか?



 と、不意に視界の隅で動き出す姿を捉える。【竜帝】が再び乗って来た巨大な龍の背中に軽々と登り、備え付けられた足場に乗り込むと周囲で警戒していた飛竜種達も羽ばたく為に大きな翼を広げ、巨体を感じさせない動きで易々と空へ舞い上がり、強烈な風圧を地上に与えながら上昇して、直ぐに視界から消えていった。




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