①三者面談
「……同じ要塞内で寝起きはしてるが、一緒に住んではいない」
目の前のシャランに向かって、俺はわざとぶっきらぼうに答えてやる。
シャランは、先延ばしにしていた訪問を突如希望し、まだ実験途中の世界最大級の自立型ドローン、Jー180タイプを引っ張り出して太平洋を横断して来たのだが……狙いが全く判らん。
彼女は基地に居た三組のシルヴィとパートナー達と面談を希望し、最後になった俺とカズンの前に現れた。白い壁の小さな個室に置かれた椅子とテーブルを挟み、フェイス・ノーマン大尉を引き連れて椅子に腰掛けたシャランは、背丈と体型以外はファルムとそっくりだった。
片や肉感的で豊満そのもののファルムに対し、肩幅や背丈も遠く及ばず、黒髪のファルムとは全く違う灰色の髪。しかしやや吊り気味で切れ長な眼の形や、美しい曲線で構成された繊細な鼻梁……っと、俺の副電脳がやたら活躍する位に見目麗しいのは確かだ。それは保証する。
【……私の顔に、何か付いていますか】
うっかり集中し過ぎてシャランに尋ねられた俺は、カメラアイの焦点を彼女の顔から僅かに外した。
シャランは俺とカズンに様々な質問を投げ掛けた。二人は同居しているのか、そこには他の兵士やシルヴィは居るのか。そんな個人的な領域に探りを入れるような質問に口を閉ざすと、話題を変えましょうと切り出してきた。
【……シルヴィとシルヴの違いは御存じですか】
「……どうして、俺が知っていると思った?」
問い掛けに質問で返した事で、シャランが気を悪くしやしないかと一瞬危ぶんだが、反応に変化は無いようだ。
【菊地一尉、あなたと一緒に居たからカズンは……子を孕める身体になったのです】
俺はファルムとシャランが何故、カズンの身体の成長に拘るのか全く理解出来ず、わざとらしく溜め息を吐いてやる。
「……はぁ。それが何だと言うんだ。シルヴィは何千人も居るんだろ? その中の何人が成熟したんだか知らんが……」
【この世界の時間で表すと、シルヴィの成熟期間は五十年に相当します】
シャランの言葉に驚き、思わずカズンの顔を見てしまった。
「……カズン、そんなに、生きてないよ?」
カズンはカズンで、キョトンとしながらそう答えて俺の顔を見る。
【カズンはこちらの世界の時間では、せいぜい十五年程度、生きてきただけです】
畳み掛けるように断言したシャランは、椅子の背凭れに身体を預けながら、背筋を伸ばす。背の低い少女然とした外見に似合わぬ所作に、彼女が不老長寿なのではないかと勘繰ってしまうが……まさかな。
彼女の後ろで不動の姿勢を崩さぬフェイス・ノーマン大尉の表情に、疑いの色は見えない。過去に彼女はから聞かされていたのか、彼女の事を盲信しているのかは判らないが。
「じゃあ、何かい……俺がカズンの成長を促すような事でもしてきたって訳か?」
【それはこれから調査すれば判ります。彼女の身柄を我々に委ね…】
「断る。済まないが、カズンは防衛軍に必要不可欠な人材だ。他を当たってくれ。カズン、行くぞ」
俺は話の雲行きが怪しくなる気配を察し、椅子から立ち上がるとカズンを促して部屋から出る。背後から追い掛けて来る気配を感じなかったので、彼女を前に立たせて歩かせると、そのまま二人の前から立ち去った。
「……イチイ、カズン……一緒に、居られる?」
基地内の通路の曲がり角を抜け、行き交う基地要員の間を歩きながら俯きながら、カズンが呟いた。
「ああ、心配するな。お前が自分から居なくならない限り、俺はお前を何処かにやったりはしないさ」
背後を歩きながら、彼女の小さな頭に手を載せて、安心させる為に撫でながら言い聞かせる。
……成長の遅いシルヴィのカズンは、人類の住む世界にやって来て、誰よりも早く大人になった。エニグマやイデア達の方が先に生まれた存在ではあるが、彼女達を追い越して……いや、考えても無意味だな。
「さて、そろそろ【飛龍・改二】に帰ろうじゃないか? どうせ此処に長居してもやる事はなさそうだからな」
俺がカズンにそう告げると、彼女は少し大きめのパイロットスーツの袖を捲りながら、軽く腕を曲げ伸ばしした後、答えた。
「うん! でも……食堂、行ってから……ね?」




