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⑭竜を食らいし燕



 センシング機能を最大限まで拡大し、新たに空域へ現れた青燕(チンイェン)の機体を確認する。


 この空には滞空型偵察ドローンは存在しないが、各機体をリンクさせた情報ネットワークが構築されていれば……限定的だが、俯瞰視モードで状況確認が出来る筈だ。


 本土方面から真っ直ぐ飛来する青燕機。真っ黒な機体の垂直尾翼には彼女のパーソナルマークを示す、青いツバメが白く縁取りされて描かれている。


 その機体の下には……先端に複数の穴が開けられた独特なロケット弾ポッドが吊り下げられている。どうやって調達したのかは知らないが、使い慣れた武装は機動性を犠牲にしてでも装着したかったんだろう。


 【ロケットポッドですか? 確かに装備してきましたが……それがどうかしたのですか?】


 青燕の質問に、俺は安堵しながら自分の案を切り出した。


 【よし、それじゃ……早速だが()()()()モードに切り替えてくれ。コントロールは俺に任せろ】


 【えっ? それって……まあ、いいですが……一体何を考えているんですか?】


 【すまん、時間が無いから説明は後回しだ】


 俺の疑似視野パネル内にコントロール委譲のサインが表示され、即座に承認すると青燕の機体が黒い飛竜種の背後に回り込む。


 【きゃっ!? い、いきなり動かさないでください!!】


 珍しく黄色い悲鳴を上げる青燕だが、申し訳無いが今は構っていられない。瞬時に弾道計算を終えながら、主翼下部に提げられたロケット弾を発射する。


 四発のロケット弾が白い煙の尾を引きながら飛翔し、飛竜種の翼を目掛けて吸い込まれていくが……


 ……突如、黒い鱗で覆われた肩の辺りに、気色悪い眼が一対現れると直撃する間際に翼を翻し、全て躱してしまった。


 【気持ち悪い奴だな……まあ、目玉が二個しか無いって常識なんざ、俺を含めて通用しないって事か】


 愛想笑いの代わりに口角を無理矢理ねじ曲げながら、相手の隙を衝いて青燕機を並行飛行させ、機速を上げる。


 【……くぅ……速度……が、速……過ぎ……】


 ビリビリとキャノピーが揺れる中、無線から切れ切れに青燕の声が響くが……悪い、減速させたら良い的にしかならんさ。


 広い空域を黒い飛竜種と前後を入れ替えながら、時には追従し、時には背後に回り込まれながら、互いに優位を取ろうと旋回を繰り返す。


 飛竜種に背後を取られ、背中越しに冷ややかな殺気を感じながら後部カメラで相手の動きを見守る。


 と、ブレスを吐き出す為に口を開き、喉の奥から青白い閃光が迸った瞬間、機体を90度回転させて側方へ急旋回させる。ついさっきまで居た空間を電光が走り抜けるが……もう当たる事は無いぜ? モーションがバレバレなら、躱すのは簡単なんだよ。


 【青燕、もう少し我慢してくれ。もうじき……終わる。いいぞ、十分引き付けな】


 無線で言い返しながらカズンに合図し、再び回線を開く。


 【エニグマ、ロケット弾の速度増加と方向転換を任せられるか?】


 【……やって、みます……】


 青燕のパートナーになったエニグマに指示を出すと、集中し始めたのか言葉少なげに答えが返る。


  【よし、カズン……もう一度デカいのを食らわせろ】


 「はいっ!!」


 俺の合図と共に、機体とほぼ同じ大きさの巨大な氷塊が出現し、狙い過たず真っ直ぐ飛竜種に向かって飛んで行く。


 間髪入れず、ロケット弾を全弾射出し、再びエニグマに合図する。


 【……尻に食らい付かせろ!】


 その瞬間、前方に発射したロケット弾が有り得ない急加速を始め、左右にぶれつつ氷塊の陰に入りながらUターンし、再び口を開きながらブレスを吐くモーションに入った飛竜種を捉える。


 【……今だ、砕けっ!!】


 俺の合図に合わせてカズンが氷塊を砕き、粉々になった沢山の小さな氷の粒が、飛竜種の身体を激しく叩く。


 勿論、そんな物に怯むような奴じゃない。身体の表面に到達した細かい氷塊を水蒸気に変えながら、全く意に介さずこちらに真っ直ぐ向かってくる。


 ……まあ、折り込み済みさ。


 必中の距離まで近付いた相手がブレスを吐こうと喉を膨らませた瞬間、水蒸気を切り裂いて生き物のように尾部をくねらせながら、ロケット弾が顔面目掛けて殺到する。


 今までの炸裂弾とは比べ物にならない火力が(ほとばし)り、首から上を硝煙と爆風に包み込まれた相手は、一瞬だけ力を失ったかのように高度を下げる。


 しかし、棚引く煙が周囲から消えた時、頭部の半分が吹き飛ばされたにも関わらず羽ばたき、なにごともなかったかのように再度上昇しようとしたが……


 【……俺が、何も考えずにグルグル回ってた訳、ないだろう】


 そう言い終えるや否や、直下のアメリカ軍機から発射された、膨大な弾頭の嵐が相手の身体を包み込み、その姿すら見えなくなる。


 三田機の放った銃弾の十倍相当の炸裂徹甲弾が、容赦なく飛竜種の全身を隈無く破壊し、翼の皮膜があっという間に削り取られた皇竜種は力を失って墜落していった。





 

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