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⑧機上の青燕

この回は青燕視点です。菊地一尉以外の語り口調でお楽しみください。

 



 【乗り心地はどうだ?……何せカズン専用みたいなシートだから、乗り心地に多少違和感があるかもしれんが……まぁ、暫しの我慢だ、耐えてくれ】


 菊地一尉に気遣われてしまったが、安定した操縦と複座機の特性か不満らしい不満は無かった。時々、前の席から身を乗り出してカズンさんがこちらを見ながら、


 【チンイェン、お腹空いてる? おやつ、あるから、いつでも言って、ね?】


 等と、やはり気遣ってくれる。しかし、幾ら何でも非戦闘時とは言え、戦闘機上で飲食するなんて……。


 ※※中国では機上での飲食は第二次大戦以降行われていないと思われます。フィクションの当作品でも概ねその方向で執筆いたします※※


 私は指先で摘まんだ菓子をユラユラさせながら、(……ホントに要らないの?)と言いたげに寂しげな表情のカズンさんの顔と、その慣れ親しんだお菓子(しかも私の好物のアーモンド味!!)を交互に見ながら……


 ……意を決して、吸気マスクを取り外し、手渡される茶色の焼き菓子を受け取り、その一片を口の中へと放り込んだ……。




 カズンさんに貰ったお菓子を咀嚼しながら、考えていたのだけど……


 それにしても、何か隠し事をしていたから……か? 余す所なく……話している筈なのに……何だかモヤモヤする。


 これはきっと……お互いがもっと打ち解けて話をするべきなんじゃないか、と思う。普段なら周囲の視線や聞き耳を立てられてはいまいか? と慎重になってしまう自分をもっと解放して、踏み込んだことを話さないと……っ!


 ……で、でも……何を話したらいいんだろう。気になる事……ファッション? うーん、そうじゃない気がする……あ、そうだ。カズンさんって、好きな人は居るんだろうか。気になってきた……じ、じゃあ早速聞いてみないと……


 【……それにしても、中国は何故シルヴィ達を受け入れなかったんだろうな。チンイェンは知っているか?】


 ……先を越されましたっ!!


【……それは……私見が入っても良いのなら、《シルヴィ達は()()()()()()()()()()()()()》からだと思います】


 そこまで言った瞬間、自分の発言がいわば国際問題に発展しかねない内容だと気付き、二人の様子を窺ってしまった……。


 それはそうだ……まさか自分達が幽霊だと盲信されている事実を知ったなら、私なら悲しくなるだろう……。


 【何だ、そんな理由だったのか】

 【チンイェン、私、幽霊、違う】


 意外にあっさり!!それに気にしている素振りもない!!


(……何とも軽いものね、シルヴィって……風と縁深いとか、妖精みたいなものかな?)


 改めてそう見直してみると……次々と菓子を口に運び、菊地一尉の身体を粉だらけにしていく姿は……確かにイタズラ好きな妖精にも見える。


 そんなことを考えながら、音速を超える速度の中、景色の流れる様子も遠すぎて非現実感に包まれたまま、空の真ん中を切り裂くように進んで行った。






 昼下がりの今、私は巨大な白亜の城のような雲を目の前にしていた。これが夕暮れならば、真っ赤に染まった巨大な城のように見えただろう。


 真上を見上げれば、大気の薄さで群青色の空が迫り、眼を凝らせば星の瞬きすら視界の端に見えるかもしれない。ここはそんな高高度の場所……。



 ちゃぷ、ちゃぷ……ゆぅら、ゆぅら……ぴちょん。


 信じ難いことだけど、まさか中が見えないマジックミラー状の巨大キャノピー越しに、外の絶景を眺めながら入浴出来るなんて……旭本(にほん)人ってホントにお風呂好き!! いや、これは完全に取り憑かれてるとしか言えないわ……。


 その光景は一言で言うと、真っ青な大空の真ん中に身を投げ出しながら天空と地平線とを一度に眺め尽くす……そんな所だろうか?


 しかもそれを温かな湯に漬かりながら、浴槽の端を枕にして……ふぅ~♪


 「天堂天堂~!如果這樣的每天進入著、只是淋浴感到有點欠缺變成~!!《意訳・極楽極楽ぅ~♪こんなの毎日入ってたら、シャワーだけじゃ物足りなくてやんなっちゃうわよ~!!》」


 【……チンイェン、お風呂好き? だったら、また、いっしょ、入ろう!!】


 思わず零れた本音に、私の横で同じように湯に浮かんで居たカズンさんが提案してくる。むぅーん、これだけなら……何とか耐えられるのだけども……


 私は到着後直ぐに手を曳かれるままに招かれた浴室(女風呂)で、お風呂一直線のカズンさんと湯船を共にしていた。


 彼女はさっさと裸になってさっさと身を清めたかと思うと「きゃ~♪¥¿∴§⊆∝¶Θэ~ッ!!」と声にならない不思議な悲鳴をあげつつ、どざぶーん!と湯船に飛び込んだ。


 シルヴィって、みんな……こんななの?


 私は唖然としながらもカズンさんに従って、服を脱いで裸になって掛け湯して身を清め、膝まで湯船に入った後……意を決して両手を広げながら眼を瞑って湯船に身を倒して、ざぶーん!と軽めに飛び込んだ……そして、景色を眺めながらゆったりと身を浸して寛ぎ始めたの……♪





 【チンイェンさん!お風呂からあがったら、次はこれです!!】


 後からお風呂を出た私を出迎えるように、きゅぽっ、と千枚通しで紙製の蓋を取り外しながらカチリ、と二本の瓶入り飲料を鳴らして手に持つカズンさん。


 【それは何?……ピンク、それに茶色……まさか、ぎ、牛奶……!?】


 瓶には漢字で《○○牛乳》と書かれていたので、たぶん牛奶……だとは思うけど、どんな味何だろうか……?


 【カズン、好きなの、コッチ、イチゴ牛乳!! コッチ、コーヒー牛乳、ちょこっと、苦い……でも、ドッチも甘くて美味しい!】


 鼻息粗く差し出すそれは、何でも「お風呂入る、汗かく!!水飲むの、すごく大切!!」……らしい。


 お風呂からあがって喉が渇いてるなら、水飲めばいいのに……。


 私は戸惑いながら、茶色いコーヒーとやらを受け取り、腰掛けに身を預けて口を付けようとした瞬間……!?


 【チンイェン!!お風呂あがり!!儀式!!これが大切!!】


 ガッ!!と肩を掴まれいつもと違い力強く宣言しながら、カズンさんは立ち上がるように私を促して、


 【脚、かたはば!!手、腰!!目、ちょこっと上!!】


 自ら実演するように立ち上がったまま、ガキ!ガキ!ガキン!!と音がしそうな位にしっかり且つハッキリと声に出しつつポーズをし、


【……一気に、飲みゅッ!!…………、……、……、……ッ!!ぷふぅあぁ~~ッ♪】


 ……宣言の最後が終わらないうちに口をつけた瓶から、一気に飲み干して……満足げに口許を拭って感嘆の意を(あらわ)にするカズンさん。唇の上にその飲み物が白くくっついたまま、飲み干した瓶を私に突き出して、


 【さぁ!!チンイェンの番!!】


 ……えええぇ……やらなきゃ、いけないの?


 私は凄く恥ずかしかったけれど……キラキラと瞳を輝かせながら見守るカズンさんに申し訳なく思いつつ、


 ……脚は肩幅手は腰に、視線は斜め四十五度の虚空を見詰めッ!!



 【…………一気に喉へと流し込むぅっ!!?】

 「……なーにやってるんだ?……こんなとこで……?」


 カズンさんの一言を合図に飲み始めた瞬間……視界の隅から現れた菊地一尉さんに、盛大にその飲料を噴き出してしまった……。






「……それで、カズンに誘われるままに《正しい風呂上がり牛乳》をレクチャーされてた所、ツボって俺にぶっ掛けたって塩梅か……ま、風呂に行くつもりだったからいいんだけど……。」


 菊地一尉はそう言ったまま、気にすんな気にすんな、と言いつつ風呂へと向かい、床を綺麗に拭き上げるドローンを眺めながら、私はさっきの続きを始めることにしました……何だか悔しかったので。



 ……脚は肩幅手は腰に、視線は斜め四十五度の虚空を見詰めッ!!


 【…………一気に喉へと流し込むっ!!!】


 ごっ、ごっ、ごっ、ごっ、ごっ、……!?


 ……その瓶詰め飲料が喉を滑り落ちていくと、冷たい液体が臓腑を掻き分けて進む様が手に取るように判り、ほほぅ……と感心してしまう。


 しかも味は決して甘過ぎず、かと言って頼り無げない位に薄い訳でもなく、キチンと自己主張する程好いバランス。

 ……それでいてキリッと冷されているのだから、温ければ甘さが際立ち口の中にしつこく残ってしまうのだろうが、それはないのだから計算が行き届いているのだろう。


 ……風呂上がりにピッタリのそれを飲み干した私は、先程のハプニングからずーっと笑い転げて七転八倒したままのカズンさんに、軽く蹴りを入れました。





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