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序章




 自衛隊から【()()()】に格上げされたのは、未曾有の侵略に対して対処し切れなかったからであり、自衛より先制する方が犠牲が少なく抑えられるからであった。


 現代に於いて、侵略された事の無い自衛隊が【先制攻撃(アドバンスアタック)】の必要性を迫られた時、指揮系統の破綻が生じ混乱を極め、多くの犠牲を出してしまった。その結果、行政機関から独立した組織として産み出されたのが【防衛軍】である。





 「……各自、視覚端子の接続状況に問題は無いな? 無いなら、始めよう」


 初老の男性教導官の言葉と共に、集まった志願兵達が着座する机の上の視覚出力端末が小さな唸りを響かせ、映像を再生する。


 「……今から一年前……たった一年前だ。この映像が撮影された後、全世界規模の黒点が発生した……」



 最初に眼に飛び込んで来たのは、真っ青な空に白い雲が棚引く高高度の景色だった。その景色は航空機のキャノピー越しに見える風景だと判ると同時に、流れる雲の速さからその航空機がかなりの速度で飛行しているのだと判った。


 【……ザッ、ザザーッ……こちら≪アルファ・エイト≫……もうじき目標地点に到達する……視界には、何も見えないが……】


 緊迫感のある声が響き、室内のスピーカーから映像とリンクした音声を流しているのだと気付くが、視覚の映像に没入している彼等には現実に起きている環境音にしか思えなかった。


 航空機の中でキャノピーと機体が風を切る轟音を疑似体感し、実際に操縦しているような視点に思わず掌に汗をかく者も少なくなかった。


 【ん? ……見えたぞ、あれか……いや、台風の目……?】


 航空機……いや、単座の戦闘機パイロットが呟くと、視点が左に動き、真っ青な空の只中に存在する奇妙な黒い点へとピントが合わさる。その瞬間、黒い点から微細な粒子のような物が吐き出され、青い空へと散っていく。


 【……何だ……飛行機か? ……いや……違うっ!!】


 言葉と共に操縦桿が動き、突然、真正面から現れた飛翔体とスレスレで交差する。翼の端が触れんばかりの間近を巨大なコウモリに似た生物が横切り、乱気流に巻き込まれた機体が激しく振動する。


 パイロットが即座に操縦桿を操作するとガクンッ、と機首が下を向くと同時にジェットエンジンが唸りを上げながら急激に加速を開始し、視界があっという間に縦方向に回転する。そこからバレルロール(機首上げと横転を交えながら機体を横方向に回転させる軌道)と宙返りを組み合わせて反転し、正体不明の生物へと肉薄していった。



 【……何て、こった……竜だと……?】


 パイロットの呟きに一同は同時に息を飲む。その視線の先には、お伽噺の竜に良く似た巨大な有翼生物が羽ばたきながら、遮る物の無い大空を悠然と飛んでいた。だが、その生物は突然首を真下に向けると全身の赤い鱗を煌めかせながら翼を折り畳み、真っ逆さまに急降下していった。


 取り残された戦闘機のパイロットが、忘れていた呼吸を取り戻すと同時に、呼気に反応して酸素ポンプが作動したその時……今まで沈黙していた無線が、突如慌ただしく混乱した他の部隊の状況を流し始めたのだ。


 【メーデー! メーデー!! くそっ!! 引き離せな……】

 【管制官ッ!! 後続が喰われたっ!!】

 【嘘だろ……マッハで飛んでる戦闘機に追従してくる!!】


 

 単独で飛行していた映像元の戦闘機が、緩やかに機体を右方向に傾けると、黒点を中心に吐き出された【竜】が次々と翼を羽ばたきながら四方八方へ展開し、接近していく戦闘機に向かって集団で取り付き噛み付いたり、口から光線のような何かを発して撃墜させたりする様子が垣間見えた。


 【……バカな……ミサイルが追従していかんだと……】


 その中で、一機の戦闘機からオレンジ色の噴射光を発しながら対空ミサイルが放たれたが、目標とおぼしき【竜】に接近する事もなく真っ直ぐ飛翔し、やがて左右にぶれながら雲の下へと落ちていった。



 と、視界の隅に【※※視覚端末入力、終了します※※】という無機質な文字が現れると共に、戦闘機のパイロットの視野から切り離される。映像終了と同時に音響も止み、徐々に現実世界へと引き戻された室内の人々から溜め息が漏れる中、それまで部屋の前で座っていた教導官が立ち上がり、語り始めた。


 「……これは、あの【大厄災(ビッグ・カラミティ)】発生直後に急行した第一方面航空隊の隊長機が残した記録映像だ。初期の戦闘では……我々は【飛竜種】に成す術もなかった……」


 教導官の悲痛な言葉に、室内は沈黙する。


 彼が口にした【大災厄】は、全世界規模で引き起こされた【飛竜種】による大量殺戮の事を指している。異世界と現世界を繋ぐ【黒点】から現れた【飛竜種】は、その驚異的な飛翔力と様々なブレス攻撃を駆使し、世界中の都市で破壊と捕食を繰り広げた。動く物は人間から家畜、果ては野生動物に至るまで見境なく喰らい、殺し、焼き尽くした。


 「……そう、ここに集まった君達も見ただろう。町に殺到し、人々を喰らい、家も……職場も……何もかも、破壊した【飛竜種】を……」


 教導官はそこで言葉を切り、固く拳を握り締めた後、再び口を開いた。



 「……奴等に、家族を殺された者も、居るだろう……俺も、そうだ。だから……俺は、奴等を根絶やしにしたい……それを実現する為には、戦わねばならん……」


 彼の言葉に同意し頷く者、眼に涙を溜めながら怒りを(あらわ)にする者……各々、思う気持ちは違えども、その心中は同じであった。


 「……航空志願兵の諸君。君達は……まだ、技術も知識も皆無だろう。しかし、いずれは我々の戦力として……奴等を一匹残らず殺し尽くしてくれ!! 絶対に……一匹残らずだっ!!」


 おおおおぉっ!! と、雄叫びにも似た声と共に全員立ち上がり、拳を突き上げて教導官に賛同する。



 ……その中の一人、この物語の主人公の菊地 直也は亡き妻の敵討ちを誓い、飛竜種絶滅の為に空へと飛び立つ為の訓練を受けるのだが……



 ……彼の飛竜種との戦いの結末は、当分先の事である。


 


 

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