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3話 導き


「うん、あれを使いましょう、あの鐘よ」


 カムイはローザが指し示す先、こちらから見て王城の左の尖塔、その一番上に備えられえている大きな鐘を見た。


「あれを? どう使うというのだ?」


「もうしばらくしたら、正午を告げる鐘が鳴らされるわ。それまでにこの曇り空から、太陽が姿を覗かせるかどうか、としようじゃない」


「ふむ⋯⋯それなら良いだろう、賭けに乗ろう」


「そう来なくっちゃ!」


 賭けの内容を聞き、カムイは空を見上げた。

 雲はまだまだ厚く、とても今日一日、太陽が姿を見せるとは思えない。


「よし、では俺は⋯⋯」


「そのまま賭けても面白くないわ、ちょっと待って」


 ローザはそう言うと、大抵の男ならゴクリと唾を飲み込みながら、思わず注目してしまいそうな妖艶な仕草で、胸元からコインを取り出した。


「どっちが先に賭けるか、いつもみたいにコインで決めましょ?」


「⋯⋯それなら、(はな)からコインで決めればよかったのではないか?」


「わかってないわねー。アンタにも勝ちの可能性を与えるためよ、単純な賭けをしたところで、順当に私が勝ってしまうでしょ?」


「まぁ、今までの実績を踏まえれば、否定はできんな」


「わかればよろしい! よし、じゃあいくわよ?」


 ローザがコインを上へとトスし、回転しながら落ちてくるそれを、左手の甲で受けつつ右手を被せた。


「はいカミィ、選んで」


「表だ」


「ふふ、なら私は裏だね」


 ローザが右手をどけると、甲の上のコインは裏を向いていた。


「ふっふーん、悪いわね。じゃあ私は、正午まで太陽が姿を見せない方に賭けるわ」


「なら、俺は太陽が姿を見せる方か⋯⋯。しかし、お主とコインの表裏での賭けに一度も勝てないのは不思議だ。何かイカサマをしているとしか思えん」


「してないわよ、失礼ね。大体いつもカミィに、先にどっちか選ばせているでしょ?」


「まぁ、そうだが⋯⋯」


 腑に落ちない様子のカムイを眺めながら⋯⋯。

 ローザは、表情にこそ疑われた事に対しての不満を浮かべていたが、内心ではしめしめと思っていた。


 もちろんローザはイカサマをしている。

 タネは単純で、右手を被せる刹那の瞬間、左手に落ちたコインの感触で表裏を見極め、右手に握り込んだコインを反対の面にして左手に置く。


 つまりローザの左手の甲には、右手を乗せている間、表裏二枚のコインがある。


 そして先にカムイに選ばせ、右手を外す時に余分なコインは回収し、自分の勝てるコインだけを左手に残すのだ。


 今回もわざわざ太陽が姿を見せるか見せないか、といった賭けを先に提案したのも、コインの表裏を賭けるだけとなると、これまで勝ったことのないカムイが乗ってこない恐れがあったからである。


 そして──実はカムイもまた、「彼女は間違いなくイカサマをしている」という事実に、以前から気が付いていた。


 カムイの眼力は尋常でなく、宙を飛ぶ蠅でさえ止まって見え、易々と箸で掴むことができる。

 コインがどちらを向いて手の上に落ちたのかを見破ることなど、それこそ止まっている物を確認するのと同様だった。

 だが、詳しい内容こそ解らずとも、彼女が行うイカサマの手際よさに感心し、見物料を支払うような気持ちでこれまで賭け金を支払っていたのだ。


 そして、今日敢えて賭けに乗ったのは──フィアナへと自分の慕情を伝える事に対して、賭けを口実とすることで、踏ん切りをつけたかったのかもしれない。


 もし提案されたのがいつものように、ただコインの表裏を当てるといった、単純な賭けなら断っていただろう。

 だが、運を天に委ねるような賭けなら、どちらに転ぼうが正に天の配剤だ、それなら承諾しても良かろうと思ったのだ。



 そのまま二人は、正午の鐘を待つ。

 並外れた視力を持つローザの目は、遠くにある王城の尖塔に、鐘を打つために登ってきた兵士の姿を捉えた。


(よーし、いいわよ。ちゃんと言いつけ通り早く来てくれたわね)


 実はローザは、ここに来る前に念には念を入れ、兵士に多少の色仕掛けと共に金を握らせ、本来の時間より少し早く鐘を鳴らすことを依頼していたのだ。

 どうせカムイはフィアナのことに関して、説得しても首を縦に振らないだろうと思った。

 ならば賭けに誘い込み、勝ちを取り立てるようにして、彼とフィアナの仲を取り持とうと考えたのだ。


 兵士が鐘を鳴らすためのレバーに手を掛け、引こうとした正にその時──。


 雲の切れ間から太陽が姿を見せ、一筋の光が剣塚を照らすように降り注いだ。


 ごぉおん、ごぉおんと、少し遅れて、偽りの正午を告げる鐘の音が、王都に鳴り響く。


「おお間一髪だ。ローザ、お主との賭けに初めて勝ったぞ」


「こんなことって⋯⋯」


 茫然自失といったていで呟くローザと対照的に、カムイは晴れやかな表情で、嬉しそうに声を上げた。


「これではっきりと心残りも晴れた、礼を言うぞローザ」


「こ、こんなのおかしいわよ、私がアンタに賭け事で負けるなんて! もう一回!」


 彼女の粋顔(すいがお)が珍しく歪むのを見ながら、カムイは満足そうに言った。


「はっはっは、ローザ、お主らしくもない。散々言われた言葉、ついにお主に返せるぞ。『賭け事の勝ち負けは、例え戦神様といえども覆せない』とな」


「くっ⋯⋯」


 得意気なカムイを見ながら、ローザが歯噛みする。


 事ここに至れば仕方がない、フィアナには悪いが、ローザはこの場で出来る限りの事はやったと思った。

 その上でこのような結果なら、もう、二人の運命は天が決めたことなのかもしれない。


「⋯⋯ハァ。もう好きにするといいわ。だけど、どこに向かうのか、それぐらいは教えてくれたっていいでしょ?」


「ふむ、どこに向かうか、か⋯⋯」


 カムイは答えに窮した。


 実は、まだ行き先を含め、今後のことは何も決めていなかったからだ。

 カムイはローザへの返答を考えるため、ふと、壁に刻まれたレリーフの地図に目をやると⋯⋯。


 地図の一点に、まるで「ここに行け」と指示するが如く、光が射している。

 カムイは驚き、どこからその光が発しているのか探した。

 そして、その正体に気が付くと、ニヤリと笑みを浮かべた。


 先ほど自らが置いた剣が、陽光を壁に刻まれた地図へと反射していたのだ。

 カムイはそれを目の当たりにして──愛剣が最後に、自分の行くべき場所を伝えてきたのだと確信した。


「俺が向かうのは、あそこだ」


「あそこって⋯⋯え、えーっ! ア、アンタ本気で言ってんのかい!?」


 カムイが指さす先を見て、ローザはそう言って頭を抱えた。


 光が当たっていたのは、深淵の森、その前人未踏の深部。

 そこは別名『迷いの森』や『人食いの森』と怖れられる場所。

 高名な冒険者ですら、深部からは生還を果たした者は皆無とされる、まさに禁足地と呼ぶに相応しい場所であった。


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