第八話 生産職人
「こんにちはー! 久しぶりだね、おじさん!」
噴水広場の端っこ。
初日にアイアンフルセットを買い揃えた露店に、アマリアと一緒にやってきた。
あちこち探したけど、いい装備を売ってるお店がなかったんだよね。
初期街のせいか、安かろう悪かろうばっかりだったから。
「君はあの時の……まだログインできてたのか」
「ヤダなぁ、私が何したって言うのさ?」
「もしかして、初心者セットでお金を稼いだことを言われているのでは?」
あー、そういうことか。
でもそんなに大した金額じゃないし、さすがにBANまではいかないでしょ。
「大丈夫だよ、運営さんからは何も言われてないから」
「そうか、ならいいんだが……。失礼なこと言って悪かったな」
「わかったならいいよ。それでさ、今日はこのアマリアの装備が欲しくてきたんだ」
「アマリアでございます。お見知り置きを」
「これはどうも、ご丁寧に。俺はガブエルだ」
ガブリエルをもじったネーミングかな?
ゴツい感じのアバターとよく似合っている。
漫画肉をガブガブしてそうな雰囲気あるし。
「私はシェリーだよ! よろしく!」
「シェリーもよろしくな。それで、どんな装備が希望なんだ?」
「アマリアは魔法使いだから、MNDに補正がかかる奴が欲しいな」
「予算は?」
「300万ぐらい」
予算を告げた途端に、ガブエルの顔が引きつった。
あれ、そんなめちゃくちゃだったかな?
「300万って……いったいどうやってそんな大金を手に入れたんだ? この前は勢いに押されちまったけど、出どころ不明の金で買い物されるのはこっちも困るんだよ」
「それなら、初心者セットをたくさん買って売ったんだよ。ほらあれ、9999個まとめて売買できるでしょ? 一時間で1000万ぐらい稼げた!」
「待て待て! そんなことしたらリアルマネーがいくらかかるんだ!?」
物凄い剣幕で尋ねてくるガブエル。
えーっと、いくらになるっけ。
1000万の100倍だから……10億か!
「たぶん10億ぐらい?」
「じゅおきゅ!?」
「うん。消費税とかあるからもうちょっと多いかな?」
「……マジでそんなにぶっ込んだのか?」
「そだよ。本当はちまちまやって1億ぐらいまで増やしたかったんだけど、あんまりやると不正利用でBANされるかもって」
「ええ。公式の機能とは言え、RMTみたいなものですからね」
「いや、それ以前にそんな大金どこにあるんだよ! 1億ゴールドなら100億円になるじゃねーか!」
家の金庫?
まあ、お金って気づいたら増えてるものだからねぇ。
いったいいくらあるのか、私自身でもよーわからん。
「ま、まあ……それはひとまず置いておくとしてだ。それだけ高級な装備となると、いま手元にはないな。そもそも、そんなにたけえ装備はめったに売れねえから、商品として持っておくには向いてねえんだよ」
「あー、そうなんだ。でも参ったなぁ、おじさんのとこならいいの売ってると思ったんだけど」
「すまねえな。あー、そうだ。生産職のトッププレイヤーを紹介してやるから、そいつのとこへ行ってみたらどうだ?」
お、それはいい!
その人なら、私が持てあましているゴブリンヒーローの素材も使いこなせそうだ。
「ぜひ教えて!」
「いいぜ、ただ一つ条件がある?」
「何かな? 紹介料とかがいるなら、払うよ」
「フレンドになってくれねえか? シェリーはこれからぜってぇ何かやらかすだろうし。一枚かんでおきたくてよ」
「やらかすって心外だなー! でもいいよ。なろう!」
「では、私も登録させていただきましょうか」
三人で互いにフレンド登録をする。
いやー、友達が増えるっていいものだね!
……決してリアルで友達が少ないからとかじゃない、決して。
「じゃ、ついて来てくれ。あいつの工房はわかりにくい場所にあるんだ」
手招きに従って、街の路地裏を奥へ奥へと進んでいく。
次第に人影はまばらとなり、プレイヤーはおろかNPCすら見かけなくなった。
こりゃまた、ずいぶんと辺鄙な場所に工房を構えてるなー。
生産職のトップなら、通り沿いの物件ぐらい買えるだろうに。
「ずいぶんと歩くね」
「ああ。目立つ場所に店を持つと、変な客がくるらしいからな」
「有名税というやつですね」
「そうそう。だから、あえてわかりにくい場所にして知り合いだけ招くようにしてるんだと」
隠れ家的な名店ってやつだねー。
そうまでしている店となると、ちょっと期待が持てそうだ。
いったいどんな人なのかな。
気難しい職人さんとなるとちょっと話しにくいから、優しそうな人がいいんだけど。
「着いたぜ。ここが蒼風堂だ」
「見た目は完全に普通の民家ですね。これは呼ばれないとたどり着けませんよ」
「プレミア感あるね!」
「おーーい! ウィグ、さっきチャットしたやつ連れて来たぞー!」
木製の扉を乱暴に叩くガブエル。
するとオクの方からバタバタと足音がしてきて――。
「子ども?」
「ずいぶんと小さな子ですね」
「小さくないです」
どことなく眠たげな顔をした、見た目十五歳ほどの女の子が現れた。