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つきをたべたかいぶつ

作者: 曲尾 仁庵

たかい たかい やまの てっぺんに

おおきな おおきな かいぶつが いっぴき

かぞくも ともだちもない そのかいぶつは

さみしくて さみしくて さみしくて

よぞらに ぽっかりとうかぶ おつきさまを たべた


よぞらに ひとりぼっちの おつきさまを たべても

ひとりぼっちの かいぶつは

やっぱり ひとりぼっちで

おなかのなかの おつきさまは とても おもくて

かいぶつは やまを おりた


おそらに おつきさまが なくなって

おおきな おおきな かいぶつが あらわれ

ひとびとは にげまどい

かみさまに いのり

かいぶつは ひとりぼっちだった


おおきな おおきな かいぶつの あしもとに

いつのまにやら ちいさな おとこのこが ひとり

おとこのこは かいぶつに いう

きみの おなかの おつきさま

ぼくにも みせて くださいな


はじめて きく ひとの ことば

かいぶつは うれしくて

うれしくて うれしくて うれくして

おなかの なかから おつきさまを とりだし

おとこのこに さしだした


おつきさまは きらきらと かがやいて

ふわりと かいぶつの てを はなれ

てんの おそらへ かえっていった

おとこのこは とても うれしそうで

かいぶつは うまれてはじめて さみしさを わすれた


おつきさまが おそらに かえっても

おとこのこは かいぶつの そばに すわって

おつきさまを ながめていた

かいぶつは おとこのこの となりに いて

とても あたたかいと おもった


もうかえらなきゃ と おとこのこが いって

かいぶつは ひとりぼっちを おもいだす

かいぶつは しらなかった

さよならは えいえんでは ない と いうこと

またあしたね って いえる と いうこと


ひとりぼっちの つめたさと

ふたりでいる あたたかさと

どちらもしってしまった かいぶつは

ひとりぼっちは いやだ と ないて

おとこのこを やまに さらった


おつきさまは そらに もどり

かいぶつは やまへ かえり

へいわな むらに ひびく なきごえが ひとつ

わがこを かいぶつに さらわれたと

こえを からして ははおやが なく


しずかなはずの やまの てっぺんに

はげしく ひびく なきごえが ひとつ

おかあさんに あいたい と おとこのこは ないて

かいぶつも かなしくて

かいぶつは おとこのこを てに のせ

やまを おりた


こどもを さらわれた ははおやの なみだに

ひとびとは こころ うたれ

あの おそろしい かいぶつに たちむかおうと

ふるえる こころを うちはらい

てに てに ゆみを つるぎを とった


かいぶつが やまを おりたとき

ひとびとは ぶきを てに かいぶつを とりかこんだ

おとこのこをすくえ! おとこのこをすくえ! おとこのこをすくえ!

ひとびとは おとこのこを たすけるために

かいぶつに やをはなった


いくひゃくの やに かいぶつは おどろき

おとこのこは かいぶつの てを すべりおちた

ひとびとは おとこのこに かけより

だれもが おとこのこの ぶじを いのって

かいぶつの ては もう とどかない


おとこのこを とりもどして なお

ひとびとは かいぶつに たちむかう

かいぶつは どうか どうか ぶじでいて と

ただ ねがいながら

やを あび つるぎを うけて

やまへと にげかえっていった


ひとびとの ちからが

かいぶつを やまへと おいはらい

ははおやと おとこのこの さいかいに

ひとびとは こころの そこから

よろこびと おいわいを うたった


とおくから ひびく よろこびの うたが

かいぶつに おとこのこの ぶじを しらせる

かいぶつは やまのなかで ひとり

さみしくて さみしくて さみしくて そして

よかったと おもった


へいわになった まちの はずれに

ちいさな ちいさな おとこのこが ひとり

かいぶつは ほんとうに

わるい ばけものだったのか と

きょうも おそらにうかんだ おつきさまを みあげる


たかい たかい やまの てっぺんに

おおきな おおきな かいぶつが いっぴき

ひとりぼっちの かいぶつは

さみしくて さみしくて さみしくて

きょうも おそらにうかんだ おつきさまを みあげる


つきは しずかに せかいを てらしていた

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