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片鱗お見せしてしまった。


エレノアは悩んでいた―――――


かの邪智暴虐な王子の口に合う菓子を探さねば、と。


エレノアには高級菓子がわからぬ。


エレノアの前世は地方の貧乏娘である。


ひもじい時は酢昆布をしゃぶり、アフタヌーンティーなどとは無縁に暮らしてきた。


けれども、美味に対しては人一倍敏感であった。


しかし、


「あんにゃろー嫌いなものとか好きなものとか全然言わないで丸投げしやがってー」



「エレノアもそんな言葉遣いになったりするんだねー」


「あはは…失礼」



そもそもあいつ…



「しかし、珍しいな〜リオネルがお菓子を欲しがるなんて。あいつ」


私の記憶が正しいなら…そう






「甘いもの苦手なんだけどな」



甘いもの好きの兄に反し、弟のリオネルは大の辛党。


無論甘いものは好んで食べない。


攻略の際にめんどくさかった第2の原因が甘いものを一切受け付けないところだ。


行事イベントのバレンタインであれ、クリスマスであれコイツのご機嫌取りのためにわざわざ行商人から唐辛子を調達に行く主人公ちゃんの気持ちをどうかお察し願いたい。


現実で考えてみろ、バレンタインに激辛カレーを煮詰める乙女とか悲しすぎるわ。



その点、リチャードルートはスムーズすぎて涙零れそうだった。




「どういう風の吹き回しなんでしょう。」


「うーん、リオネルのことだし何かしらあるんじゃないかな。」




リオネルが嫌いなものをわざわざ頼むような理由、か。


よりによってお菓子を持ってこさせるくらい私じゃなくても…いや私だから頼んだと考えれば。




「まさか、私の選んだ物に難癖つけて何かと私をコケにしたいのでは!?リオネル様のことだもの、ありえますわ!」


「そ、そうなの?」


「間違いありません!おのれリオネル様なんというねじ曲がった根性!!」


なるほどあの横暴王子が考えそうなことだ。


あいつは私が気に入らないから何でもいいから文句つけて虐めたいんだ!


もちろんそうはさせまいが。



こうなれば、最高にパーフェクトで文句のつけ所のないデザートをご用意してやろうじゃない。


「甘いものが苦手な相手へのお菓子か…」


柿ピーとかカラムーチョとかがあれば…って、あるわけないか。


うーん、辛いお菓子で考えようとするからダメだな…。


他にリオネルに関する情報は覚えてないのか私!?


思い出せ!!一時期は全キャラプロフィール一言一句漏れなく暗記してただろ!!




そうだ、リオネルは小さい頃からコーヒーを嗜むマセガ…変わった子供だったはず。



コーヒー味のお菓子なら種類もたくさんありそうだし!


「リチャード!コーヒー味のデザートはないのかしら?」


「コーヒー味?コーヒーってあの父さんがよく飲む苦いの?そんなデザートあるの?」


「え、コーヒーゼリーとかコーヒープリンとか…知らない、ですか?」


リチャードはきょとんとしたまま首を横に振るばかり。


この世界ではお菓子は甘いものという概念しか無いのだろうか…




確かにデザートコーナーにはコーヒーゼリーの一欠片どころか『甘いもの』以外の物は置いていなかった。


甘い以外のお菓子が無いという仮説はあながち間違いではないかもしれない。



ええーこれ以上あいつの好みなんて把握してないよ…





「なにかお探しかね、おちびさん達?」


「あ、父さん。今デザートを選んでいるとこだよ。」


「そちらのお嬢さんは甘いもの、お好きかな?なんだかしかめっ面でお悩み中みたいだが」


はっ、しかめっ面!!いつの間に顔が!!


「お、お恥ずかしいところをお見せしました!えっと甘いもの大好きです!それこそケーキ屋でバイトしてた頃賄いも残さず食べてたほどで…はっ」


何喋ってんだ私いいいいいいいい!!!!


「ケーキヤデバイト?ってなんのことだい?」


「い、いいえ!!たたたたただの言い間違いで!!ケーキ屋さんになりたいくらい、大好きでーす♡」


あ、危ないい、、中身いい歳した貧民女子高生なんだからたまに素で喋っちゃうの気をつけなきゃ…




ん?そうだ、いいこと思いついた!



「陛下、もし良ければなのですが…」




「んー♪なんだい?」


昔のえらい人はこんなことを言っていました。




「王宮の厨房を少し私に貸してください!」


お菓子がないのなら、


作ればいいじゃないの!!!!





__________________________


「よっし、挽きたてのコーヒー豆はっけ〜ん!」


小麦粉、バターにバニラエッセンス、アイスも調理器具も何でもある。逆に無いものを探せという方が難しいのでは…


まさか、こうもあっさり厨房を貸してもらえるなんて…


驚くなかれ瞬足の二つ返事。


「どうぞ、お好きに使ってくれて構わないよ。」


王宮にはやはり厨房も幾つかあるようで、そのうちの一つ…特にデザートを作るのに適した場所を貸してもらった。


「バイト帰りに死んだんだから腕は訛ってないと思うんだけどな〜」


試しに卵を片手で割ってみる。


手が小さいせいで震えてしまったものの上手く割れた。


問題は何を作るか…どうせ作るなら王宮スイーツに負けない凝ったものが作りたい。



そうだあの風景を模した物はどうだろう。


よぉーし!アイディアが決まったら行動あるのみ!!

スイーツ店バイトリーダーまで登りつめた実力見せてやる!!



こうしてテーマ『コーヒーを使った甘くないスイーツ』の作成が始まった。




----そして、一時間ほどが経過した------


「待たせましたわ!」


「…遅すぎるだろ…どこまで探しに行ったらこんなにかかるんだ」


案の定、不機嫌具合MAX状態。


あの懐かしのリオネル限定不穏BGMが聞こえてくるようだ。


「私に使いっ走りをさせようなんて人選ミスにも程がありますわ。でも、スイーツを任せたことは後悔させません。」


私は仰々しいクロッシュを被せた皿をリオネルの前に置いた。



「おい、まずは1時間も待たせたことに対する謝罪だ。こんな大袈裟ななりをしてもどうせ甘ったるい砂糖の塊だろ、残念だったな…俺は甘いものは食わん。気分を害した、ほらそこに跪いて謝罪しろ。」


「…中身を味わわずして決めつけるなんてグルメの風上にも置けませんわね。」


「なんだと?」


「私の事はなんといってもらっても構いませんがこれだけは覚えておいてくださるかしら。据え膳食わぬは武士の恥。出されたものは四の五の言わずに残さず食べなさい!!作った人に失礼です!!そうやってあなたは自分が気に入らないと少しも食べずに食わない捨てとけって生産者さんや料理人さんのことも考えずもったいないことしてるんでしょ!!」


「うぐっ」


初対面の私がここまで言うのはどうかと思うが、まああながち間違いではないだろう。


俺様ドSだの舌の肥えた辛党グルメ王子だのとゲームではぼかしてあったが実際は使用人に対して辛く当たり、気に入らないと何度でも料理を作り直させている描写があった。


今の時点で既にその癖が付いてしまっているのだろう。


まだ可愛げのある幼い今のうちから喝を入れておいても罰は当たるまい。


「一国の第二王子として恥を知りなさい恥を。そして、何が甘ったるい砂糖の塊ですって?あなたが甘いものを食さないことぐらい既にリサーチ済みです。」


「じゃあこの中身はなんだって言うんだ」



「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれましたわ!」


私は得意げに皿にかぶさったクロッシュを外して見せた。


まるでパンパカパーンとでも効果音が鳴りそうだった。



「おお…こいつは見事」


「うわ〜おいしそうだよエレノア」


「ふん!ただのチョコスフレとバニラアイスじゃねーか」


私が見せたスイーツ、それはシンプルな大小2段のスフレとその上にバニラアイス、アクセントにスフレの上にはミントが乗っている。


私はちっちっちと人差し指を左右に振る動作をして見せた。


「香りを嗅いでご覧になって。これはチョコなんて使ってません。」


その場の一同が皿に乗ったものの香りをくんくん嗅ぐ。


この特徴的な香りで大体は察しがつく。


「これはコーヒー…か」


「その通り。ですがこれだけではありません。」


私は徐に傍らにあったポットに入ったどろりとした液体を皿の中に回しかけた。


スフレはあっという間に周りを液体に囲まれ、孤島のような出で立ちとなった。


これは、コーヒーヌガー風ソース。

キャラメルとチョコレートを使ったのに甘くなりすぎないようよく仕上がった。


「これで完成!名付けて、薫る珈琲スフレのバニラアイス添え~小悪王子の秘密基地風~です!覚えていますね、小高い丘の大きな木…」


「…庭園の丘に似せて盛り付けた、ということか」


「その通り。ささっ、遠慮せず食べてみてください♡」


私の真意に気づいたリオネルはブラックコーヒーよりも苦い顔をして一口スフレを口に入れた。


「っん…!」


「どうどう?美味しいでしょ??」


「ふ、ふん!悪くは…ない。」


「もー!!素直に美味しいって言ったらいいじゃん、可愛くない」



「お前の笑えないジョークがなければ美味かったな。」


ふふんと見下し笑いをするリオネル…


くそ、皮肉のつもりが屁理屈の材料にされてしまった。


「おいしくないの?僕にも食べさせてくれよ。」


リチャードは不思議そうな顔をして一口スフレを口に入れた。


「う~ん、おいしい!コーヒーの苦い味は苦手だけどこれはとってもおいしいよ!」


「はぁ~~リチャード大好き!ありがとう、とっても嬉しい!」


もう天使!王子じゃん!王子だったわ!!


私はリオネルの時とは打って変わって満面の笑みで飛び跳ねながら喜んだ。


「リオネルもリチャードくらい素直だったらなあ。」


ちらりとリオネルのほうを見てみる。


ぶすくれた顔でこちらをやはり睨んでいる。


可愛くないなあ。



「あ、あの・・・私も食べても良いでしょうか・・・。」


その時、小さく可愛らしい声が私の耳に聞こえてきた。


私は振り返り、その声の主の姿に釘付けになった。


パッと目を惹く淡い桃色の髪、吸い込まれそうなほど丸くて大きな紅色の瞳、お人形のように整った顔に毛穴一つ見つからない白い柔肌。


間違い、ない。


彼女・・・はこのゲームの主人公ちゃん。


確か、デフォルトネームは。


「ユミリアーテ・ラック・フェアリローゼ・・・ちゃん」


「えっ?あなた、私の名前・・・。」


桃色の少女はパッとこちらに視線を向け、こちらへズカズカと近づいてきた。


「あ、え」


「いえ、そんなに身構えないで。私の名前を知っているのでどこかで会ったのかなって。」


まさか、当たり?


てかフルネームで私よく覚えてたな!しかも口に出して・・・


「あ、ご、ごめんなさい。今日が初対面です。その、フェアリローゼ、さんのことは噂で聞いてて、それで一目会ってみてそう・・なのかなって思っただけですので。」


「そうだったんですね。一度会っただけとしてもこんなに可愛い女の子のことを忘れるなんてこと私に限らなくてもあるはずないものね。」


そう言ってフェアリローゼさん、もといユミちゃん(※マジ☆レボプレイヤーが使う主人公ちゃんの愛称)はニッコリと私に笑いかけた。


え、可愛い子・・・?だ、誰?

見渡してもユミちゃんのそばにいる女の子は私くらい。


「えっと、もしかしてそれって、わ、私なんですか?」


「あなた以外に誰がいるの?」


まじかこの人。素で言ってんのか。


あなたのほうがこのモブ目よりも数億倍輝いておらっしゃいますが?


鏡見たことないの!?


しかし、彼女のほうは裏表のない純粋な眼差しで私の方を見ている。


ゲームの主人公というのは大抵、所謂『主人公補正』なるものが付与されており、普通じゃありえないほどに登場人物を誑し込んだり、特別な力を発揮できるものだ。


それを加味した、としても。


こいつは恐ろしいほどの、リチャードですら霞むほどの、天然たらしだ。


「うふふ、どうしたの。ポカンとしちゃって。」


恐ろしや、主人公パワー。


「い、いえ。そんなことよりスフレ召し上がりたいのですよね。まだ厨房に残っていますので、すぐ取ってきます!」



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