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助けてしまった。



わたし、思い出せないの!!どれだけ期待されても、今の…わたしは…あなたの好きだった夕凪姫じゃない!!



そんなの、関係ない!!お前はずっと変わってない。昔も今も夕凪に変わりはないんだ。



海に沈む夕日で赤く染まる夕凪と昔よく来た岬。


今ここで夕凪は…俺達の思い出の場所で命を絶とうとしている。





もう、駄目だよ。来ないでって…言ったのに。わたし、本当はあなたの…こ…と。


夕凪はふっとまるで宙にでも浮かぶかのように崖の先へと倒れ、そのまま海に吸い込まれていった。




夕凪っ!!


驚くほど、静かだった。



手が届かなかった。


考えるより先に動いた身体でさえ彼女の命を救えなかった。



また、彼女はいなくなった。



今度は泣くことさえできなかった。


膝から崩れ落ち、身動きが取れずにいた俺の足元で小さな勿忘草だけがただその光景を静かに見ていた。





「下巻に続くっと…嘘ー!!そこでヒロイン死ぬの!?助けるフラグじゃないんですか!?」


『勿忘草と夕凪』



大衆向けのサスペンス&ロマンス小説だ。







5年前に失踪した主人公の想い人、夕凪は地元でも名の知れた踊り子だった。


あまりに繊細で静かな舞を踊るものであるから彼女はいつしか夕凪姫と呼ばれた。



ある夏の日、主人公は夕凪と再会することになる。


彼女は失踪する以前の記憶を失っているのよね。


そして彼女は重病に侵され、舞を踊ることはもうできなくなっていた。



この2人の再会シーンはなんだかお気に入りだなー。


迷子で泣いている女の子に同時に声をかけちゃうのよね。


「「どうしたの、大丈夫?」」って。



主人公は夕凪と居られなかった時を埋めるかの如く夕凪との時間を大切にし、次第に夕凪はそんな主人公に心惹かれていく。



それから夕凪は自分の病気で死ぬこと、主人公が好きなのは過去の夕凪であることに絶望し、身を投げる。


ここまでが上巻までの物語。




下巻では夕凪が失踪した真相と空白の5年間を探るミステリーサスペンスが繰り広げられるらしいが。







上巻を只今やっと読み終えたはいいのだけど、肝心の下巻が…見当たらない。



おかしい、一緒に持ってきたはず。


あの時、本を落とした時に?



いや、すべて拾ったはず。それはリチャードもいたから気づかないということはないはず。




うーむ、消えた本の謎。



面白い、この謎は私の手で解決して見せようではないか!!





ただの本探しだというのに、まるでミステリー小説の名探偵気取りの少女がそこにはいた。







「そうだわ、読書に夢中で気にしていなかったけど人が通った気がするわ。」



まずはそいつから調査ね!!



私は辺りをよく見渡し、それらしき人影を探した。



が、人っ子一人見当たらない。




むむ、おかしい。確かに気配がしたはず。


ついさっきのことだしそう遠くに行ってない気がするのだけれど。





「まさか、透明人間…?!」



これはもしかして、大発見!!



いやでも待て待て、魔法の世界なら普通にいるとか?有り得なくない。


でも、どの文献にもそれらしき記載は見たことがないし。


この前読んだ物語でも透明人間は架空の存在として扱われてたような。






もしかして…本当に?


「世紀の大発見…面白くなってきましたわ!!!!絶対とっ捕まえてやります!!!!」




「…とっ捕まえるって何をだー?」


「そりゃあ、決まってますわ!透明にんげ…」



って、声?


「透明…なんだって?」


辺りを見渡す。誰もいない。



「おいおーい、急に黙ってどうしたー?」


やばい、居る。


確実に近くに居る。


「ずっと、いらっしゃったのですか。」



「うん、居たぞ。お前が本読んでる時からずっとな。」



ええええ、まじか。ずっと居たのか。


じゃあ、聞かれた…?私の意気込み聞いてた?


「そ、そうなのですか。気づきませんでしたわ。」


「みたいだな。何回横切っても1冊でかい本抜いても気づかなかったもんな。」



けっこうアピールしてくださってたーーーー!!!!


ほんとごめんなさい、のめり込むと周り見えなくなるとこ直します。まじですみません。



「で、透明ナントカがどうしたんだ?とっ捕まえるのか?」




え、怒ってます?遠まわしにお怒りになってます?


この俺様をとっ捕まえるってどういう了見だコラってことですか!?



「め、滅相もございません!!私みたいなへなちょこちんちくりんがそんな、できるわけないじゃないですか〜」



「ふーん、つまんねえの。」


つまんない????え、捕まえられたいの?!


自分の身の安全もわからないのに??


それともあれですか、ギリギリのスリルとか好きなタイプなんですか!?



「私に捕まえてほしいんですか?」


「ちょうど基地作り終わって暇してたからな。面白そうだし。」


あれ?馬鹿にされてる?


私、暇つぶし相手?


ってか基地って…透明人間の秘密基地!?


そんなものがあるだなんて…


まさか、その基地に透明人間たちは人間を攫って怪しい実験を…






もしかして、捕まえられるのは…私の方!?!?


「わ、私…ちょっと大事な用を思い出したのでこ、ここれで失礼しま…すわ。」


「あ、おい待てよ!!うわあっ!!!!」



「え?」



私が振り返ってそこで見たものは、木から落ちてきたであろう数枚の木板と、宙ぶらりんの男の子だった。






「そこで何していらっしゃるのですか…」


突然現れた奇怪な少年に思わず怪訝な顔をする。


「足を踏み外しただけだ。」


「そんな逆さまの状態でよく冷静に会話できますね…。大丈夫ですか?手を貸しますよ。」


私は少年にできる限り短い腕を伸ばして手を貸そうとした。



少年はふんと鼻で笑い、腕を組みながら偉そうな口調で


「お前の助けなど必要ない。さっきまでオドオド喋っていたやつが今度は上から目線で大丈夫かだと?」と言った。



なんだこの子。


人の親切をなんだと思ってんの…。



っていうか、


「今まで私と会話していたのは木の上にいたあなただったのですか。」


「他に誰がいる。お化けか何かだとでも?お子様の頭の中は幸せでいいな。」



くっ…当たらずも遠からずなだけにダメージが…!!



この生意気な口調、横暴な態度、懐かしいほどに人の親切を踏みにじるその八重歯の笑み…


こんなところでまたもや会うとは…


「おい!!聞いてるのか?俺は王族、王国の第2王子リオネル様だぞ。」


リオネル・ハル・エーデンブルク


こいつも、リチャード同様マジ☆レボの攻略キャラクターの一人だ。




銀色の髪に黒がかった毛先が特徴的な鋭い眼光の持ち主。


やはり兄弟ということで深い青色の瞳はリチャードとそっくりだ。


しかし、こいつは確か…



「お子様って、あなた私とあんまり変わらないじゃないですか。私はこれでも今年で7つです。」


「はあー?そんなちんちくりんのくせにか?3つの間違えじゃないのか。」


そんな小さかないわ!!やかましいわ!!




やっぱり、子供の時でも変わってない。



「俺は7つと5ヶ月だ。」


「一緒じゃないですか、偉そうに。」



「あーお前、俺に向かって無礼だぞ!ケイバツだぞ!!」


「そんな曲芸師みたいな格好で言われても怖くありません。それに馬鹿にしたのはそちらが先です。」


小さな娘に軽口を叩かれた怒りからかもうそろそろ枝に引っかかった足が限界なのか下から見ていてもリオネルはプルプルと震えているのが分かる。


「もう意地張ってないで手に捕まってください!」


「はあ!!偉そうに言うな!!」



あーめんどくさい!!そのまま放っておいたら頭から真っ逆さまに落ちて怪我することくらい分かれ!!


もーこれだからリオネルにだけは正直会いたくなかった!!


こんの俺様我が儘ツンデレ野郎がー!!!!!



こうなったら、主人公ちゃんが機転を利かせて言いそうなこと、全エンディング制覇のオタク知識と記憶を探して…!!


リオネルが言うことを聞くには!!






「分かりましたから、お願いですから私にリオネル様のお手伝いをさせていただけないでしょうか!!」


リオネルは顔に現れた少しの不安を隠すようにふんっと顔を逸らしたかと思うと手をこちらに伸ばしてきた。


「そんなに言うなら降りるの、手伝わせてやる…」



そして、


「せーので足外してくださいね。せーのっ」


「うわああっ」


「ぐえっ」




只今の状況、処理中。


私は少し自分のことを見くびっていたようです。


筋力足りなさすぎか…と。


一瞬にしてそれに気づいたはいいが時すでに遅し。


そして、私はリオネルを支えきることができず、謎のラリアットを食らい、偉大なるワガママどら息子王子様様の下敷きとなったのです。


めでたし、めでたし。



第二の人生ここでおさらばか…楽し…かった…



「おーい!!!!大丈夫かー!?!?」


ペチペチペチペチ


「起きろー!!!!!」


ペチペチペチペチペチペチ


「う、んん」


「王族命令だぞーおきろー!!!」


ペチペチペチペチペチペチペチ


「や、もう大丈…」


ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ


「おーい」


「もう起きたんで!!いい加減ペチペチペチペチやめろー!!!」


こいつわざとか!?


完全に目合った状態でもまだ頬をペチペチしてたぞ!!



「で、何やってるんですか。仮にもレディの上に馬乗りはよっぽどの理由じゃないと許されませんよ。」


リオネルは気を失っていたはずの私が急に冷静に喋り出したせいか、しばらくキョトンとしていたがまたいつもの上から目線に戻った。


「お前が伸びたもんだから、俺が看ていてやったんだ。」


だからなんで馬乗りになる必要が!?!?


話聞いてる!?ねえ!?!?


「とにかくどいて下さい重いです。」


私は半ばリオネルを振り払う様にして身体を起こした。


「わ、悪い。」


流石に私の機嫌が良くないのを察したのか、慌ててリオネルも立ち上がる。




ゴーン ゴーン ゴーン


ちょうどいい頃合だと言わんばかりにお昼の鐘がなった。


もうそろそろ、父様のお話も一段落ついたところだろう。


そして、できれば私はもうこいつと関わっていたくはない。


もともと前世のゲーム内でも1度面倒くさすぎて攻略挫折しかけたほどこいつは人間的に苦手なのだ。



「では、私は食事会に出席しますので失礼致します。」


「あ、ああ…」




腰の抜けた声だけこぼれたのが聞こえたが振り返る理由には到底ならない。


もう二度と会うこともないでしょう、これこそグッバイ。



さあ、美味しい食事を頂いて帰りましょう!!












木から降りられなくなった子を助ける



そういえば、そんなこと前にも…


今世のことではない、前世の


もしかして誰かのイベントで似たような…












この時は知るよしもなかった。


私がこの乙女ゲーム、最大のイベントフラグの一つを



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