考えすぎてしまった。
それから私は王宮の中を探検して回った。
美しいステンドグラスのはめられた広間や高そうな絵画、つるつる滑る大理石の床はまるでスケートリンクのようでどれも新鮮。
別館に続く渡り廊下なんてのもある、えっとこの先は図書館?
「さすがは王宮の図書館ね。見たこともない本がたくさん…。」
思わず生唾をごくりと飲み込む。
私がトレジャーハンターならまさしくこの巨大な図書館は金銀財宝の詰まった宝物庫だ。
「適当におもしろそうな本を数冊…あ、これも!あれも面白そう!!」
数冊だけ、数冊だけ、と思っていたはずの私はいつのまにか全く目の前が見えないほどに積みあがった本を運んでいた。
「うーん、ちょっと重いかも…。」
とことこと歩く本のタワーはふらふらと千鳥足。
前全然見えないし、一度どこかで本を下ろしたいかな…
うっ、手が痛くなってきた…
その時――――――――
ドカッ
「ひゃっ」「おわっ」
バサバサバサッ
誰かとぶつかってしまった。
「ああ!申し訳ありません!!大丈夫ですか?!」
「大丈夫、気にしないで。それより君の本が落ちてしまったな。僕も運ぶのを手伝おうか。」
はいっと本を差し出す人の顔を見てみると、
ま、眩しい…!?
艶めく金色の髪、端正な顔立ち、深い青色の瞳…どこ、か、で見たことが…
まるで天使のような、美少年…あれ、私この子を、知って…
「どうしたの?」
金髪の男の子はきょとんと私の様子を不思議そうに見ている。
やだ、私人様の顔をまじまじと見つめて何失礼なことやってるの!?
「い、いえ、ありがとうございます。そうですね、私落ち着いて本を読める場所を探していて」
「そうか、じゃあ裏庭はどうかな?静かで今日は天気もいいし僕のお気に入りの場所なんだ!」
「へえ、じゃあそこがいいですわ。きっと素敵な場所なんでしょう?」
もちろんさ!とあどけない笑顔で男の子は頷いた。
それから私は男の子に連れられて、裏庭まで本を運ぶのを手伝ってもらった。
「随分と本を読むんだね。女の子は珍しいんじゃない?」
「やっぱり変、かな。ある程度の身分の女の子は嫁入りが当たり前で本を読んだり勉強するのは職に就かなきゃいけない身分の娘だけですものね。」
「ううん、僕はすごいと思う。それに女の人だって自由に勉強したり仕事したり出来る方がいいと思う。」
はーこの世界ではなかなか人間のできた子だ。
父様と同じ考えのできる人、初めてかもしれない。
本を読んでるだけで貴族の娘のくせにと馬鹿にする近所のおこちゃま共とは違うということだな。
「あなたの考えとても好きですわ。あなたはここに住んでるのですよね。王様の従者様にしては少し幼い気がするのですが。」
「ふふっ、ごめんごめん。僕は従者じゃないよ、僕の名前はリチャード・ハル・エーデンブルク。その、王様は僕のお父さんに当たるよ。」
少し気まずそうに笑いながら金髪の男の子、もといリチャードは言った。
リチャード・ハル・エーデンブルク…
え、まさか…嘘でしょう
「僕はこの国の第一王子になるらしいよ、そんな大したものでもないんだけどね。」
もしかして…でも、そんなことって
この子は…あの『マジ☆レボ~乙女と魔法の恋革命~』の攻略キャラクター
リチャード・ハル・エーデンブルクの幼少時代…
まさか私、本当にマジ☆レボの世界に転生しちゃったの…?
いやいやいやいや!!!ないないない!!!
あれは乙女ゲームの中の登場人物だし?架空の世界だし?
そもそも!!同姓同名の王子くらい別の世界なら居てもおかしくないって〜
いや確かに、髪色も瞳の色もキャラデザそのままだったような気も、しなくもないけど?
そのくらいあるある偶然偶然〜
「大丈夫?急に黙りこくっちゃって…」
いけない、考えを巡らせすぎて目の前に王子いること忘れてた!!
「ご、ごめんなさい!申し遅れました私、エレノア・ヴァン・ダルフェンスと申します。」
私は抱えた本を気にしながら軽く会釈をした。
「君、もしかして商人貴族のダルフェンスさんとこの娘さん?」
「はい、父様をご存知なのですか?」
「うん、たまにお父さんが話してくれるよ。少年時代の一番の悪友だって。」
「へ〜、父様が王様の悪友でしたなんて」
父様にもやんちゃな時期があったのですね。
しっかし、まあ〜見れば見るほどリチャード様、マジ☆レボのキャラの面影を感じる。
いやーでもまさかだよ…
「り、リチャード様は好きなもの何かありますか?」
「お、唐突だね。そうだな甘い物がすきだよ、ケーキとか。」
一致。
「ご兄弟はいらっしゃるのですか。」
「一つ下の弟がいるよ。」
一致。
「えーっと、ご趣味は?」
「乗馬とか。最近は映画を見るのも好きだな。」
一致、一致、一致―――――――――!!!!!!!
うっそでしょ、公式プロフィール完全一致だよ!!
まじなのか…本当の本当に私は
マジ☆レボの世界に、転生してしまったのかもしれない。
――――――――――――――――――――――――――
少しの雑談を交えながら少し歩くと城のちょうど裏側に出た。
爽やかな風と芝生の香りが鼻を掠める。
「着いたよ、ここが王宮自慢の庭園だ。」
「わぁ〜すごい!!」
手入れの行き届いた大小様々な木々
石畳で敷かれた道とそれに沿うように美しく整列した鮮やかな花たちはまるで庭園の奥へと迎えてくれているよう。
時を表すかのように静かに流れゆく小川。
庭園の中心に佇む池。
まさに王宮の庭だ。
「じゃあ、僕はもう行くね。別のお客さんを待たせているんだ。」
「ええ、ここまでありがとうございます!!」
にっこりと優しく微笑み、小さく手を振った。
さすが王子。去り際まで抜かりない。
私は庭園を少し歩き回り、読書に丁度いい木陰を見つけた。
「ここなら日差しも気にならないわね。」
そして、積み上がった本から一番上の本を手に取った。
『勿忘草と夕凪』緑の表紙の分厚い小説だ。
私は小説をパラパラと捲りながら、再び自分の状況について考えを巡らせることにした。
それにしても、ここは本気であの乙女ゲームの世界なのだろうか。
まだ偶然で片づけることはできないのか。
1つ、この世界がマジ☆レボの世界であると決定するには疑問が残る。
マジ☆レボという乙女ゲームにはエレノアなんてキャラは登場しない。
主人公やサブキャラクター、ライバル、悪役令嬢に至るまで今の私と容姿や境遇が一致する人物が私の知りうる限りいない。
随分前にプレイしたゲームだし、リメイク版も出る予定だったのにプレイする前にあえなく絶命したもんだから確定的なことは…まだ言えない。
でも、幼少時代にリチャードと偶然出会っているなんて重要キャラの役回りと考えるのが妥当だ。
私は元々いないキャラなの?