ご招待していただいてしまった。
―――――――――――――次の日
「エレノア様!!!早くお目覚めになってください!!!!!」
貴族の娘の朝は早い。
貴族といえど、その風格と尊厳を保つためには超ストイックな生活が求められる。
「何時だと思ってんですかああ!?王様に寝坊したで通じるとでも思ってんですか!!」
この辺で夕日をバックにプロフェッショナルのテーマが――――むにゃむにゃ…
「いい加減にしないとこの扉、蹴破りますからねええええ!!!!!」
ああ、違う違うううん、それ情熱大陸やないかーい…ぐぅー
「エレノア様のためですからね!!うおおおおおああああ!!!!!!」
ドゴォオオオオオオオオオオオオオン
「ひえええええ!!!ごめんなさいいい情熱大陸でもいいですううううう!!!!」
「まったく、何寝ぼけてんですかエレノアお嬢様。さっさと準備をなさってください。」
「へ?」
まず今の状況の把握を半分眠った頭で試みた。
私は確かとんでもない轟音に驚いて飛び起きた。
そしてあそこには確か廊下に続くドアが…あ、あれれ?
「メイドのリルコさん、メイドのリルコさん、私の記憶ではあそこに扉があったはずなんですけどいつから吹き抜けに変わってしまったのでしょうか。」
「お嬢様、気にしたら負けというやつですわ♡」
リルコは少し強引なところはあるが愛嬌はあるほうだ…が、今日はなんだか愛嬌のかけらすら感じない笑顔で私に身支度をすることを促す。
「私はお部屋の片づけをしますので急いでくださいね。洗面所でくれぐれも寝てはだめですよ?はったおしますよ?」
「物騒すぎるから!!」
リルコはふふっ冗談ですよ~と私の部屋の扉だった物の欠片を片付け始めた。
リルコはメイドでありながら身体強化系の魔法の使い手だ。
かつ言いにくいだろうことでも誰にでもずけずけと言ってしまえる性格、教養の高さから私のお目付け役を任されている。
だから、私のだらしないところには強烈な喝(物理)がしばしば飛んでくる。
本を読んでないときは基本的にひたすらわんぱくな自由娘になってしまう私にはうってつけなんだろう。
もう慣れたけど、普通の子ならすぐに根を上げただろうな…
おそらく魔法の先生もリルコに決定かな。
私は身支度をすべて終え、朝食を取り終えると自分のクローゼットのドレスを物色し始めた。
「この前の誕生日にもらったやつがいっぱいだあ。食事会ってどれならいいんだろう。」
「二段目の右から五着目が良いかと。あと、10分で出発ですよ。」
「リルコっていつも私についてくるよね。こんなドレスもらったかしら。綺麗だけど。」
「あと7分ですよ。急がないと私が着せちゃいますよ~。」
「いい!!大丈夫ですー!!」
何とか出発の時間に間に合い、一息吐く。
結局あのドレスにしたけど、高そうすぎて食事に絶対集中出来ない。
一目見た瞬間にはっと覚めるようなゴシックブルー...いや、どちらかといえば藍染の方が近いだろうか、キラキラと散りばめられた水晶の欠片は腰元から段々になったフリルと共に縫い付けられ、それは光を反射してキラキラと深い青の中で光る。
それはまるで星空の小波。
間違いない。
えげつないくらい高いヤツだよこれ。
私が持ってるやつと比べても段違いのやつだわ。
私がどうやってドレスに食べ物をこぼすまいかと模索しているうちに馬車はいつの間にやら王宮に辿り着いていた。
「エレノア、着いたよ。」
馬車を降りると今はちっこい私もさらにちっこくなったかのように感じるほど巨大なレンガ造りの建造物がお出迎えしてくれた。
さすがは国王様のお家、おとぎ話に出てくるお城をそのまま再現したかのような立派なお城だ。
私は少しだけ浮き足立ちながら、お城の中を進んでいく父様の後ろを付いて行った。
父様は王宮の使用人に案内されて、王様の居られる部屋へ招かれた。
部屋の先では王様と王妃様直々に出迎えてくださった。
「よく来てくれたな。お前にしては珍しい。堅苦しい食事会などまた何かと理由をつけて来ないものだと思っていたよ。」
王様は父様の顔を見るなり、意地悪な笑みを浮かべた。
「お招きいただきありがとうございます。ですが、仕方ないですね…来なくても良かったのであれば、今すぐ失礼致します。」
父様は私の手を引き、すぐに方向転換して帰ろうとした。
「ちょ、ちょっと父様っ!?」
私が父様を制止しようとしたその時
「わっはっはっはっは、やはりお前は相変わらず口が減らないなぁウィル。」
王様は急に大声で笑いだし、何となく嬉しそうにしている。
「殿下の方はお口が増えていらっしゃるようで。それでは。」
「待ちなさい、私の機嫌を損ねては君の仕事に支障が出るのではないのかな。」
「それとこれとは関係ないです。どうやらこの場に長居しては娘に悪影響を与えそうだ。」
いつも穏やかな笑顔を保ち続けている父様も今日はなんだか引きつっているような気がする。
「ほうほう、君は自分の地位が惜しくないのか。私は君をどうとでもできる。無論、君の娘さんたちもね。」
こ、これって王様怒ってる、のよね?ど、どうすれば!?
「と、父様…」
父様の顔を見上げると…
笑顔が、消えていた。
「…あの泣き虫ライ坊が随分と偉くなったもんだなぁ。権力ちらつかせて楽しいか?」
「懐かしい呼び名だ。私がそんな横暴なこと、本当にできるとでも?」
「まあ、んなこと最初からハッタリだって分かっている。だがな、嘘でも俺の愛娘に手を出すような言い草はやめろ、身体と頭がサヨナラしたくなければ…な。」
え、ええ!?えええええええ!!!!
あの、優しい父様が!!誰より紳士な父様が!!
言葉遣いは最も注意しなさいといつも言っている父様が!!??
荒っぽい口調で鋭い眼光で怖いくらいの剣幕で…
王様に悪態をついていらっしゃる…。
「おお、怖い怖い。言葉遣いは直したんじゃなかったのかい?ま、その喋り方も久しぶりだね。」
「お前がむかつくこと言うからだろ、あからさまな煽り方しやがって。娘の前でとんだ醜態だ。」
父様ははぁ…っと深いため息を吐いて、ドカッと近くのソファに座った。
私はとりあえず父様の隣に静かに座った。
「ごめんな、怖かったなエレノア。取り乱してしまって、怯えさせてしまった。」
父様はいつもの穏やかな顔に戻ると私の頭を優しく撫でた。
「いや〜私も申し訳ない。君の父様を少しからかいたかっただけなんだ。怖がらせてしまうとは。」
王様は少し笑って私に向かって頭を下げた。
「そ、そんな国王殿下、頭をお上げください。元はと言えば、父様に殿下の誘いを断らせてしまった私にも責任はあります。食事の申し出を断ってしまったことの殿下のご不満も重々承知しております。こちらこそ再度招待していただきありがとうございます。」
王様は一瞬驚いたような顔をしたかと思うと急に大声で笑いだした。
「はっはっは、いや〜ウィル!できた娘さんじゃないか。」
「エレノア、こいつに気を使う必要は無い。」
「とっ、父様!!ダメじゃないですかこいつだなんて」
「大丈夫だよ、だってこいつは」
「私たちは…古い友人だからね。」
…え?父様と、国王様が?
でも、たしか父様は…
「『どうして元平民と、国王が友人同士なのか』不思議に思ってる顔だね。」
「腐れ縁だ。誰が友人だ。」
「わぁひどい、傷つくなあ。まあ、ちょっとした縁でね。食事の時にでも話してあげようかな。」
「おい、ライアン…。エレノア、私は殿下と少し話がある。食事の時間まで外で遊んできなさい。」
「はい、父様。」
私はちょっとのわくわくを胸にその場を後にした。
いざ、王宮探検だ!!—――――――――