起こしてしまった。
目が覚めてみれば、見慣れているはずの天井。
まだ、外は暗い。ほんのり月光が窓から差し込む。
体を起こしてみると、額から一筋の汗が滴り落ちた。
じんわりと滲んだ汗が何となく気持ち悪い。
ベットから出ようとすると、足に重たい感覚があった。
暗い足元をよく見ると、一人の女性がすうすうと寝息を立ててベットに突っ伏して眠っていた。
しかし、先ほど私がベットから出ようと足を動かしたために起こしてしまったようだ。
目を覚ました女性は寝ぼけ眼で私のことを見ると、ほっと安堵の表情を浮かべた。
「ああ、よかった。もう起きないんじゃないかって心配しちゃったわ。エレノア、気分はもう大丈夫なの?」
「大丈夫ですわ。もうこーんなに元気なんですもの!」
私は元気もりもりポーズをして、へっちゃらな様子を見せつけるかのごとくアピールした。
「わんぱくなあなたが急に真っ青になって倒れるんだから心臓に悪いったらないわ。こんなとこで寝ちゃったから体も冷えちゃったし。」
「うふふシャル姉様、お風邪を引いては大変ですよ。」
「エレノアに何かあるよりましよ。」
私の今世の名はエレノア・ヴァン・ダルフェンス。
商人貴族ダルフェンス家の第二息女にあたる。
しかし、貴族といっても様々で私の家は数多ある内の真ん中か真ん中より少し下くらいの地位で父様も出世にさほど興味はない人なので政略結婚だの派閥争いだのとは無縁な平凡貴族だ。
そして私には年の離れた姉が一人と優しい両親がいる。
一人っ子だった私に姉がいるというのは新鮮なもので単純に嬉しかった。
私の姉、シャルロット姉様は私が尊敬する素晴らしい女性の一人だ。御年17歳になるんだっけ?
おとぎ話のお姫様ほどではないかもしれないけれど、姉様は十分に美しく気立ての良いお嬢さまだ。
母様似の優しい目元と父様似のアッシュグレイの髪と正義感の強い凛とした顔立ちには憧れずにはいられない。
「こんな時ぐらい父様も母様も仕事に行かなくていいのに。エレノアが苦しんでる時に、もう!!」
シャル姉様は傍らのグラスに水を注ぎながらプンプン怒っている。
「仕方ないよ、私の誕生日だけはすごく頑張って予定空けたって言ってましたよ。」
「王家の食事会やら大手取引の商談やら投げてまで優先したらしいからね...まあ父様たちを責めようにも責められないわね。」
父様も母様もいない時にずっと心配して付いていてくれた姉様には感謝しかない。
「姉様、ずっと付いていてくれてありがとう。でも、メイドに世話は任せてくれても良かったのですよ。」
「私はあなたの姉なのよ。妹の世話ぐらい私だけで十分よ。」
はあ、私はなんて素敵な姉を持ったのだろう。
もうこの時点で走馬燈の思い出決定したわ。死に際この美しい姉妹愛見せてくれればなんの未練無しに逝ける。
って、私はまだ7歳だーーーー!!!!
まだ死んでたまるか!今度こそ平均寿命まで生きて家族に看取られながら布団の上で死ぬんだ!!
「シャル姉様、エレノアは姉様のような姉を持って幸せです。」
「早くいつもの元気なあなたに戻りなさいな。」