02 信じていれば(09)
報酬を聞かれた時の事だ。
イトナは自分を攫った犯人であろうその人物へとこう言った。
「俺の願いはこうだ。君を殺せる物が欲しい」
こんな馬鹿げた最低なゲームに付き合わされた事の、せめてもの腹いせだった。
記憶がなくなる?
そんな事できるわけないだろう。
解放された俺に一体どうやってそんな凶器を届けるというのか。
のこのこ目の前に現れたら捕まえてやろうと思っていた。
『攻略者βへの報酬でよろしいですか』
「ああ」
『攻略者βへの報酬、受理しました。神殺しの剣を報酬としてお渡しします』
「は?」
合成音声が途切れるや否や、空から剣が振ってくる。
橙の柄に太陽の意匠、血の様に赤い宝玉がはめられている。
物語に出てくる勇者とかが持ちそうな武器だと思った。
「貴方は……いったい何者なんだ」
イトナは犯人へと問いかけるが答えは返ってこなかった。
自分は何かとんでもないものと関わってしまったのかもしれない。
そう思わずにはいられない。
冷や汗が流れた。
だがいくら知りたいと思っても、その正体は永遠に分からなくなってしまうだろう。
こんな事ができるのなら、おそらく本当に記憶は消される。
天才である自分でも消される記憶をどうにかするなんて事できるわけがなかった。
そもそも何がどうなるのかさえ、見当がつかないというのに。
イトナは立つ人迎の様に宙に張られた糸の上を歩く、という意味合いを込めたのだが、これでは名前負けけもいいところで、出来ない事ばかりだった。
グレン達を信じていればそれも何か分かったのかもしれない、とイトナそんな事を考える
そもそもの事だが、監禁部屋から出た後、自分と同じ境遇の人間がいるのか探してみるべきだったのではないか、そういう風にも。
ゲーム機と迷宮の関連性を把握した時、子供だという事を言い訳にして自分以外の存在を切り捨てた。
先程はグレンに偉そうに言ってはいたが、自分のせいかもしれないという事を認めたくないだけだったのだ。
あの始まりの時、ほんの少しでも他人の事を慮る意思が自分にあったら、あるいはあの最後の試練の時、ほんの少しでもグレン達の事を信じようという気になっていたら……きっと結末は違っていただろう。
事態がこんな風な終わり方を見せてしまったのはイソナの弱さのせいだった。
せめてこれからはそんな弱さで誰かを困らせる様な事はしたくない。
何が何でも完璧な人間にならなければ、失った者達に申し訳ないだろう。
だから、自分は罰を受けなければならない。
消えゆく記憶の中、イトナはそんな事を考えていた。