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01 罰(99)

ラビリンス・ゲーム第24話からのイフです。



 言い合いに夢中になってよく観察していなかったが、試練のあった部屋から移動してきたその場所は、通路でもなく普通の白い部屋だった。紅蓮が最初にいた部屋と同じ様な広さの、だ。まさか戻ってきただけなんじゃないか、と不安になる。


「これ……」


 リンカが床にしゃがみ込んで何かを見て呟く。

 血痕だった。

 赤い色の血が唯一この部屋に色を添えていた。

 だがそれは、すぐにリンカが手でさっと消してしまった。


「リンカ、それ……」

「何でもないよ」


 その表情は固い。

 追及しようとした矢先、白い部屋の白色に混ざって壁で保護色になっていたスピーカーから、合成音声のアナウンスが聞こえてきた。


『勇敢なる迷宮攻略者へ、安全権利内の挑戦者とユニットの解放を宣言通り実行します。なお機密保持の為、攻略者の記憶は消去させてもらいますので、ご了承下さい。では、迷宮攻略報酬を用意しますので、それぞれが望むものを、三百秒後の迷宮解放までにおっしゃってください』


 解放というのは嘘でなかったらしい。しかもご褒美まで貰えると来た。


 そんなのは、捕らわれの姫を魔王の元から助け出した勇者に、どこかの国の王様かなんかがやる事だろう。


「まるでゲームだ」


 ふざけていると思う。

 所詮、紅蓮達のあがきは犯人にとって暇つぶしの見世物(おあそび)に過ぎなかったのだという事が痛いほど分かった。

 信念も目的もない、きっとこれはただ楽しむための事件(ゲーム)だったのだ。


 だが、


「最後まで事情は説明されず、か」


 イトナが不満気な様子で呟いたきり、思考の海に没入していった。

 結局知りたい事は山程あるのに全てが分からないままだ。試練をクリアすれば犯人に会えるのではないかと思ったのに、それも叶わなかった。


「おい、ゲームの中の死んだユニット達ってのは本当に死んじゃったのか? それくらい教えてくれたって良いだろ!」

『攻略者αの報酬でよろしいですか?』

「何でもいいから教えろ!」

『攻略者αの報酬、受理しました』


 苛立ちを込めて叫べば、返答が返って来るより前に、考えこんでいたはずのイトナが驚いた様子でこちらを見つめてきた。


「君は馬鹿か?」

「うるさい」


 それだけでイトナは再び考え込んでしまう。


 馬鹿か、なんて今まで一度も言われた事なかったが、そんな事に対して何かを考える余裕は今の紅蓮にはなかった。


 隣で紅蓮を悲しそうに見つめているリンカの存在を意識すれば、心配をかけてしまっている事を少しだけ申し訳なく思えてくるが、それでもこの感情を抑えられそうにないのだ。


 発した疑問から数秒、合成音声は紅蓮へ答えをもたらした。


『攻略者αへの回答です。ユニットの死亡は確定しています』

「……」


 聞いて。膝から力が抜けた。紅蓮は床にへたり込んだ。

 聞かなければ良かった。駄目だった。我ながら馬鹿な事をしたと思う。愚かしい。本当に馬鹿だ。


 最初から消えたクラスメイト達を助けられない事は決まっていた。 

 そしてたった今も、紅蓮達の失敗のせいで助けられたかもしれない者達が助けられなくなった。


 積み上げたきたものが急激に色褪せていく。

 全ての事が、至極どうでもよく感じる。


 だって、意味がなかったのだから。

 努力も、信頼も、足掻きも。

 全部無意味だった。


 これで、どうやって希望を持てと言うのか。


 ……。





 紅蓮はリンカへと話す。


「リンカ、身勝手なのは承知で頼みがある」

「何かな」

「三百秒経ったら何もかも忘れるかもしれない。そんな事、本当に出来るのかって思うけど、本当にそうなりそうな気がする。だからいつか僕出会ったら、この事を思いださせて欲しいんだ。無茶な事言ってるって分かってるけど、忘れて何も知らずに生きてたくなんかできない。それでもし思いだせなくて、僕が人の命を軽んじるような最低な奴になってたら、俺を殺してほしい」

「うん、分かった」

「無理だろうけど、って……、っていいのか!?」


 リンカは笑いながら先ほどいった回答へ言葉を付け足す。


「だって、紅蓮君本気でしょ。できるかどうかは別として覚えておくよ」

「そ、そっか。ありがとう」


 こんなこと頼まれて嫌じゃないのだろうか、と思う。


「じゃあ私からも、もし覚えていられたら私のこの名前の理由と本名教えてあげるね、ずっと待ってて。約束」

「ああ、分かった」


 名前、名前か。どんなものなのだろうか。

 いい奴だと思うしそう信じているが、結局彼女の事はあまり分からなかった。


 それからきっかり三百秒。

 イトナとリンカもそれぞれの貰いたい報酬を述べて、迷宮攻略は幕を閉じた。





 消えゆく記憶の中、紅蓮は考える。


 分かっていた。

 一番誰かを信じられなかったのは、信じなければならなかったのは自分だという事を。

 紅蓮は最後までユニット達の名前を呼ばなかったし、リンカから名前以上のことを聞けなかった。

 イソナをなじる資格なんて、本当は自分にはなかった。


 だって、分からなかったのだ。

 人との距離をどう詰めればいいのかなんて。

 だから興味がないフリして、ゲームにのめりこんでいった。


 もし、次があるなら、など思えない……。

 次なんてもうない。

 失ったものは二度と返らない。

 紅蓮は、ふさわしい罰を受けなければならなかった。




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