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女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第一話 魔王さまと異世界からの来訪者
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未来予測だよ


ブレインは、手から肩まで覆う流線型のつるつるとした武装をしていた。

その背後には、人間よりも大きな二本の腕が浮かんでいる。

どうやら、彼の腕と連動して動くようであった。


「おうおう、物騒なものを出してきたな。簡単に壊れてくれるなよ?」

「ゼオルさん、後ろの腕をお願いします。僕は彼を止めます」

「了解した」


ふたりが剣を構えると、ブレインは小さな薬を取り出し、口に含む。

くっと飲み込むと、一気に雰囲気が変わった。


「君たちに、文明の利器というものを教えてやる。腕っぷしだけでは、勝てない世界があるということを」

「結局自分だって腕力のくせに大きなことを言うやつだな」


ゼオルはそうやって笑ったが、アークの首筋には冷たい汗が流れた。


「ゼオルさん、あれ、何に見えます?」


質問の意図がわからなかったのか、ゼオルは首をかしげた。

天空の剣の能力で、アークには違う景色が見えていた。


初代勇者の能力『真実を視る眼ネイキッド・アイズ』は敵の本当の姿が見える。

そこにいたのは、やせ細った研究者ではなく、鋼鉄の巨人であった。

その腕部はブレインの背後にある腕と重なって見える。


「我には見えないが、正体不明というのであれば、まずは我が手を合わせてみよう。隙を見て突撃するがいい」


アークは頷いた。


「さて、ゆくぞ」


ゼオルが重心を下げ、地面を蹴った。

魔法を使った戦闘よりも、彼女は本来こういう野生的な戦い方が得意な方だ。

突進の速度は到底目で追えるものではない。

しかし、ブレインはあっさりと反応して見せた。


「ぐっ!」


突進に拳を合わせられ、ゼオルは床を転がる。


「速いな、速い。どういう仕組みなのか、是非教えてほしいものだ」

「……何が、起きた」


頭を抑えながら、ふらふらとゼオルは立ち上がる。


「未来予測だよ。数秒後を予測し、僕の『プラヴァシ』は動く。いかに速く動いたところで、亜光速にまで対応できるこの機能を超えることはできない」

「なめるな!」

「そして――――」


ゼオルの剣を軽くいなし、払いのけるようにして、壁へ打ちつけた。


「プラヴァシは世界の狭間に存在する概念兵器だ。君たちの水準では知覚すらできまい」


悪い夢を見ているようだった。

あのゼオルが手も足も出ない。

まったく対応できずに、壁や床に叩きつけられている。


その間、アークはプラヴァシの動きをしっかりと目で追っていた。

アークに見えているプラヴァシの動きと、ブレインの背後にある腕の動きには、時間差がある。

プラヴァシは世界の狭間でゼオルをいなしており、その通りにゼオルが動いているために、この未来を予測する能力が成り立っているのだ。


つまり、今目の前にいるブレインへいくら攻撃したところで、いつまでたっても刃が届くことはない。

アークは剣を握る手に力を込めた。


「ふざけたやつだ! 全然当たらん!」

「君は頑丈が過ぎるぞ!」


ふたりともほとんど互角のようで、息を切らせて戦っている。

意識は互いに向いており、完全に部外者となったアークはそっとひざをついて集中を始めた。


天空の剣の能力は意識して使わなければ発動しない。

初代勇者の用いた、星の数ほどある能力の中から、使えそうなものを探す。


(初代勇者さまは、人智を超えた力を持っていた。必ず使えるものがあるはず……)


空間ごと断ち切る斬撃、干渉する概念ごと焼き払う雷、近いものはあれども、これでは強力すぎてブレインまで殺してしまう。


(……あった! これなら!)


アークは右の拳を握り締めた。

黒いもやに覆われた拳を、目の前の空間へ向かって叩きつける。

すると、薄氷を割るように、黒いヒビが入り、プラヴァシのいる空間への穴が開いた。


『空割り』は一時的に身を隠すための能力だが、仕組みを理解すると、それがプラヴァシのいる空間と同じものを利用したものであるとわかった。

アークは穴の中に入り、プラヴァシを見上げた。

胴から頭にかけて鳥を模しており、それに鋼の両腕と下半身がくっついているような風貌である。


アークは戦闘経験が少なく、これほど強そうな相手と対峙するのも初めてである。

まだ戦ってもいないのに、破裂しそうな心音が耳元で聞こえ、呼吸が荒くなる。


「やる、やるぞ……!」


天空の剣から、力が流れ込んでくる。

『筋力強化』『体力強化』『動体視力強化』『反射神経強化』『精神力強化』『衝撃耐性』『斬撃耐性』『魔法耐性』『常時正常化』『不燃』『不凍』『不死殺し』……。

思いつく限りの能力を数秒のうちに発動させ、プラヴァシへ剣を構えた。


「はあ、はあ、う、うわああああああ!」


声をあげ、剣を振りかざして真っ直ぐ突っ込む。

強化された体は素早く軽く、敵が反応するよりも先に懐へ入り込む。


アークが剣で胴を切りつけると、プラヴァシはよろめいた。

その様子が外へ伝わるまで、あと数秒ある。


「も、もう一発!」


アークは勢いのまま回転し、今度は足を切り飛ばそうとしたが、拳が迫っていることを察知し、高く跳んだ。

一発はそれで躱せたが、地面へ降りるまで次の行動がとれない。

空中にいるままのアークを、プラヴァシの鋼鉄の拳が殴り飛ばす。

反射神経や運動神経を駆使して、ダメージは最小限に抑えたが、肺が潰れ、息が詰まる。


「かっ……!」


アークは地面を転がりながらも、体勢を立て直す。

プラヴァシの傷口からは、白い煙が流れ出していた。

それは血のようにも見えるが、湯気のようにも見える。


プラヴァシは片手で傷を抑えながら、アークへ追撃を放つ。

今度は避けるのではなく、それを剣で受け流した。

がら空きになった胴をアークは切りつける。


能力のおかげか、まるで薪用の丸太を切るように、綺麗に切り飛ばす。

胴の別れたプラヴァシは完全に沈黙し、倒れ込んだまま動かなくなった。


「……勝った」


アークは噛み締めるように言った。


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