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女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第十六話 魔王さまと天帝
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人間は滅びたいのでしょうか

淡い魔法の光が天井付近から室内を照らしている。

王城の会議室は、がらんとして、まだ半数ほどしか席も埋まっていない。

ゼオルはいつものように、円卓の西側に座った。


「いつ来ても陰気臭い部屋だな」


ゼオルの呟きに、となりの席の初老の貴族――オルフセンが笑う。


「一応は合理的な光量なのですよ」

「もう少し明るくできんのか」


そんな話をしていると、他の貴族たちも部屋に入ってきて、円卓に着いていく。


普段なら、ゼオルは人間の会議には出席しない。

人間世界への不干渉を貫いているからだ。


しかし今回は、話が違う。

ゼオルにとっても、無視できない議題で呼ばれたのだ。


円卓の席が埋まり、しばらくして人間世界の王である、人王ノーシードが奥の大扉から現れた。

老齢であることもあり、付き人に支えられながら、中央の最も豪華な椅子に座る。


「皆、よく集まってくれた。この度は、ゼオル殿もよくお越し下さった」

「くだらん挨拶はいい。さっさと本題に入れ」


ノーシードは軽く会釈をして、話を始める。


「皆、先日の大星降りのことは知っているだろう。星導協会が星読みを行ったところ、大変な事実が判明した。今日はそれを伝え、対策を立てるための会議だ。各々、心して大導師の言葉を聞くように」


ノーシードが、円卓の東側に座る白髪の老人へ顎をしゃくる。

大導師グローリアは、長い髭を垂らして立ち上がった。


「まずは、単刀直入に結論を言わせてもらう。水鏡の盆、天体球、聖砂。大星降りの直後、全ての吉凶を占う道具が、一斉に魔月を指した。大星降りによる星読みからは、天界の相が出ている。このふたつを合わせれば、近いうちに天界からの使者が来ることがわかる」


グローリアがそういうと、室内はざわついた。

貴族たちにはその結果が信じられないのだろう。


ゼオルは黙って腕を組んだ。

天界人とは知らない仲ではない。

グローリアの言うことが真実であるなら、確実に面倒なことが起こる。


「静まれ、皆の者。天界人とて我々人間と変わらぬ。魔族よりは話の通じる相手だ」


それを聞いて、ゼオルは舌打ちする。


「――言語が通じることと、意思の疎通が行えることは別だぞ」

「それはご自身の話かな?」

「クソガキめ。二度と星が読めないようにしてやろうか?」


貴族にはゼオルのことをよく思わない人間がいる。

グローリアもその中のひとりなのだろう。


「グローリア、軽率な発言は控えよ。ゼオル殿も、すまぬが、矛を収めてくれ」


ノーシードになだめられ、ゼオルはまた舌打ちをする。


「……話を続けましょう。私が考えた対策は、天界人にこの大地を半分明け渡すことです」


また、室内がざわついた。

それもそのはずだ。

こんな提案を無条件で飲めるほど、貴族はバカではない。

人の上に立つからこそ、土地の重要性は理解しているはずだ。


「グローリア、皆が納得するような理由を」

「はい。天界人は、人間や魔族とも違う性質の術を使います。現時点で争いになれば、恐らく勝ち目はないでしょう。ならば、多少不利益を負ってでも、犠牲を出さないことを優先すべきだということです」


そこまで聞いて、ゼオルが鼻で笑う。


「バカめ。天界人がそれほど殊勝な奴らなものか。半分を差し出せばもう半分も奪いに来るぞ」

「そのために条約を結ぶのです。友好条約でも、不可侵条約でもいい」


「言葉で力は防げんぞ。奴らに人間の法の拘束が効く保証でもあるのか?」

「天界人もそれほど野蛮ではありますまい。魔族が支配する前の地上は、今よりも生命に溢れていたと聞きます。共生は可能です」

「もう一度言うぞ、バカめ。それはただ野生動物では奴らの脅威になり得なかったからだ。魔族や人間も数が少なかったから見逃されていただけだ。友好的に挨拶を交わしてくれる隣人だったなら、今この地上から一掃されているはずがなかろうが」

「あなたが戦争を仕掛けたから彼らも対応せざるを得なかったとは考えなかったのですか?」


一歩も引かないグローリアに、ゼオルは大きなため息をつき、立ち上がった。


「……話にならん。奴らと話し合いたいなら勝手にしろ。もっとも、頭を弄られて、『はい』としか返事できないようにされてしまうだろうがな」

「どこへ行く」

「くだらんから帰る。会議の内容はあとでオルフセンから聞く」


ゼオルを引き止める者はその場にいなかった。

これだから魔族は、などと陰口を叩かれようと知ったことではない。


王城からの護衛も送迎も断り、王都の宿まで歩いて行く。

歩いているうちに頭も冷えるだろうと思ったのだ。


ゼオルが部屋に帰るとブラドが迎えた。

奥のテーブルで何やら機械をいじくっているブレインと、ソファで横になって寝ているゴートもいる。


「おかえりなさいませ」

「奴ら、天界人と和平を結ぶ気だぞ」


あまり表情を顔に出さないブラドの青白い顔が固まる。


「人間は滅びたいのでしょうか」

「無知とは恐ろしいものだ。魔族にすら勝てなかった人間が、魔族が勝てなかった天界人から対等に扱ってもらえる保証などないだろうに」


魔族が支配する前、地上を支配していた天界人。

ゼオルが生まれるまで、魔族には手も足も出なかった。


「……天界人って、そんなに酷いんですか?」


ブレインが手を止めずに聞く。


「食物連鎖のヒエラルキーを想像してみればわかるが、大方の魔族よりも上だ。力も精神性もな」


その言葉にブラドも頷く。


「人間は自分に力がないから、相手が力を行使して来ることを勘定から外しがちだ」

「そんなに力の差があるなら争いは起こらないような気もするのですが」

「先程から言っているだろう。精神構造がそもそも違う。奴らに感傷はない。家に侵入したネズミを駆逐するかのごとく殲滅されるだろうな」


自分で言って、ゼオルは笑った。

そう、向こうからすれば人間は家に侵入したネズミなのだ。

家の半分をやると言われたって、元々自宅なのだから出て行けと言われるに決まっている。


「でもなんで、今なんですか?そんなに力があるならいつだって来られたはずなのに……」

「わからん。それに、来るというのも胡散臭い星読みの話だ。備えはしておく必要こそあれ、詳細は来てからでないと調べられん」


ブレインは、むう、と唸って機械をいじる手を止めた。


「さて、我はもう帰るがお前らはどうする」

「ボクはアトルシャンに用事があるので一度そっちに寄って来ます」


ブレインがゴートの肩を叩いて起こす。


「ゴートさん、帰るそうですよ」

「ん、あ、ああ? もう終わったのか?」

「みたいですね」


ゴートは先日から王都内で酒を飲み歩き、朝になって帰って来て、それからずっとこの調子だ。

付き人でもないし好きにすれば良いのだが、何をしに来たのかという気持ちにもなる。


「そういや、空間魔法のやつはまだ調子悪いのか?」


ゴートが頭を振りながら聞く。

空間魔法を使うアケディアは、魔女のキテラと一緒に暮らしているが、元々体はあまり強くないらしく、季節の変わり目にやられて風邪をひいてしまっているらしい。

魔女と言えど病気を治すことはできず、安静にしているそうだ。

便利な空間魔法だが、頼りきると移動が手間に感じる。

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