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女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第十三話 天候の竜と星の降る夜
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私でよければ

夜もてっぺんを通り過ぎ、東の空が白み始めたころ、山の下からガンドゥが羽ばたき戻ってきた。

エキドナは今度は顔を上げもしなかった。


「は、母上」


ガンドゥに先程のような覇気はなく、頭を垂れていた。


「今度はなんだ?」

「身勝手な行動をしてしまい、申し訳ありません」


意外な言葉に、エキドナも眉根を上げた。


「俺は、あなたに反発をして、袂を別ったことを後悔していました。しかし、出て行った手前、力をつけて帰る以外なく……。がむしゃらに鍛錬を積みましたが、やはり母上には敵わない。愚かな息子ではありますが、あなたさまの元へ戻ることを、お許しいただきたくございます」


どうやら、長い家出だったらしい。

エキドナは大きなため息をついて、言った。


「よい。好きにしろ」

「ご温情、感謝いたします」


まるで親子とは思えないそのやり取りを、アークは黙って聞いていた。

すると、彼の背後から、もう一匹大きな黄金色の竜と、小さな三匹の竜が現れた。


「俺の家族です、母上。子供も生まれました」

「おお、なんと……」


それまで興味なさげに相手をしていたエキドナも、身を乗り出してその子竜の姿を見る。

黄金色の竜も会釈をし、子供たちはその影に隠れた。


「まだまだ小僧だと思っていたが、立派に一人前になったではないか」


エキドナは目を細めて嬉しそうに言った。


「そうだ。お前たちもここで星を見るがいい。この人間たちと一緒にな」

「星ですか」

「うむ。もうじき、ズイ・ラータがあるようだ」

「なんと、それは俺も子供に見せてやりたいところです」


アークは軽い自己紹介をして、ガンドゥの大きすぎる手と握手を交わした。

彼の子供たちは興味深そうにアークの匂いを嗅いでいる。


「ははっ、くすぐったいですね!」

「これ、お前たちやめないか。母上の友人だぞ」

「かまいませんよ。子供のドラゴンを見るのは初めてです」


アークがそうやって子竜と戯れていると、朝になって目が覚めたであろうラメールが寝ぼけ眼をこすりながら起きて来た。


「何があったんですかぁ? なんだか、声がたくさんして……うわあああああ!」


ラメールが頭上を囲う大きな影に驚いて腰を抜かす。

それを見て、竜たちは笑った。






アークたちが山へ来てから、四日が経った。

毎夜毎晩、ずっと空を眺めているが、大星降りどころか、一本の流星すらない。

しかしそれは、来るべきに備えているのだろうとアークは思った。


五日目の夜。

とうとう、それは来た。


「あっ……」


一筋の光を見て、アークは思わず声を漏らす。

そして、それを皮切りに、空は無数の流星に覆われた。


光の涙とも言うべき光景は、恐ろしく美麗で幻想的で、しばらくの間、誰も言葉を発することなく、ただ空を見上げていた。

一時間に渡る大星降りを、アークは死ぬまで忘れることはないだろう。


興奮冷めやらぬまま、翌朝を迎え、アークとラメールは山を降りた。

その後ろでは、まだ家族の団欒が続いていた。


ガンドゥもこの山に住むのだろうか。

それとも、エキドナを連れて、別のところへ引っ越すのだろうか。


その答えはわからないが、みんなが幸せに、納得できるようになればいいな、とアークは思った。


帰り道、アークはずっと考えていた。

もやもやとした感情が心の内にあり、それが何なのか、わからなかった。

五合ほど降ったころ、ついに我慢出来ずに、アークは口を開いた。


「……ラメールさん」

「はい?」

「僕らも、家族なんですよね?」

「うえ!? え、あ、はい! もちろんですよ!」


ラメールは戸惑いながらも言う。


アークは両親が幼いころに病死して、ゼオルとブラドと三人で暮らしてきた。

ふたりともよくやってくれている。

しかし、アークはふたりに親代わりを求めたわけではない。

それはお互いに重荷になるし、良い結果は生まないと、幼心に分かっていた。

だがそれは、寂しさを感じるかどうかとは、無関係な話だ。


アークが立ち止まって足元を見つめていると、ラメールが大きな体でそっとアークを包んだ。

ひやりとした感触が、皮膚に伝わる。


「……私も、よくアークさまのことは聞いていますし、両親がいなくて、不安な気持ちになったこともあるだろうと思います。それをふまえても、アークさまは、ちょっと我慢しすぎに感じます。良い子で反抗しないのではなく、できないのではありませんか?」


その言葉は、アークの心の柔らかい部分に刺さった。

そう、反抗できない。

ゼオルやブラドに、負い目を感じているから。


「……すみません、差し出がましい真似をしてしまいました」


ラメールは申し訳なさそうに、アークから体を離そうとする。

しかし、アークはその手を掴んだ。


「もう少し、こうしていてもらってもいいですか?」

「……私でよければ、いくらでも」


静かな山道の片隅で、しばらくの間、ふたりはそうしていた。

ゼオルでもなく、ブラドでもなく。

一番遠いところにいるはずのラメールの腕の内が、今のアークには一番安心できた。

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