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女になった魔王さま  作者: 樹(いつき)
第十二話 強欲と迷宮亀
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大きい亀ですね

屋敷の庭に、一匹の大きな陸亀がいた。

最初に気がついたのは、自動で動く機械を使って草刈りをしていたブレインだった。


「亀……」


亀は警戒する様子もなく、のそのそと歩き、雑草を食む。

その背中に背負う甲羅は、まるで層を重ねたような模様になっており、全部で五つに分かれていた。


「危ないので避けておきましょうか」


ブレインは亀を持ち上げて屋敷の中へと帰る。

なかなかに重く、まるで石のようだ。


「アークくーん! ちょっとー!」


ブレインが呼ぶと、アークが奥の部屋から顔を覗かせた。


「うわっ、大きい亀ですね」


アークも驚きながら亀を見る。


「庭に入ってきていたんですよ。今草刈りをしていて危ないので、終わるまでどこかに匿っていてもらえませんか?」

「あっ、じゃあ玄関にいてもらいましょう。たしか倉庫に大きめの木箱があったので、ちょっと待っていてくださいね」


そう言ってアークが持ってきた箱に亀を入れて、中に野菜の切れ端と水を入れた皿を置いた。

亀はよほどお腹がすいているのか、出された野菜を懸命に食べている。


「可愛いですねえ」

「リクガメってほとんど草食らしいですよ」


ブレインはアークと一緒に座り込んで亀をじっと見ていた。

しばらく食事を続けていた亀は、そのうちに箱の隅へ移動して眠ってしまった。

眠る姿を眺めていると、そこへゼオルが通りかかって眉をひそめた。


「お前たち何を……」

「しっ! ゼオルさん、今眠ったところなんですから」

「そうですよ、話すなら向こうにしましょう」

「ん、いや、話があるわけでは……」


ゼオルをリビングへと押し込み、扉をそっと閉めた。


「どこで拾ってきたんだ?」

「庭に入っていたんですよ。どこから来たんでしょうね。アークくん、種類調べられます?」

「載っているかわかりませんけど、図鑑持って来ましょうか」


アークが部屋へ行こうとすると、ちょうどよくゴートが外から帰ってきた。


「そこにいる亀、誰のだ?」


帰ってくるなり、ゴートは三人へ聞く。


「誰、というと、ブレインさんが見つけた亀ですが……」

「そうか。この亀、どうするんだ?」

「え? 草刈りが終わったら外に放すつもりですけど」


ブレインがそう言うと、ゴートはため息をつき、バカにするような表情をした。


「お前、マジか。この亀が何なのか知らねえんだな」

「……なんだか腹の立つ言い方ですね。わかるんですか?」

迷宮亀ダンジョンタートルだぜ、こいつ。こんなところにもいるんだな」

「だんじょんたーとる?」


ブレインがアークたちの顔を見るも、ふたりとも知らない様子できょとんとしている。


「お前ら、本当に知らねえのか? 一攫千金だぞ?」

「そうは言うがな」

「僕らお金に困ったことありませんからね……」

「あーっ! 言ってはいけないことを!」


ゴートがアークに食ってかかろうとするのをゼオルが片手で止める。


「そんなことより、何がどうなって価値があるんですか? ボクにはただの亀にしか見えないんですけど」

「……迷宮亀ダンジョンタートルって言ったろ。こいつの体内は迷宮ダンジョンになってんだよ。一番奥までたどり着けたら、天珠っていう綺麗な真球の宝石があって、それに世の中の金持ちは群がってるんだ」

「話がさっぱり読めないんですけど。体内の迷宮とか一番奥とか。割って見たらいいってことですか?」

「いや、ちげえ。説明が難しいんだよ」


「……この中に別の世界が存在すると?」


ゼオルが呟くように言うと、ゴートは指をパチンと鳴らした。


「そうそう! それだ。迷宮を攻略して天珠を手に入れたら一生遊んで暮らせるんだぜ。それなりに知識や準備もいるが、命をかけるだけの価値がある」

「へえ、面白そうですね!」

「ゴートさんはやったことあるんですか?」


アークの問いに、ゴートは頷いた。


「一度だけな。ただ、かったるいし空気も悪いから、二度と行かねえとは思ったが」

「やりましょうよ」

「えぇー……」


目をそらして嫌そうに返事をする。

そしてすぐに、何か閃いた顔をした。


「ひとり、詳しいやつを知っている。おれもそいつに連れて行かれたが、知識は専門家にも等しいレベルだったぜ。どうせお前らは天珠には興味ねえんだろ? そいつに報酬としてくれてやるなら、喜んで協力するはずだ」

「おおっ! 専門家の登場でなんだか冒険感が出てきましたね!」


ブレインはテンションを上げて鼻息を荒くする。


「いや、何度も言っているが、そんなにいいもんじゃねえぞ……」


ゴートは本当に、心の底からうんざりした様子で言った。


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